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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
一章 生首とあまのじゃくと旅のはじまり
1/122

1.ここまでのお話です

初投稿です。拙いものですが読んでいただけると嬉しいです。

感想、評価、ブクマなどいただけると励みになります。

2020/10/4少し修正しました。


「――ぐ……うぅぅ……ぅぅ」


 呻き声をあげながら、リアは後悔していた。


 胃が、内臓が、ちくちく痛む。

 半生を振り返ればいつも不遇に見舞われていた気がする。運の悪さはいい加減自覚せねばと思う。生き残れたら。

 あと今後は安易に目の前の恩恵に飛びつくのはやめようと、リアは地面の染みを睨み決心した。




*****




 リア含む魔王調査のための勇敢なる者第十三番隊一行、通称勇者パーティは、国王拝謁後、一番近場にあるダンジョン攻略クエストを受けることになった。


 存在だけが確認されている規格外な魔力を持つ魔王。その調査ないし討伐のために、同じく世界の理とは外れたダンジョンに向かうのは当然のことだった。

 世界各地にあるダンジョンはその地の豊穣を吸い上げ、魔王へとその力を捧げている、らしい。

 瘴気で周囲を汚し、内部にモンスターを発生させる。最上層あるいは最下層にはボスモンスターが待ち受け、そいつを倒せばダンジョンは崩壊。クエストクリアとなる。


 リア達は、とりあえず手近なところから攻めていこうということで、難攻不落の黄金塔、と専ら噂の地に馳せ参じた次第である。


 その噂のダンジョンは、黄金に輝く外壁と地上から最上層が見えないほどの高さ、さらにはダンジョンそのものが渦巻いているような螺旋状のフォルムを持ち合わせている。人の手では到底作ることができない高く美しい塔であった。

 予想外に造形美が追及されたダンジョンは、それをメインに観光地と化し、近隣の村はその恩恵にあやかっているようだった。黄金は冒険者でなくとも魅了されるのだ。

 商業が発展しすぎて第一次産業から撤退したその村は、本当に豊穣が吸い上げられているのかとリアは疑う。


 肩透かしを食らいながらも村に入ると、すぐにあまり村人っぽくない見た目の村人達に大歓迎で迎えられ、大きな屋敷に招待された。

 美味い食事と村特製の栄養ドリンクを振る舞われ、さらには多少ガタがきていた装備を無料で整えてもらう。何故か無駄に豪華な彩色が施され返ってきたが、厚意(タダ)なので文句は言えない。


 翌日、村からの期待にも報いる働きをと意気込みいざダンジョンへと挑む。

 低層は順調に進んでいたが、階層も半ばに差し掛かると出現するモンスターも難攻不落とうたわれるほどの強さへと激変する。

 しかしリアが入っていたパーティは勇者の名を冠するほど強く、着実に上層へと歩を進めた。今までの挑戦者達とは違う道を辿るはず、だった。 


 強敵が囲むダンジョン中枢で、悪夢が始まった。


 村で整えたパーティの装備が待ってましたとでもいうように同時にゴミと化したのだ。

 剣は落ち、盾は砕け、鎧は崩れ、ついでにモンスター避けの魔術が施されたアイテムが壊れた。

 さらにはパーティメンバーが次々と状態異常にかかる。聖職者は毒状態になり、魔術師は睡魔に襲われ、戦士は全身が痺れ、パーティ代表の剣士は熱が出た。リアはなんだか混乱した気がしていた。


 突然そんな不運が全員に同時に降りかかるわけもなく、何某(なにがし)かの思惑が働いていたのは言うまでもない。ダンジョン攻略を為されると困るのは、モンスターばかりではなかったというわけだ。難攻不落の最大原因はなんとも身近なところにあったのだろう。


 だが、約一名除く勇者パーティの結論は違った。

 村人たちはダンジョンに魅了され、モンスターにかどわかされたと言って村人たちを責めようとしなかったのだ。

 んなわけなかろうと、絶対我欲の結果だろうと、その約一名は思ったが、ここで何を言っても後の祭りだったので、ひとまず生きて帰れたら燃やしてやると心に決める。何がとは言わない。何もかもだ。


