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歴史の狭間の中で  作者: 高風鳴海
第一章<新しい世界での生活>
4/18

幼稚園入学

短くなってしまいました。

説明部分が多い気がしてしますが、もうちょっと工夫してみます。

 この間もらってきたばかりの濃紺のブレザーと長ズボン、ハット様式の帽子をかぶって正鳴は母親の楓に手を引かれて啓信学園幼稚園部の自動ドアをくぐった。


 すでになかにはあちらこちらで談笑している保護者や付き添いの使用人たちの姿がある。使用人どうしで会話しているのは少ないが、保護者は結構大きなボリュームで話していたりする。


 ロビーの受付で、集積確認をすると、そこで楓と分かれて正鳴は係員に連れられて教室へ向かった。教室ではすでにほかの新入生たちがそれぞれの席にすわっていたり、あるいは友達になった人物と会話をしていた。


 案内された机の椅子を引いて座っていると、ななこがやってきて、正鳴に話しかけてきた。

「まさなりくん、おはようございます!」


 正鳴も答える。

「ああ、ななこちゃん、おはようございます!」


 丁寧にございますを付けるのは幼稚園の方針だからである。それができてないと保護者にしつけについて連絡がいくことになっているそうだ。名門幼稚園というのはことのほか窮屈なものである。



 まさなりはななこにあわせて、わかりやすい話の題材である、食べ物のことや動物の事を話したりして会話を始めた。


 すると脇から二人の男の子がはやし立てた。


「女なんかとはなしてるぜ?」

「おとこのくせに!」


 なさなりは、ははんと思った。一種のジェラシーであることが明白である。ただこういう輩は最初にガツンといっておかないと執拗にいじめを行う。

 だから正鳴はガツンと言ってやった。

「なんだぁ?男の子のくせに女の子に優しくすることもできないなんて甲斐性のないやつらだなぁ?それに僕が話をしているのがうらやましいんだろう?うらやましいならうらやましいとはっきりいえばいいのに?」


