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歴史の狭間の中で  作者: 高風鳴海
第一章<新しい世界での生活>
3/18

幼稚園受験

幼稚園受験について書いてみました。

 結局、正鳴は東京にある、こちらの世界での私立の最高学府らしい啓信学園の幼稚園部を受験することになった。


 啓信学園は幼稚園、初等学校、中等学校、高等学校、大学、大学院、それに加えて各種専門学校を擁する巨大な学園である。


 正鳴もくわしくは聞いていないが啓信は日本を代表する財閥の一つであり、その財閥の一部門として教育産業を手がけている。

 これも向こうの歴史とは異なった部分だ。



 それに比べて富山県に本部を置く富田学園はどうしてもそれから比べるとレベルが落ちる。のびのびとした校風で問題はおきてないものの、エリートが目指す学校とはいえないのが実情らしい。


 対して啓信は日本の次代のエリートがあつまる学園となっている。

 幼稚園から入るには入学金のほかに多額の寄付金も必要とされているらしい。そのかわり幼稚園から進む生徒は内部生とよばれ、一種のエリートとみなされているそうだ。





 そして迎えた受験当日。

 どうやら富田家の屋敷は東京都内にあったらしく、家の自動車で母の楓とともに奥多摩市にある啓信学園へむかった。

 初めて見るそとの情景は、かつてみた昭和の後期の都市部の情景によくにている。今は平成5年だが、昭和天皇の崩御された年が異なっているためずれがある。西暦は2003年である。


 啓信ももともとは山の手に学校を構えていたらしいが、手狭になったために郊外に移転した経緯があるそうだ。東京大空襲がなかったために都市の再開発は逆に遅れ、郊外への公共施設の移転はわりと早い時期に行われたらしい。

 そのため副都心とされるのは新宿以西の多摩や奥多摩にある中野市などだ。




 啓信の校門をはいるとそこはよく整備された庭園が道の両脇にあった。そしてしばらく進むと、ロータリーになっている大きな建物があった。見た感じどこかの高級ホテルという佇まいだ。