 観光村で揃えた装備は露と消えたが、状態異常の中魔術をやりくりし、モンスターの亡骸から武器を作り出し、薬草を惜しげもなく使い、夜勤明けのブラック従業員のようになりながら凌いでいた。


 まさに不屈の精神。


 とはいえ、なんちゃって装備のせいで戦闘は勝ちこそすれ、消費時間は相当なもの。時間の感覚ももはや麻痺し、進んでいるのか戻っているのかもリアには分からなかった。

 村人たちも何日経っても戻ってこないパーティに、また全滅したものとほくそ笑んでいるだろう。


 応援も救助も見込めない中でようやく腰を下ろした頃、問題になったのは食料である。

 携帯食料が尽きた。

 かろうじて水は魔術師の生成魔術で微々たる量を生み出し分け合っていた。

 しかし空腹は限界だった。皆がお腹を鳴らしていた。

 勿論ダンジョン内に食べ物があるはずもなく。

 遭遇したのは四足歩行の家畜に似た、名も知らぬモンスター。

 豊かにまるまるとした図体を見て、誰かが言った。


『火でよく焼けば食べられるんじゃないか』


 反対するものは、いなかった。


 誰の責任かと言えば、空腹と疲労と状態異常でまともな思考回路を失った全員である。

 腹が減っていては戦えぬ、ともっともらしい理由をつけて。


 結果、パーティ全員が腹をくだした。


 運の悪いことに、聖職者が一番に倒れる。度重なる治癒術の行使により疲弊の激しかった彼女は、かろうじて仲間の微回復をすると気を失った。

 しかし、怪我とは違い残留する胃痛の原因を断たねば再び苦痛に悩まされるのは時間の問題であった。手持ちの薬草は早々に尽きているが、そもそもモンスターの実食に効果があったかは疑問である。


 吐き気と腹痛に耐えながら彼らは戦った。

 一匹二匹と強モンスターを倒し、一人二人と仲間が倒れていった。

 彼らは強かった。

 ただお腹は強くなかった。




 唯一、人より多少お腹が強かったのが、生き残ったリアである。




*****




「ふぐうぅぅぅ――お腹があぁぁぁ」


 峠は越えたものの、ちくちくする腹の痛みとわずかに残る吐き気と空っぽになった胃の喪失感に悩まされながら、リアは壁に手をつきふらふらと歩いていた。

 動くのもつらい状態ではあるが、あの場にいても仲間の放つ死臭が新たなモンスターを呼び寄せてしまうのでしぶしぶ離れるしかなかったのだ。


 よくよく考えてみれば、あの四足獣の肉は臭みが強すぎて美味さには程遠かったし、食べられるような柔らかさの部位は見た目ほど多くなくて満腹にさえならなかったし、体に入った量より出ていった量の方が結果的に多くなったし、ひとつも良いことがなかった。

 成果をみると、五人が一人になったので明らかにマイナスである。


「ふああ……いい人たちだったのに……」


 そう、今までリアが所属したいくつかの組織としては、珍しく全員がまともで真面目で親切であった。家族以外の人には恵まれない人生であった。やっと出会えたまともな運命に感動していたのに。運命を司る神にした感謝を返してほしい。


 リアは犯罪集団に囚われていたところをたまたま剣士に救われ、勇者一行選考会でたまたま素質の適性が判明し、良心の塊のようなパーティにたまたま加えてもらったという経緯がある。

 そんな人生の転々々機後の初ダンジョンでこんなひどい有様になるなど、運命とついでに世の中全てを恨んだ。生命維持が危機的な状況で悲しみは麻痺していた。


 満身創痍のリアは、鍵開けと投擲ぐらいが得意な、たった一人残った勇者である。

 戦闘もぼちぼちできるが万全時であっても一人で強モンスターを倒せるほどの強さはない。現状サポートやかく乱役をメインとしており、しかしこれからは経験値をあげて強く逞しくなっていく未来を夢見ていた。

