2話 高校野球
「何見てるの?」
「ん? 高校野球。」
日も登り、お腹が空いてきた想花はそろそろ昼ごはんだという美咲の声を聞き、二階から最近お気に入りの小説を手に降りてきた。
そこには、リビングのソファーに寝転びながらテレビを見ている健太が居て。
「高校野球?」
「そう、高校野球。」
テレビには黒い土の上で動いている少年たちの姿があった。
「高校生の野球なの?」
「そうだよ。想花、野球知ってるのか?」
「一応。本にも出てくるし、ルールくらいは。」
「そいつはいい。一緒に観ようぜ。」
そういうと健太は起き上がり、ソファーの半分を開けて座り直した。
大きなガタイの健太の横にちょこんと座った想花は、本を机の上に置いて健太の方に寄りかかりながらテレビを見た。
「暑いだろー」
「……」
「……まあ、いいけどよ。」
台所から小さな舌打ちが聞こえたような気がしたが、想花は聞こえないふりをする。
画面の中では、ユニフォームの胸に学校名の書かれたチーム同士の試合が行われていた。
しばらく無言で見ている。
カキーン、という聞きなれない高い音と共に白いボールが転がり、一塁にボールが投げられる。
ボールはミスなく一塁へと送られ、打者は頭から一塁へ突っ込んでいった。
無情にも告げられるアウトのコール。
泣き崩れる選手たちに拍手が送られていた。
「……疑問に思ったんだけど。」
「何?」
「なんで今の人、一塁に頭から滑ったの?」
勉強好きな想花は、この世界に来てから発展した学問に酷く感銘を受けた。
元々の性格もあったのか、この半年の間想花は勉強にのめり込んで、高校卒業レベルの知識を習得したのだった。(美咲の教科書を借りたので、それ以上の知識はまだ無い。)
「頭から滑ったら、その分遅くなる。だって、胸と地面が触れる時間があるから、摩擦で減速しているから。セーフになりたいなら、駆け抜けるべき。」
「ごもっとも。でもな、想花。これはそう言うんじゃないんだよ。」
あ、しまった。
想花はそう思った。
どうやら彼女は健太のスイッチを入れてしまったようだ。
「ヘッドスライディング。一見無駄な行為だろう。怪我のリスクも増えるし、遅くなるし。いい事なんて無いだろうさ。でもな、例えば日頃ガッツを見せない男があんな姿を見せてみろ。周りの男はその姿を見て何にも思わない訳ないだろ?つまりはそう事なんだよ。要は士気を上げ……」
「わかった、私が間違ってた。ヘッドスライディング?にも意味はあるんだね。」
「ん?おう、そう言う事だ。」
二人は再びテレビを向く。
暑いだろう、甲子園と呼ばれる場所で行われるそのスポーツは無駄な事が多いように感じた。
優越をつけるだけなら、実力を出せる涼しい場所でやればいいし、他にも気になる点は多い。
だが、そうではないのだろう。
そういった不合理的な部分を超える何かがあるのだと、その事について外野がとやかく言うことではないのだと、そう想花は思った。
そして、それは関わっている人達にしか分からないものなのだろう。
分からない人は、つまりは外野なのだ。
そう結論付けた想花は、再びテレビに集中する。
一日に数試合するらしく、グラウンド整備なのが行われている。
だからと言ってここを離れる理由はない。
健太の肌の温もりを感じながら、持ってきていた小説を読み始めた。
次の試合が始まるまであと30分程。
何処まで読めるかな?と想花は楽しそうに読み始めた。
それは、お気に入りの本を読み進める事なのか、はたまた次の試合への期待なのか。それは彼女にしか分からないことだろう。
今年の高校野球、面白かったですね。
僕自身スポーツ好きなので、スポーツの話題が多くなる予定です。