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歴史の狭間の中で  作者: 高風鳴海
第一章<新しい世界での生活>
8/18

幼稚園年少生・遠足後編

書ききれてない部分が多い気がするこの頃です。

もっとぺースを上げれるよう努力したいと思います。

 正鳴たちを乗せたバスは宿泊予定のホテルに着いた。

 そのホテルは三階建で、ずいぶん古い建物だった。洋館建ての建物で歴史を感じさせる佇まいである。


 各々の部屋で荷物を置いた後は一休みし、ホテルのレストランで昼食会である。正鳴と楓の部屋はななこと智子の部屋と隣あっていた。

 部屋は二部屋の続き部屋で、一部屋が寝室、もう一部屋がソファーなどが置いてある休憩スペースとなっていた。

 さすがにもともと明治の中頃に建てられたらしいホテルで、当時としては広めの間取りだったそうだが、今の富裕層の基準からすれば少々狭い。

 それでも泊まる分には十分に広いと正鳴は思った。


 用意されているお茶を楓が淹れてくれた。地元の土産物らしい葡萄の果汁入りクッキーがお茶請けだ。

「あんまり食べすぎないようにね。食べ過ぎるとお昼はいらなくなるから。」

 楓が母親らしく注意してくる。

「わかってるよ。」

「それにしても・・・・啓信だから、ここは一部屋に一人ずつ女中でもつけるのかと思ってたけどそうでもないのね。」

「それやられたら心が休まんないよ。少なくても貧乏人だった僕にはね。」


 楓がクスリと笑った。

「でもいまは富田財閥の御曹司なんだから、なれていかないとね。」

 正鳴としては首をかしげるしかない。

「富田家がこっちでは没落せずに財閥をつくってるなんて正直思いもよらなかったよ。せいぜい個人商店かと思ってた。」

「あちらではずいぶん酷いことになってるようね?」

「まあね。森家と辻家の締め付けがひどくてね。向こうはこちらを断絶させる気でいるから大変だったよ。あちらの孫たちがどうなるか心配だよ。」

「そういえばあなたを転生させたのってそのお孫さんの一人だったわよね?」

「うん。末の息子の長男だね。」

「・・・それが神様ねぇ?」

「詳しいところはわからないよ。」

「うちの味方ならそれで構わないんだけど。持ち込ませた技術がね・・・・・予想以上に影響が大きい代物だったし。」

「・・・大きくしたのは母さんたちじゃないの?」

「まあ・・・そうともいうわね。」

 楓のとぼけたセリフに肩を落とした正鳴だった。



 昼食会では奥のほうのテーブルに正鳴と楓、ななこと智子が座った。この席順もあらかじめ指定してあった。家格の順になっているらしい。

 生徒たちに用意されたカテラリーは子供用の小さなものだったが、いずれも銀製食器でそれなりに重さがあった。正直子供用といっても子供には若干つらい重さである。

 さすがに使えないと思ったのか何人かの保護者はカテラリーを幼児用の軽い食器に変えてもらっていた。

 しかし、楓や智子はまさなりの視線での合図に肩をすくめただけだった。どうやらこれで食事をしろということらしい。二人の意味ありげな視線はあなたならできるでしょということらしい。

 しかし、ななこにはつらいのではないかと思った。


 実際にミニコースの料理が運ばれてくると、意外なことにななこは上手にカテラリーを使って食事をしていた。

 さすがに、婚約者が綺麗にたべている以上、正鳴もそれに負け込むわけにいかない。

 最初の前菜料理であるパテと葉物野菜を掛けてあるソースにからめて口に運んだ。もちろん幼児に合わせて皿も小さく、量も少なめではあったが。


 パテはどうやらフォアグラをベースとして数種類のハーブとつなぎの小麦粉をあわせて作られたものらしい。口当たりは非常によかった。

 あちらの世界ではフォアグラは動物虐待として環境保護団体に突き上げをくらっていた覚えがある。こちらではそのようなことはないのだろうかと一瞬疑問に思った。

 付け合わせの野菜にはホワイトソースに粉チーズをふりかけたものが絡めてあった。昼の前菜からずいぶんカロリー多めだなと思った正鳴である。子供なのであまり食べすぎない限り肥満にはなりにくいが、食べ過ぎに注意しないといけないなと感じた。