 こんな状態で上層のモンスターに遭遇でもしてみれば、まな板の上の鯉であると思う。

 せっかく生き残っても、装備も万全ではなく一人ではまともに戦えない。

 結局は自分も餓死かモンスターのエサかしか道は残されていないようである。だとしても、そんな明日を素直に受け入れることも許されず、ダンジョン内を亡霊のように彷徨うしかなかった。


「ううぇ……死にたくないよおぉぉぉ」


 リアが半泣きのまま角を曲がったところで、今までと質感の違う紋様の入った扉が現れた。

 石造りのダンジョン内に突然つやピカの黒い扉。

 両開きの中央部に青黒く輝く宝石がはめ込まれており、複雑な柄が囲む。さらにその周囲から放射状に屈折した線が扉全体に彫りこんである。

 罠のようにも宝物庫のようにも思える扉の向こう側に、大した期待もないまま一応聞き耳を立てると、ちゃぽちゃぽと小さい音だけがある。


 ……水!!


 長いこと水分補給ができず、このままでは干からびてしまう。罠の可能性よりも脱水で動けなくなることの方がやばいとリアは扉開けを試みることにした。


 おそらく扉の紋様は魔術による結界で、そのエネルギー源が青黒い宝石なのだろう。


「ぐぬ……」


 扉を睨む。

 リアは自分の魔力がこれっぽっちもないことを自覚しており、当然ながら魔術知識も乏しい。

 パーティが生きていた時は魔術士に解除してもらっていた。正規の手続きでリンクしないと部屋の罠で即死することもあるから気を付けて、と優しかった故・魔術師は教えてくれたが。


 とりあえずリアは熱い鍋に触る時のように高速で扉に触れてみた。

 特に何も起こらないことに安心し、次は手のひらをあてる。手触りは悪くない。

 なんだ、ただのおしゃれな扉だったか、と視線を移した先にあった青黒い宝石にも手を伸ばしてみる。


「ふおぉっ」


 温風で手が押し返されるような感覚があったかと思えば、宝石が真っ黒に染まってしまった。


 変化に焦ったリアは通路の角まで全速力で逃げ、罠の発動に対して物理的には無理なので精神的に備えた。しかし激しく主張する心臓の音とは対照的に扉は静かなままだった。


 相当な時間様子を窺ったが、その後罠が発動する気配もなかったので再び扉の前へ歩み寄る。

 体当たりを繰り返してみたが動じない扉に、ふむ、と腕を組んで考えながら視線をぐるりと彷徨わし、あるところで止まった。


 リアは主に宝箱の鍵開けに使っているアイテム・ピックツールをバックから取り出し、扉の真ん前、ではなく端へ近づく。


 狙うは扉の四隅――ひっそりと己の仕事をしている蝶番だ。


 細く丈夫なピックツールを蝶番の隙間に差し込みぐりぐりとこじ開けようとする。扉は巨大なものだったので蝶番自体も大きく隙間に差し込むのは難なくできたのだが、その分丈夫でびくともしない。