 ロータリーにはベルマンらしき人物が制服で立っており、ドアを開けて、受験生と付き添いの人間を案内していた。

 なんだか自分が考えていた受験とは大違いである。



 正鳴は受験カードをネックストラップにして掛けていた。どうやらこれが規則らしく、ベルマンからネックストラップの受験票を掛けてない人は注意を受けていた。



 建物の中に入ると広いロビーがあり、正面に受付窓口が丸いよく磨かれたカウンターとともにあった。やはりどうみても高級ホテルだ。



 カウンターの前には列が三つできておりそれぞれに付き添いと受験生が並んでいた。

 受付をおえた受験生と付き添いはホールマンに案内されて受験場所へ向かうようだった。


 楓と正鳴も案内されて控室のほうに移動となった。

 どうやら試験は一人ずつ面接形式で行うらしい。多くの受験生を捌くために試験官が何人も別々の部屋にいるようだった。



 番号をよばれて楓と正鳴も受験部屋へむかった。

 どうやら受験自体も付き添いと一緒にうけるらしい。


 部屋の前で正鳴は家でいわれていたとりにドアをノックして名乗った。

「235番 とみたまさなりです。」

 しばらくすると中から声がかかった。

「どうぞ。」


「しつれいします。」


二歳児にここまで要求するのかと内心正鳴は驚いていた。


そして楓と正鳴はなかにはいると一礼する。

「ではそちらへどうぞ。」


 そう言われて、まさなりと楓は椅子の脇まで移動すると椅子が引かれるのをまった。後ろにいた係員らしい人物が椅子を引く。

 ここで椅子を自分で引いてしまうと減点をくらうそうだ。



 二人して失礼しますと言って椅子に座る。


「おはようございます。私は試験官の山本久子です。」


 正鳴はお早うございますといって自己紹介をした。すると試験官の女性は驚いた様子だった。


「まあ!ここまでおできになられるなんて!!」


 楓がどこ吹く風といたかんじで自己紹介をする。

「おはようございます。このこの母の富田楓です。」


 その言葉に一瞬山本試験官は驚いた様子だった。

「・・・あなたが毛利家の?・・・・・なるほど。さて試験を始めます。まずは普段の生活はどんなかんじで過ごされていますか?」


 咳払いのあと山本試験官は普段の正鳴の生活について質問してきた。それに楓が答えていく。

 どうやらこの受験は親もその受験の審査対象となっているようだ。


 しばらくしてようやく試験問題らしきプリントをだされて、

「まさなりくん、ここに名前をかいてください。」

 そういわれて、プリントの大きなマス目を示された。


 正鳴はなんだと思いつつ、ささっと書いた。


 しかし次の瞬間その場が凍ったように静かになった。それからしばらくしておずおずと山本試験官は口を開いた。

「あの・・・富田さん、すでに漢字を教えていらっしゃるのですか?」


 楓は目を細めている。

「時々主人に漢字をおそわっていましたから。」

 そうこたえているが若干困惑気味だ。


「しかし運筆の状況もわるくありません。というかこの歳ではありえない上達具合です。・・・・・・・・素晴らしいですが、同時に懸念もありますね。」


「懸念ですか?」


「ええ。この歳のお子さんはスポンジのように知識を吸収しますが、同時にストレスを非常に受けやすい年頃です。あまり詰め込みすぎずすこし手綱を緩めてあげてくださいね。いまはよくても後で酷いことになる方もままいますからね。・・・・・・・・まあとりあえず合格です。」


 なんとその場で合否が判断されるらしい。


「235番富田正鳴君とそのお母さんを奥に案内してください。」


 ありがとうございますと楓と正鳴はあいさつすると奥の部屋へ進んだ。



 奥の部屋では入学申請書を楓が書かされ、正鳴は椅子でまってるだけだった。

ドジをふんだなと反省していると、そこにポニーテールにしている女の子がやってきた。


「あなたのお名前は?わたしはみついななこ!!」

「富田正鳴だよ。」

「まさなりくん?かっこういいなまえだね!」

「ななこさんもかわいい名前だとおもうよ。」

 そういわれるときゃはとその女の子は笑った。



 そこに女の子の親御さんらしい女性がやってきた。

「ななこ、勝手にあるいちゃダメでしょ。・・おや君は・・・・」

 正鳴は椅子から降りて、自己紹介を反射的にした。

 その女性は頷いた。

「わたしは三井智子。ななこのお母さんです。君のお母さんは?」

 まさなりは手の平でカウンターのほうを示した。

「ああ・・それならここでまたせてもらおう。」



 どうやら智子は三井財閥の傍系にとついだ女性で松下電器産業の御曹司の娘らしい。いろいろな質問をしてきたが、正鳴は子供らしく演じるつもりでそれにこたえてみた。


 しかし、智子はくすりと笑って、それをたしなめてきた。

「・・・とりつくろってごまかすのはどうかとおもうなぁ?ごまかした悪い子はここか!」

 そういって正鳴の脇をくすぐってきた。


 思わず声をあげて笑いかけたが大声をださないように我慢した。

「ははは・・・・う、ひ・ど・いよ・・・・・。声あげたら・・・ふふふうう。」


「子供は子供らしく笑えばいいのよ。まったく窮屈にしちゃったらだめよ?ほら、あそこの子たちは笑ったり駆けっこしてるでしょ?」


 いわれてみればわきのほうの遊具スペースではしりまわって遊んでいる幼児たちがいた。


 正鳴みたいにおとなしく座っているのも少数だがいるが、大多数は遊んでいるらしい。


 そこに声がかかった。

「あの・・・うちの愚息が失礼しましたか?」

 すると智子は立ち上がってかるく目礼して挨拶した。

「いえ、うちのななこと話してしたものですから。遅れましたがわたしは三井智子です。よろしくお願いします。」

「富田正鳴の母の富田楓です。こちらこそよろしくおねがいします。」

「ここじゃ外の目もありますし、外にでましょう。せっかくだからお話したいのですがお時間大丈夫かしら?」

「時間は大丈夫です。」



 そうしてロビーでしばらくまったあと三井家の自動車が来た。驚いたことに自動車はリンカーンだった。さすがは傍系とはいえ三井財閥はレベルが違うと思った。


 楓と二人リンカーンの後部座席に案内される。ゆっくりと自動車が発進する。

 富田家の自動車は豊田自動車のクラウンマジェスタだが、それよりも静かだった。


「さて、まずはすこし喉を潤しましょう。」

 そういって智子は脇の冷蔵庫からジュースを取り出した。100%のオレンジジュースだった。それを氷いりのグラスにいれていく。ロックグラスしかなかったのは普段この自動車が男性がつかうからだろうと思われるが、なんだかなぁと思った正鳴である。



