プロローグ
沖遼太郎は涙を流しながら、両手で強く握りしめた一枚の写真を見つめていた。両親が旅行中に撮影したと思われるもので、二人は隣り合って微笑んでいる。おそらくは近くにいた観光客に撮影を依頼したのだろう、どこか気恥ずかしそうな表情を見せている。
先程から、遼太郎は母親の姿に注目し続けていた。涙で視界が揺らぎ、母親のにこやかな表情を認識することも危うい。それでも、遼太郎は嗚咽を堪えながら写真に集中し続けた。そうすることで、全てが解決できると知っているからだ。
最後の手段として、こうするしかないのだと強く心に刻む。遼太郎自身が自殺することも考えた。だが、それで解決できるとは限らない。うまくいかなかった場合、彼女はまた同じ苦しみを味わうことになる。それだけは避けなくてはならなかった。これまでに費やした時間、労力、知りたくもなかった事実。それら全てを犠牲にしてでも叶えたいことなのだ。ここまできた以上、遼太郎の決意が揺らぐことはなかった。
それなのに、なぜこうも涙が溢れてくるのか。他に方法はない。わかっている。全てを満足させることはできない。それは理解していたが、まさか彼女を諦めなければならないとは。自分の愚かさを噛みしめながら、遼太郎は最後の祈りを捧げ始めた。
どうか、無事にすべてを終えられますように。彼女を殺し、両親の運命を歪めさせずに済みますように。
重力が消えていくような感覚に陥りながら、遼太郎は過去へと飛んだ。