 怒涛にガンガン正鳴がいうと男の子二人は唖然とした後言い返してきた。

「う、うらやましくなんかないやい!」

「そうだ!そうだ!」


「だったら二人も女の子と話してみてよ?ななこちゃんとはダメだからね。僕の友達だしね?それができないってことは弱虫だってことだよ?」


 もう大人のプライドなんてぽいすてでガンガンいってやる。


 すると二人は泣き出してしまった。泣き出して教室を出ていった。それをみたななこが怒った声を出した。

「まさなりくん、泣かしちゃダメでしょ!」

「あのふたりはほかの子をいじめるから注意しただけだよ。ななこちゃんも一人になったときにあんなふうにはやし立てられたらいやでしょ?」


 ななこは言われてうなった様子だった。

「まさなりくんのいうことはいいことだと思うんだけど・・・・。」

「それに僕は手は出してない。たぶんあの二人はあとで手を出してくるかもね。だからななこちゃんも嫌なことがあったら僕にいいなよ」

「う・・・うん。」


 それからすぐに部屋の扉が開いて、幼稚園教諭が入ってきた。教壇の前に立つ。


「みなさん、お早うございます!」

 正鳴だけがその声に返事をかえした。

「おはようございます!」

 その言葉にまわりの園児たちははっとした様子だった。

「お~!君は元気だね。私はこの教室を担任する川上洋子です。あなたのお名前と出席番号は?」

 すぐに正鳴は返す。

「富田正鳴、7番です。」

 川上先生は頷いた。

「うんうん。返事もよし!じゃあもう一回、おはようございますといいますから、みなさんも続けておはようの挨拶をねがいしますね?」


 そして挨拶の練習が5回ほど繰り返された。そのあとに出席がとられ返事を返していったあとお決まりの自己紹介の時間となった。

 どの子もどこかの有力者の子供らしく、~~~を経営している~~家の~~という自己紹介が多かった。会社の名前が幼稚園で出てくるのもある意味不思議である。


 正鳴は富田海上運送を経営しているとほかの子と同じように自己紹介しておいた。

 隣の席のななこも三井ビルディングの三井ななこですと自己紹介をしていた。




 朝の説明の後、丁寧に廊下に出席番号順に並ぶことを教えられて、子供たちは、男女合わせて二列に並んだ。


 廊下といってもかなり広くとってあり、木のパネルが敷き詰められている。当然のごとく表面は滑らかである。


 お金かけてるなぁ。ここまで余裕があるとは相当大きな会社組織なんだろうなぁ。


 若干、的外れな事を考えながら、正鳴は廊下を進んだ。


 廊下の左右には油彩の絵画まで飾ってあった。廊下の電灯も蛍光灯ではなく、発光ダイオードだろうが、それが小さくデザインされたシャンデリアになっている。

 やはり、幼稚園の廊下には見えない。


 階段を上り、渡り廊下らしき場所を通って、大講堂に進んだ。体育館と兼用になっている講堂ではなく、椅子が設置されている劇場のような講堂だった。上を見ると、オペラハウスにあるようなボックス席まである。


 まわりから在校生による拍手があった。

 ふかふかの席に着くとふっと正鳴は息を吐いた。


 しばらくして生徒がそろたらしく開会が宣言される。

 学園長の挨拶から、幼稚園長の挨拶もあったが、割と短めではあったがわりとよくある内容だった。

 そして新入生の総代として、岩崎邦彦という男の子が壇上に上がった。


 岩崎・・・・あ・・岩崎弥太郎の系譜だから三菱財閥の関係者か。



 それに対して鮎川瑞穂という女子生徒が在校生代表で壇上に上がった。


 鮎川・・・・鮎・・・日本産業コンツェルンかな?日立の関係者だよな。



 年齢が年齢なのでどちらも大人が推敲しただろう文章を読み上げていた。


 挨拶が終わったあと、校歌斉唱が式次第だったが、ここで校歌の書かれた楽譜が配られた。

 ステージの上のピアノを弾くのはどうやら在校生の鮎川瑞穂嬢らしい。



 啓信学園幼稚園校歌が終わると、次は啓信学園学歌がはじまり、それがおわるとようやく入学式は閉会を宣言されて終わった。


 教室に戻ると、いろいろな注意事項などを担任の川上先生に教えられ、そしてそれが終わると、今度は歓迎会があるという。


 慌ただしいなというのが正鳴の正直言った感想だ。


 

 昼食会を兼ねた歓迎会は、これまた別の絨毯のしかれた広間で行われていた。迎賓棟という聞きなれない建物らしい。


 そこで保護者と一緒に立食形式かと思えばそうではなく、席に案内されてそこで小さめのステージの上で在校生が見せる出し物を見ながら食事をするということらしい。


 席はななこと隣り合っており、そこで楓と智子はコソコソ話していた。


「・・・前から気になっていたけど、森蘭丸って本能寺の変で討ち死にしてなかった?」


 智子の言葉に楓は首を振った。

「すくなくても前田家に仕えていた森家の祖は蘭丸・・・森成利で間違いないわ。」


「子供でもいたの?」


「実際は本能寺の前に前田家に預けられていたのよ。利家の息子の利長がキリスト教に傾向していたのをいさめるという目的もあったみたいだけど。」


「じゃあ明智光秀側で仕えていた天野源斎の記録は嘘?」


「その天野だけど・・・一緒に前田家に預けられてるのしってる?富山県の高岡を作った由緒商人三家のうちひとつが天野家よ。うちもそのひとつだけどね。うちと同じで武家でもあったわけね。」


「ということは墓とかその関係は・・嘘?」


「うん。森家の当人が堂々と公言してたしね。」


「じゃあ、千葉がはじまりの森コンツェルンとの関係は?」


「北陸の森家とは親戚ではあるけどもともとは別系譜ね。いまはまざりあってどっからどこまでとは言い切れないけど。だから文教族が森家なわけね。」


「どうして死んだことにしたかったのか・・・・。」


「当時の武家の習いに反することでもしたんじゃない?主君が討ち死にしたのに生きていたとかでさ。そのせいもあるのか、やたら北陸の森家は武家の習いに拘りをもってるのよ。」