「さて、私たちの出会いにまずは乾杯!」

そういってグラスをぶつけ合う。


「まさかうちの子が声をかけたのがあの富田さんの子だとはおもわなかったよ。」


「あの?」


「うん。まあ関東のほうじゃ北陸で森家とドンパチしてるって有名だからね。」

 飾らない言葉に楓が鼻白む。


「実際のところ森家のやり方に頭にきている家は多いんだよ。うちの本家はわからないけど分家のうちは造船の内装の件でやりあったのは十回じゃすんでないからね。海運は頭打ちだし、シェアのとりあいになるのはわかるけど、あそこに家、ほかの家の縄張りに容赦なく突っ込んでくるでしょ?競争なのはわかるけど、やり方が裏工作ありきだしね。うちの実家もビルの内装の件でやりあって森建設関係との取引は打ち切っちゃった。」


 楓はふっと息を吐いた。

「黒浦との定期船の航路に森系統の辻海陸運送が割り込んできたのは事実ですね。」

 黒浦というのは我々の世界でいうウラジヴォストックのこちらの世界での名前である。


「同じ建設業の佐藤工業の内部に人送り込んで分割させたあげく破産させちゃったしね。ライバルにやることがあまりにえげつなすぎるんだよね。でうちの建設部門の三井ビルディングとやりあっててさ・・・。まあ私がそこの社長夫人なわけなんだけど。どうせだから同じような思いをしているひとと同盟をくめないかって思ったのよ。」



 海運は頭打ちのことばに若干正鳴は不安を感じた。確かに運送手段は頭打ちになりつつあったはずなのは確かである。あちらの世界では釜山に海運のハブ港としての機能を奪われ神戸や横浜、東京、函館の港の荷揚げが減っていたのは事実だ。


 しかしこの世界ではどうなのだろう?この世界では大日本帝国とドイツ第三帝国がソビエト社会主義共和国連邦をウラル山脈に挟み撃ちにして追い詰めて壊滅させた。スターリンはドイツに捕縛されて公開処刑されている。


 そのせいか共産主義国のグループはできていない。現在ウラル山脈が日本とドイツの国境線になっている。

 そのせいもあり日本海側の海運はかなりの業績をあげているはずだ。富田家の本部は富山だが、東京とのつながりの関係で新潟ー黒浦間がメインの海運になっている。



 ただ、輸出品の項目でアメリカ合衆国と貿易摩擦が起きているのは事実だ。アメリカ合衆国が領有している満州は日本の領土に囲まれているため、正直うまみが少ない。せいぜいターチン油田を開発してそれを日本へパイプラインで輸出し利益をあげているぐらいだ。しかし、油田はシベリアにもあり、そちらとのシェアの取り合いになっていると新聞には書いてあった。



 国際情勢をもっと知らないとこの世界の事はわからないなと思った。



 一方で智子と楓の会話は続いていた。ほとんど愚痴りあいになりつつあり、ななこが詰まらなそうに正鳴の服を引っ張った。

「お母さんたち、むずかしいおはなししてる・・・・・。」



 話をきりかえるのに正鳴はお互いの誕生日の話をした。


「ねえねえ、ななこちゃんはお誕生日っていつなの?」

「ななこはねぇ1がつ30にちだよ!」

「ぼくは6がつ16にち!」

「まさなりくんのほうがはやいんだ!」

「うん。ぼくのほうがおとな!」

「むぅ~~~ななこだっておとなだもん!」


 そこうしているうちにとなりをみると楓と智子が握手をしていた。

「同盟締結ね!!」

「そうね!」


 あっちはあっちでうまくいっていたようだ。

 正鳴自身、我々の世界である向こうの世界で正吉の時に親から森家の色々を聞かされてはいたが、口に出すなとも口止めされていた。それというのも森家の権勢がつよかったせいもある。


 一方の富田家一門は這々の体で、家名や屋号が残るか微妙な線であったからだ。もちろんそうなったのは裏切りを行った辻家や森家の差し金があったのは言うまでもないが、さらに刺激すると悪化させると親は考えていたようだ。