 そのあとスープとパンが出てきた。ミニコースの流れとしてはわりとスタンダードな流れである。

 スープもおいしかったが、クロワッサンも十分においしかった。そしてメインの肉料理が出てきた。

 正鳴とななこが食べている間も楓と智子は会話を絶やさない。食事をしつつも会話を楽しむスキルは上流階級に必須らしい。

 もちろん口に物を入れてしゃべるのはマナー違反である。しかしそれをせずにうまい呼吸の具合に会話を続けるというのは意外と難しい。


 肉料理はウサギのフィレステーキだそうだ。これのソースはハープを数種類いれて作ったホテルのオリジナルソースだそうだ。

 幼児たちには一口で食べれそうな二キレだけが用意されていた。ただ、ここで一口で食べるのもマナー的にはまずいので正鳴は一応申し訳程度に半分に切って口に入れた。

 すると、ななこから注意が飛んできた。

「まさなりくん、大きく切りすぎだよ!」

 楓と智子がそれを聞いてクスリと笑った。

「まさなりくん、こういうときは三つに切って、フォークをスプーンのようにつかって食べるのがマナー的には正解だよ。もちろん一切れをきってからそれをくちにいれて、またひとつをきってくちにいれるんだよ!」

 どうやら、常日頃、マナーの先生にしごかれているらしいななこらしいセリフだった。

 まさなりとしてはフォークをスプーンのように使うことに抵抗感があったが、それを楓に聞くと、ヨーロッパではわりと普通に行われていることらしい。

 白飯を食べるときもフォークをスプーンのように使うそうだ。フォークの背中に乗せるのは日本だけのマナーで、国際人の洋食のマナーとしてはあまりよろしくないそうだ。

 フォークの背中に白飯をのせるのはなんでも大正期に銀座にできたレストランのシェフがフォークでお客さんが唇をさして怪我をしていたのを見かねてつくったマナーだそうだ。



 食事が終わると、今度はサクランボ刈りだそうだ。刈り取ったサクランボはホテルでジャムに加工してもらって最終日に渡されるそうだ。

 サクランボ狩りをするために着替えて集合場所へ向かった。


 サクランボ狩りをしている間、まさなりとななこの周りには人だかりがつねにあった。

 バスの中での一件を知ってか、ななこと正鳴の婚約については全然まわりの人間は触れないようにしている様子だった。

 サクランボ畑はホテルから少し歩いた場所にあった。遠足らしく歩いたのはこの短い間だけである。もっとも最近はどこの遠足もこんなものだと楓にそのことをいうと笑われた。


 農園を管理している農家の人も慣れているらしく、サクランボの刈り方を丁寧に教えてくれる。手渡されたのは子供用のはさみである。

 もちろんはさみも刃物であぶないから保護者の補助があってこそではある。

 三脚を少し上の場所を長くしたような器具にのってサクランボを正鳴たちは刈ることになった。

 刈りをはじめるとまさなりとななこが二人して器具の上に登った。まさなりはさっそく枝を手で持ってはさみを入れた。そして次からつぎとサクランボを刈ってはウェストにつけられている子供用の籠にいれていく。籠がいっぱいになるまでそんなに時間はかからなかった。

 するとうしろについてきていたななこが若干ふれくれていた。

「なんかまさなりくんばっかりずるい・・・・・。」

 しまったなと正鳴は思った。ななこを置いてけぼりにしてしまったようだ。これでは紳士失格だ。それから正鳴はななこを手伝ってななこにサクランボを刈り取らせていった。

 その二人の様子を楓と智子は少し離れてみていた。他の保護者は子供にサクランボを刈らせるのに一生懸命なのに対称的な二人である。

「手がかからないのってホントいいわね~~。」

「そうね。若干正鳴君は粗忽なところがあるみたいだけどね?」

「う~ん。普段はそうでもないんだけどなぁ。」

「サクランボ刈りを行楽でしているというより、農家のひとが作業として刈ってる感じだったよ?あれは・・・・」

「ななこちゃんをほっておいてのは本人も反省はしてるみたいだけどね。」

「うん。まあ・・・徐々にお互いに成長していけばいいんだけどね。私たちを含めて。」

 保護者のセリフに内心ため息をついた正鳴だった。


 刈り取ったサクランボは農家のひとが用意した大きな籠に集められた。




 正鳴はふと思いだす。

 それは、東条英機や辻政信が軍内で頭角を現すようなエリート士官だったにも関わらず、なぜ戦争の指揮はお粗末だったかだ。

 結局、組織内で足の引っ張り合いをして勝ち残ることについては有能だったのだろう。しかし、大日本帝国としての戦略方針を出してよりよい選択しを選ぶという点においては有害だったということだ。

 割によくある事だが、組織内で幅を利かせる能力だけが突出した人物がいるとその組織は腐敗し、そのほかの組織とうまく付き合えなくなる。こと国同士になればそれは深刻さを増す。


