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歴史の狭間の中で  作者: 高風鳴海
第一章<新しい世界での生活>
2/18

転生

昨日にひき続いて投稿です。

ペースを確保できればいいのですが。

 愛した娘に浴槽で首を絞められて殺されたはずである。

 さんざん私が末の息子の貯金まで融通してやったにもかかわらず、それに飽き足らずこの仕打ちである。義理の息子が入り婿したようだと気にしていたから娘夫婦の経営する会社を引退したというのに、これはあまりにひどすぎると感情が高ぶったがしかたない。


 いま自分は体がない。空中にぷかぷか浮いているらしいことはわかる。

 そして、末の息子の子である孫から糾弾まがいの言葉を受けている。なぜそこに孫がいるのか不思議でならない。


「じいちゃん、一体何をしているんだよ!俺は人生めちゃくちゃにされたし、これからもされれることが運命づけられている。なんなんだよ。あの歴史の流れは!ドイツと挟み撃ちにしてソビエトを崩壊させたはずなのに・・・・・。ユダヤ人を保護していたはずのドイツは逆に虐殺したと認定されている。実際にガス室による虐殺も行われていた。これは一体どういうことなんだ!!疫病の発生とか意味不明だよ!!!」


 さすがに温厚な私も怒りたくもなった。

「・・・・おい!そんなにいっぺんにいわれてもわかるか!だいたい俺は内地に無理やり送還された身だぞ!!あいつらは中国共産党なんてろくでもない代物までつくりやがったし・・・・いまさらわかるか!!!」



 私が怒鳴ると孫はため息をついた。

「じいちゃんにあたってもしょうがないか・・・・・。」


 私は疑問に思ったことをぶつける。

「和幸どういうつもりだ?それにここはなんだ?」


 和幸は首をかしげる。

「ここねぇ・・・・俺の夢の中だよ。そこに爺ちゃんを呼び込んだんだ。」



 孫の言葉は不穏当すぎる。仮に事実だとして、どうして孫がそんな力を持っているのか理解できない。自分は死んだはず。それなのに意識はある。そして自分には体はないが、孫には体がある。

 仮に夢の中だとしてもここまではっきりとした意識を持てるだろうか?


 正吉が首をかしげていると和幸は頷いた。

「・・・・なったものはしかたない。爺ちゃんには向こうのうまく進んでいるほうの世界の情報を集めてきてほしいんだ。」


 そんなことをしてどうなるというのだ?孫は何を考えているのか?


 しかしその考えは次の言葉で聞けずじまいになった。孫がイタズラっぽい顔で口に出した。

「簡単にいえば俺は神の一人ってことになるんだよ。まあ、現在知られている神より何世代も昔の神・・・・・始まりの神と名乗るべきなんだけど・・・そういう神とか神じゃないかという問答には飽きてるからね。」


 なんだと!孫が神だっただと!?いやいやまてまて、そんなはずがあるはずがない。おしめを替えてやったこともある孫だぞ。それが神?ありえない!!



 するとその言葉が聞こえたかのように和幸は応えた。

「爺ちゃんも信じないかぁ。まあ仕方ないよね。でもまあ・・・なんというかうちの家系は天皇家の分家である朝倉氏のさらに分家で・・・死ぬまで爺ちゃんがいた世界ではアマテラスオオミカミが天皇家の祖とされているけど、半分だけ正解で実際はその弟のスサノオノミコトとの子孫でもあるんだよね。オオクニノクニヌシの系譜が本来のものなんだ。つまり本来の俺の子孫の神である別天津神のさらに子孫ってのが正解なんだよ。まあ今は信じなくてもいいよ。そのうち意味が分かるだろうし・・・・。記憶は残したまま転生させるからね。」


「・・・・もしやアマテラスオオミカミの逸話のいくつかはねつ造ということなのか?」

 ふと気づいていうと和幸は頷いた。

「そういうことだね。日本へ渡来した神が大和朝廷を作ったというのは嘘だよ。日本が中国に大敗北した黒龍の戦いまでは大陸の中国を含めて日本の領土だったんだよ。そして、三十年毎に十二都市の持ち回りで代表者が選ばれ、十二都市のいずれかが首都になる仕組みを敷いていた。」


 和幸の話によると十二都市は日本海を囲むようにあった十二の都市だそうだ。そのうちひとつは正吉が住んでいる富山県にもあったそうだ。スサノオノミコトに嫁入りした娘がいる越の国の首都があったようだ。


「敗北の原因は大地震がおこったことによる都市部の壊滅だね。それをつくように西の山間部の蛮族扱いを受けていた漢民族が蜂起して、惨敗したわけだ。中国人は漢字を日本人が奪ったとかいってるけど、これも間違いで、そのもととなった神代文字は日本のれっきとした文字だったんだよ。むしろ歴史を盗み続けているのが中国の王朝の歴史だね。真実よりも目先の欲を優先する民族性だからしかたないけどね。」