 だが、どうもこちらの世界では森家より富田家のほうが権勢がある。油断すれば凋落するが相手の事実を述べたぐらいで傾かされるほど脆弱な家ではない。



 家まで智子の車で送ってもらった。



 さて、ようやく受験がおわりのんびりできると家に入った正鳴だが、そうは問屋が卸さなかった。


 漢字を読めたことに楓は追及してきた。

「ま~さ~な~り~!あなたお母さんに何を隠しているの?」


 冷や汗をかくしかない正鳴である。


「まえから不思議には思っていたんだよね。寝言で一夫がどうのいってたし・・・。一体どういうことか話してくれる?ねぇ?」


 寝言までチェックされていたなんて思わなかった。これはもうしらばっくれるのは無理だなと思った。


「実は・・・・・。」


 正鳴が正直に前世の記憶を持って転生したことを話すと楓は首をかしげつつ頷いていた。

「その別の世界で富田家はどうなっていたの?」

「没落して断絶直前だね。子供をつくれないように女性の相手もつくれないように森家に邪魔されていたから・・・・息子の一夫の相手を探すのにも一苦労した。」


「森家か・・・・・。」


「日本はアメリカと戦争して負けてボロボロにされて経済的植民地に近い属国にされていた。」


 戦争中のことに言及すると、楓は目を見開いた。

「じゃあ・・・・5・15のクーデターが成功しちゃったわけなのよね?」

「そうだね。表向きは海軍将校が首謀者で失敗したことにされていたけど・・・実際は陸軍憲兵隊が権力を握っていた。そして陸軍内部の勢力争いで東条が再び権力を確保するのに2・26事件を引き起こして同じ陸軍内部の上層部を排除してしまった。」


「なんで歴史がそちらの世界ではかわってしまったのかな?」

 さすがにその質問には答えれなかった。



 かつての戦友に聞いた話を思い出してみると、海軍士官が陸戦隊を率いて首相公邸に向かった時にはすでに犬養毅首相は殺されてしまっていて、そこに陸軍憲兵隊と特別高等警察の人員が現れたという。

 明らかに特別高等警察は憲兵隊に掌握されていたとしか言えない。


 まるで東条たちがあらかじめ海軍の行動を掌握していたきらいがある。最初から自分たちのクーデター計画が知られていて、邪魔となる特別高等警察と海軍を排除する準備を整えていたとしか思えない。


 海軍司令部もそのあと組織防衛に走って、首相警護にまわした海軍士官たちを切り捨てた。だから彼らは投獄され、密かに殺された。



「あらかじめ起きることが東条たち陸軍憲兵隊に知られていたということ?」


「そうとしか思えないわね。異なる世界を渡ることができるなら、時間をどうにかする手段があってもおかしくはないわよね。あなたが死んだのは昭和の時代だし時間のずれがむこうとあると考えるべきだわ。」



 楓は考え込んでいた。そして呟いた。

「あれがもし森家や辻家にわたっていたとしたら・・・・・。」



「お母さん、あれって何?」


「ああ、聞こえちゃったのね。富田家の七代目あたりが書いた預言書のことよ。書かれてから200年の間これから日本で起こることが書かれているのよ。すでに賞味期限はきれちゃってるけどね。ただ江戸の末期にこれが森家の手に渡っていたとしたらあり得ないはなしじゃないわね。森家は5・15事件に首謀者側として関わっていたことが証明されているのよ。」


「江戸末期か・・・むこうでうちの家がとりつぶされたのがちょうどそのころだよ。奥村とかいう家老が殺されて、うちの家が高山の幕府からの割譲を前田家本家に黙っていたことを理由に取りつぶされた件だね。家財財産をすべて召し上げられて、それは森家が着服したことがわかっているから・・・・・。」


「それよ!!」


「だとしてもこちらからはどうしようもないね。あっちの状況は末期的だし・・・中国に日本が滅ぼされるのも時間の問題になっているからね。」


「そこまで酷いとは・・・・・。」


「国の上層部はどう考えているか知らないけど、中国共産党の古株連中は必ず自分たちを裏切った、日本とそれをさせた陸軍憲兵隊の連中に復讐をしてやると息巻いていたからね。アメリカの柵で身動きの取れない日本は侵略されるのが目に見えてるよ。」


「なるほど・・・・。」


 それを聞いて楓はとりあえず納得した様子だった。


「奥村家の先祖が殺されたか・・・・。」

「さすがにそこまで昔のターニングポイントまでは調査のしようがないよ。」

「ただ、預言書が関わっているのは確かだね。」

「時間遡航できたとしてもかえって悪くなりそうなよかんがするし・・・・それにしても預言書を書いた七代目ってえらく迷惑なものを残してくれたもんだね。」


 正鳴の言葉に楓は苦笑した。


「さてと・・・・・正鳴の理由はわかったけど、あんまり目立たないようにきをつけなさいよ。とくに実情は絶対話したらだめだから。精神病扱いうけて病院に送られかねないからね。」


 正鳴としては頷くしかない。


「あと勉強だけど数学とか理系の科目はどのへんまでできるの?」

「旧制中学で学んだ程度だけど・・。平面幾何と立体幾何の三次方程式ぐらいまでかな。分散や収束まではやってなかったはずだね。ほかの理系科目は技術が進歩しているだろうからあてにならないし・・・。かんけいないけど複式簿記はつけれるよ。これでも陸軍の兵站将校だったからね。」