 陸軍憲兵隊の連中は組織内部で権力を握る能力はあっても政治を行う能力や戦争遂行能力は全くなかったという事だろう。

 フィリピン陥落の時にフィリピン方面司令だった東条の派閥の人物は、周りに自決を命令しておいて、自分だけは飛行機で日本へ逃げ帰った。

 実際にフィリピン攻略を行った将官を追い出して、司令におさまったのにこれである。

 沖縄戦でも同じことが行われた事実がある。

 前線兵士と住民に自決を求めておいて司令官はとんぼ返りである。

 情報操作や権力掌握の権謀術数だけは長けているというのは国にとって有害でしかない一つの例だろう。


 終戦直後、東条達が行ったことは、天皇陛下のせいにして、それが成り立たなければ今度は国民の性にする。そして果ては政情の性にしてお茶を濁して、自分たちの責任を擦り付ける事だった。

 そして歴史の事実をうやむやにしてごまかす。さも自分たちが英雄であったかのような情報操作を行ったのである。

 あちらの世界では黙ってはいたが、正直シベリアで散っていった戦友たちの事を思えばどうにも許しがたい事実だ。



 引用をする書籍があればそれを根拠にしてしまえば、虚構であっても補完され現実だと論理的に通されてしまう。

 根拠になる書籍がなければ彼らは嘘で塗り固められたそれを作り出した。このトリックを戦後、陸軍憲兵隊派閥の面々はよく多用した。

 保守層の多くがそれを信じてしまっている事に危機感を覚えた事が何度もある。

 物事は原因と結果が必ずあり、惰性だけで戦争が起こるわけではない。惰性で起きたならそれは愚か者の戦争と揶揄されるだろう。

 命を懸けて戦うというのは生半可な事ではない。戦うために必要な準備を知らず、なにも準備せずに戦力をぶつけるだけの参謀や指揮官になんな意義があるのだろうか?

 戦争は衝突の前に準備の差で八割方決着がついている。

 料理の板前の意味とにたようなものだ。

 下準備こそ重要なのである。




 その日の夕方正鳴たちは再びホテルのレストランの席で食事を取っていた。

 夕飯はさすがにフルコースらしく、肉料理が三皿あった。肉料理ふた皿とメインディッシュの肉料理の間には口直しのソルベが供された。

 プティフールの焼き菓子と紅茶のあとにデザートのサクランボのババロアが出された。

 体を動かしたせいか、フルコースの料理は全部食べ切ってしまった。

 明日の予定は朝食のあと移動して音楽鑑賞である。


 食事を終えると正鳴は眠気を感じたが、寝る前に入浴するように楓に言われて部屋に備え付けの浴室でシャワーを浴びた。

 パジャマに着替えて、歯を磨いて、ベッドに横になるとすぐに意識を失った。

 


 次の日の演奏会はずいぶん広いホールで行われた。

 石田幸吉という方がオーケストラの指揮者だ。なんでも啓信財閥のお抱え楽団らしい。

 演奏前に『美しき碧きドナウ』についての簡単なレクチャーが石田氏によって行われた。

 オーストリアの三大ワルツの一つで、オーストリアの第二の国歌と呼ばれていたことなどが紹介された。オーストリアも今はヨーロピア連邦の一地方であるため国歌としての体裁はなくなったが、今をなおオーストリアの人々に親しまれているそうだ。


 音楽鑑賞中、ほかの子供たちの一部はそわそわしたり、トイレに建ったりする子もいたが、全体的に真剣に聞いている様子だった。

 三歳児によくもまあと思ったが、これが上流階級の標準なのかもしれないと思って正鳴は気を引き締めた。


 午後からの美術館の鑑賞では歴史ある二科展の展覧会が丁度美術館で開かれており、新進気鋭の画家たちの作品を見ることとなった。

 正直正鳴は抽象画の意味は理解できるが、実際に絵を見て、いいのか悪いのか、何を評価すればいいのかはさっぱりわからない。

 写実画なら若干わかる程度だ。

 そのことを楓に言うと、楓は笑って教えてくれた。

「絵の評価はその時の流行みたいな部分も結構あって、その時代時代で評価される部分が異なってくるのよ。画家の死後に急に評価が高まるのはそういう要素が強いからね。あとは扱っている画商の評価次第かな。」

 実際のところ、お金で決まる部分もあるという事だった。買い手次第という事らしい。

 二科展の展覧会の脇では受賞作品のレプリカの販売も行われていた。レプリカといっても油絵で実際に描かれており、東京美術大学の学生が模写をしたものらしい。

 保護者の何人かがそこで絵の購入を決めていた。


 智子がこっそり教えてくれたには、美大生の生活支援の目的でレプリカの販売が行われているそうだ。

 裕福な家の子供なら必要ないが、油絵ひとつとっても、絵具からイーゼル、キャンパスに至るまでそれなりの費用が掛かる。富裕層にははした金でも一般家庭には重い出費だ。

 どうやら楓と智子も最優秀賞の作品のレプリカを購入したようだ。

 レプリカが届くのは一か月後らしい。


 遠足といっても富裕層の子供の遠足はどちらかといえば大人目線のものが多きがした正鳴だった。

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