 リアは続いて筒状の容器を取り出す。蓋を開けて軽く振ると、大小形状ともにまばらな赤い結晶が転がり出てくる。


 与えた衝撃に応じて炎や急速な熱膨張を起こす火石と()()()()()もの。

 普段は専用の矢の先端に入れて使うのだが、弓の方がクズと化したので、直近で使用したのはモンスターの焼肉を作った時だったか。


 極小の欠片を選んで、蝶番の隙間にピックツールを使ってごりごりと無理やり押し込むと、その内熱を持ち始め、やがて発火。

 あちちと慌てて手を離して、この後どうしたもんかとしばらく燃える様子を見ていた。

 少し考えて、四本だけ残っていた専用矢の先端に大き目の火石を詰め込み両手で掴むと、その燃えている箇所目がけて力の限り振り下ろした。

 矢尻は狙い違わず、ぼんっという鈍い音と、腹にくる軽い衝撃を放ってリアをたじろがせる。

 見ると、扉は傷ひとつついていなかったものの蝶番だけはひしゃげ、壁が爆破で僅かに崩れていた。

 おおと感動して、同じことをあと三箇所繰り返す。

 最後のひとつを爆破したところで蹴りを入れると、支えるものを失った重い扉は手前にゆっくりと倒れ、粉塵を広げた。

 その後しばらく罠の発動がないか観察したが、何も起こらないようだったので胸を撫で下ろす。


 まさかの物理的解除コンプリートである。正直できるとは思ってなかった。


 リアは部屋の中をよく確認することもなく、扉が倒れてできた穴へと滑り込んだ。

 湧き出でる水を発見し、他は見向きもせずよろよろと流水の元へ吸い寄せられていく。


「み、水ううぅぅぅぅ」


 両手ですくい上げ、口から胸元にかけてびしょびしょにしながらごくごくと胃を水で満たす。染みわたる冷水に腹の違和感もなりを潜めていく。

 ひとしきり無我夢中で飲み続け、ある程度の悲しい満腹感を得て、やっと湧き水から離れる。ふぅ、と軽い溜息をついて壁にもたれかかり、ずるずると膝を曲げ腰を落とした。

 そこでやっと部屋の中を見回した。ダンジョンの内壁と同質の壁がある。扉だけが何故つやピカだったのかと疑問に思ったが、一瞬でどうでもよくなる。それよりも重要なことがあった。


 一人きりでここまで生き残れたのは、強モンスターとのエンカウントがなかったからだ。数少ない幸運がここに。

 しかしいい加減目を逸らし続けてきたことを考えねばなるまい。


 次々に減っていくパーティで最後に力尽きたのは剣士だった。信じて付いてきた。ダンジョンに入ってからずっと信じてきた。

 道を。


「……ここどこ」


 道が分からなくなっていた。

 途中から必死だった。進むも戻るもパーティに任せていたが最終的に一人になってしまったので引き返したい。ボス部屋には脱出のための装置があるとも言われているが、魔力で起動とかなったら詰んでしまう。何より、確実にリア一人ではボスを倒せない。ならばあの長い道のりをモンスターから逃げ回り戻るほうが幾ばくか現実的、のような気がする。

 あとはどの道を選ぶか。強モンスターの跋扈する階層だしとても厳しい。つらい。

 リアはぼーっとしながら一言呟く。


「……もっと、私に力があればなあ」




『――――力が欲しいか』




 …………ああ、ついに幻聴まで聞こえるようになったのね。


 リアは勇者が死んでからずっと独り言でしか言葉を聞いていなかったので、その低い声を幻聴と断定する。

 思った以上に瀕死に近いところにいるのかもしれない。だがまあ、仲間に呼ばれたならついて行ってもいいかな、などと目を閉じた。




『――――力が欲しいか』




 再び聞こえた声にカッと目を見開く。


「んん!?」




『――――力が欲しければ、この箱を開けるんだ』




「なん……だと……」


 これはアレではないだろうか。

 求めるものに力を与えるという、神秘的な何かが聞こえてしまう病。

 具体的にいうなら十四歳の頃一部の人に流行する、発症したが最後、完治後も後遺症に悩まされるというあの病。ついには自分もアレの毒牙にやられたかと思いつつ、とりあえずは素直に宝箱なるものを探すと、ふと自分の視線が床に座っているより高いことに気付いた。


 何かの上に座っている。


 慌てて立ち上がる。

 無意識にただの腰かけの石だと思っていたそれは、よく見ると長方形の黒い箱で、ミニサイズの青黒い宝石もついている。先程倒した扉と同じ材質のようだった。

 今までの宝箱は何かしら装飾をされており一見してすぐに宝箱と把握できていたが、それらとは一線を画すような風貌。


「これは、とても…………それっぽい」


 現状を打破できる可能性にかけ、青黒い宝石に躊躇いなく触れる。

 すると同じように宝石は黒く染まり、今度は宝箱の口が僅かに開く。

 ガッツポーズをしたリアは、期待を胸に勢いよく蓋を開けた。




――――そこには、ドヤ顔で鎮座する生首があった。




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