「なるほど・・・・。よし!それなら徹底的に勉強してもらおう!!」


 その言葉に正鳴は蒼い顔をするしかなかった。

「ちょっとお母さん、先生に手綱緩めるように言われてなかった?」


 ふふんと楓は笑った。

「あなたが勉強できる人間だとわかった以上、時間は無駄にできないわ!」

「え~」

 不平を聞いた楓だが、ふと優しそうな顔になるといった。

「それにあなたがポカやったときの言い訳がしやすいようにするためでもあるのよ。」


 そう言われてしまえばどうしようもない。どうやら勉強漬けの毎日が始まるようだった。


 それからしばらくは礼儀作法やら科目学科の勉強やらの家庭教師がつけられて毎日が勉強で正鳴の生活は暮れていった。

 実際のところ子供として遊んでも正鳴としては楽しくないのでこれはこれで仕方ないのかもしれないが、今一つ納得できない正鳴だった。


 それに楓は正鳴のことを父の悠一にもはなしたらしく、悠一にも同じ説明をするはめになった。悠一からは別に勉強には何も言わなかったが、新聞を毎朝六紙読むように指示を出された。

 新聞の六紙を毎日全部読むのはなかなか時間がかかる。悠一曰く速読のテクニックをそれで磨けとのことだった。


 朝食の時間は毎日、日本国営放送のニュースチャンネルがはいっている。それを聞きながら新聞をよむのがここのところの正鳴の日課だった。


 新聞を読むようになって、ようやくこの世界の世界情勢が分かってきた。


 ドイツ第三帝国は国名をヨーロピア連邦に変えて、国家元首である総統を直接選挙で選ぶ、民主制独裁主義の国になっているようだ。イギリス王室はカナダに亡命政権をつくっており、グレートブリテン島は完全にヨーロピア連邦の領土になっている。


 最近イタリアのヨーロピア連邦への加盟の是非が問われる状況だ。ムッソリーニのファシスト党はここ五十年の間に議席を失い、解党されてしまったらしい。


 日本とヨーロピア連邦の間には隣国になっているとはいえ領土問題は解決しており、問題はおきていない。



 インドのイギリスからの独立を日本が支援した件でイギリス王室からかなり抗議が入っていたらしい。

 インドはやはりイスラム教徒とヒンズゥー教徒の争いはあるのだが、パキスタンやバングラディシュのような分割独立は行われていない。




 そして驚くべきことだが、ヨーロピア連邦は中東に進軍を開始しており、その経過でユダヤ教の神の約束の地イスラエルをユダヤ人自治区として独立させた。


 すでにアドルフ・ヒットラーがユダヤ人の系譜であることは広く知られてしまっているようだ。


 アーリア主義というのはドイツをまとめあげるのに必要だった方便だったというのがいまの時代の歴史家の見解で、ヨーロッパを大きく含めた大アーリア・ヨーロピアン主義というのをヨーロピア連邦の国家社会主義労働者党は主張している。あのナチスがという感触がある。



 だがやはりここでもイスラエルの地はパレスチナ人の問題を引き起こしている。ユダヤ人のほうが先住だったのに追い出したのがパレスチナ人であるのは確かだが、かなり昔の事である。だがエジプトとペルシャ地方がヨーロピア連邦に併合されてるため、武器の密輸はできず、武装闘争は抑えられている。



 イスラエルは一種の宗教国家としてヨーロピア連邦に組み込まれている形である。

 ただ、エルサレムの嘆きの丘はイスラム教の指導者たちの声もむなしく発掘作業をヨーロピア連邦の陸軍に強行された後、ユダヤ教の神殿として整備されたそうだ。

 そのかねあいでアラブ人やペルシャ人からヨーロピア連邦は目の敵にされている状態である。


 一部のヨーロッパの識者には聖地がメッカにもあるのにエルサレムまで自分たちの聖地にするのは欲張りだという見当違いの言葉まででてくる始末。



 元はユダヤ教の流れをくむのがキリスト教、イスラム教であるから聖地が同じであるのは仕方がないことではある。


 ペルシャ地方で若干イスラム指導者による独立運動が行われているが、それに対してヨーロピア連邦は残酷に制圧を行っている。

 多量の逮捕者が出て強制労働収容所に送られている現状がある。



 一報ポーランドで特にユダヤ人収容所で疫病が流行った件は結局起こらずじまいだった。そのため虐殺は行われていない。ただどうもKGBが細菌兵器を収容所に持ち込んだ形跡が発見されたらしくそれが歴史の教科書の出ていた。


 勉強に続いて、健康診断や身体測定などの日程が怒涛のごとく続き、気づいた時には入学式になっていた。

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