 保護者二人の会話の傍ら、ななこはつまらなそうだった。まさなりの袖を引っ張ってきて手を立ててコソコソこちらも言ってくる。


「ねぇねぇ、まさなりくん・・・・つまんないよ・・・。」


「ななこちゃん、前向いてないと怒られるよ?」


「え~、だってお母さん達二人でコソコソお話しているし・・・・。」


 前のステージでは合唱が行われていた。

 そのレベルは幼稚園とは思えないレベルだった。音程がはずれることもなく歌い上げている。

 素晴らしいなと思ったが、そこまでできるようになるためにどれだけ練習したのだろうと若干、幼稚園での生活が気になる正鳴だった。




 歓迎会が終わったあと、正鳴達はまた三井家の自動車に送られて帰ることになった。理由はもちろん保護者たちの会話が弾んだせいだった。


 ななこのほうは母親が構ってくれないので若干ふくれていた。そのぶんまさまりに構ってほしいようで、まさなりとしては相手をするしかなかった。


 共通の話題となる話の引き出しはそう正鳴にもない。となるとお互いのなら事などの話になることが多い。


 ななこにどんなことを習っているか聞くと、日本舞踊を始めたそうだった。なかなか先生の教え方が厳しく、正直たのしくないとななこは零していた。


 まさなりのほうはピアノのレッスンのことを話したが、ななこはピアノも学んでいるそうだ。


 智子がそれを聞いていて苦笑していた。

「ピアノ、華道、茶道あたりは女の子はどうしても外せないのよね。ピアノは音感を、華道、茶道は常識というかマナーを学ぶ場みたいなものだから・・・。ほんとはもっとのんびりさせてあげたいんだけどね。」


「うちはそのあたりは割と自由かなぁ・・・でも武道はさせたいきもするなぁ。森家の邪魔がなければだけど・・・。柔剣道教室は森家の息がかかってること多いからね。」


「それだったら空手なんてどう?」


「あ、なるほど・・その手があったか!」


 正鳴は自分の習いごとが一つ増えることにがっくりと来た。軍にいたころに銃剣道や薙刀は教え込まれたが、空手まではやってなかった。

 でもまあ、決定じゃないし、ここはごまかして・・・・・


 するとななこが目を光らせた。


「おかあさん!まさなり君がからて?をやるなら、わたしも一緒にやりたい!」


 逃げ道をふさがれたまさなりであった。



 その場で智子の家が出資している空手教室に向かうことになった。

 正直空手は寸止めの流派と実際に当てる実践空手の流派に分かれている。女の子は痣ができると問題なので実践空手はと思った。


 しかし連れてこられたのは実践空手の道場だった。


 智子にこっそり、痣ができるけどいいのかと聞くと、


「そんなの気にする相手と付き合わせるつもりはないから大丈夫よ。」


 とにっこり笑われてしまった。



 国名が日本国にならず大日本帝国のままの影響はここにもでているらしい。尚武の気風は温存されているようだ。だが正鳴が正吉の戦時中に感じた精神論優先の考え方ではないようだった。それよりも合理を優先するかんじだ。


 さっそく道着に着替えさせられて、白い帯を締めた。

 ななことまさなりの二人の前に眼鏡をかけた男性がやってきた。

「ここの先生をやっている菱垣陽介です。今日は三井さん、富田君には型を知る前に空手における礼儀作法を教えます。」


 そして三十分ほど礼の仕方や座り方などを教えられた。基本このへんは柔剣道どかわらないらしい。


 そのあと基本の型をおしえられ、しばらくはこれだけだけど大丈夫かと聞かれたが、正鳴もななこも大丈夫と答えていた。


 家に帰るとさすがに正鳴はぐったりとしていた。今日は忙しすぎる。


 夕飯のあとの時間、いつもは楓が用意した教科書を読む時間に当てているが、それをする気にはなれず、ベッドに倒れ込んだ。

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