 そこまで言われて正吉はなにかひっかかった感じがした。日本人将校の自分にもよくしてくれた部下の中国人の軍属達のことを思い出す。


「・・・・そりゃね。差別がすくなからずあったとはいえ日本人としての教育を受けていた当時の中国人軍属達といまの中国人と比べるのは間違いだよ。教育が根本であるのは事実。民族性をつくるのもまた教育だよ。それ以外の遺伝的要素もあるけど、いまそれをいっても混乱させるだけだから言わないけどね。」


「つまり、同化政策は間違いではなかったということか?」

 和幸は頷いた。

「年配の家族と子孫が言葉が違って会話できない悲劇がどうのいうひともいるだろいうけど、同化政策をして、法律的に平等にさせるのは領土拡大において最重要な方策だよ。そうすれば国への帰属意識が生まれて政権は安定するし反乱は少なくなる。言葉の壁は価値観の壁でもある。言語を同じにしてしまえば価値観の構成はそれほど差異はなくなるんだよ。」


 そこまで言い終えると和幸は目を細めた。

「もっと話したいことがいっぱいだけど、どうやら時間みたいだね。」

 そういって和幸は腕時計らしきものを見た。


「これから爺ちゃんが転生する世界はフェルムワースと呼ばれている。そこの太陽系はこちらが本来とるはずだった歴史をたどっている。そして江戸時代末期に富田家はとりつぶしをまぬがれているおかげで、富田家は北陸の財閥家として存在している。そこの跡取り息子として生まれる予定だよ。それじゃあ奮闘を祈ってるよ。」


 次の瞬間、正吉はなにかに引っ張られるみたいに感じた。

 そして気づくと視野の感覚がなく体がなんとなくうごかせるだけの状態だった。まわりは暗いかんじがするがなぜかあったかくそして安心する空間だった。そしてまどろみに正吉は落ちていった。



 長い時間がたった気がした。どうやら外らしところから人の声らしきものが聞こえるがはっきりとはきこえない。

 夢とも現ともいえない状態でいることに正吉は不安を感じ始めていた。それと同時になんとなくではあるが自分が母親の胎内にいる胎児であることに気づき始めていた。




 そして、再び時間がたち、正吉が気づいたときには周りにあった優しい寝床がなにか崩れた気がしたあと、しばらくして突然体が頭から引っ張られた。

 それから眩しい光を感じた瞬間なにか大きな手のようなものにつかまれて引っ張り出された。

 それと同時に息苦しくなり、口の中にあった何かを吐き出した。あまりの気持ちの悪さに叫ぼうとしたら、ふぎゃあという声が聞こえた。

 何が何だかわからなかったがほっと一息をついたところで、猛烈に尻に激痛が走った。

 どうやらたたかれているらしいことに気づく。


 これは、まさか、泣いていないから無理やり泣かそうとしているんじゃないか?

 しかし、ここで仮に言葉をしゃべれたとしても変な目で見られるだけだし、それにそものそも声帯が発達していない新生児の状態ではどのみち泣くことしかできない。


 あてつけるように大声をだしてみた。すると尻の激痛が収まった。


 これはなかなか骨が折れるな・・・・記憶を持ったまま転生とは、あいつは一体何を考えていたんだか。


 そこに女性の声か聞こえてきた。

「・・・泣かないから羊水が抜けきらないかとひやっとしましたが、問題はなかったようですね。元気なようです。ほら富田さん、抱いてあげてみてください。」

 目を開いたが周りが惚けて見える。


 そういえば新生児は視力が安定してないんだったか・・・・こんなことなら死ぬ前に医学書よんでおくべきだったな。


 しょうもないことを考えた正吉だが、次の瞬間無性になにかを口にくわえたくなった。強烈な欲求である。

 そして気づいた時には母親らしい女性の乳首を口に咥えていた。

「あらあら、この子ったら、甘えん坊さんね。」

 そんな声が頭の上から降ってきた。


 そのあと別の女性の声が聞こえた。

「奥様、乳母の用意は本当によろしいのですか?」

「ええ。この子は私が直接育てます。悠一さんといっしょになったときに決めていたことですから。」

「しかし、外聞が悪くなりませんか?その・・・・・。」

「富田家の跡継ぎを育てるのに乳母すら雇えないなんてというかたがいると?」

「はい。」

「そういう方には言わせておきなさい。毛利家の息女である私が決めたことです。」


 なにやら小難しいはなしをしているな。乳母を雇う雇わないで外聞を気にするとは・・・・本当に財閥の一家なのかもしれないな。あっちではうちのおやじの代につぶれるしかないと腹をくくったのが富田家本家の実情だったのにな。


 そう考えていたところ眠気に正吉は襲われた。


「あらららおねむのようね。」

「お名前はお決まりですか?」

「ええ。まさなり・・・・・正しいに風が鳴るの鳴で正鳴です。毛利家も富田家も海で家系をつくってきた家ですからね。それには正しく吹く風が必要でしから。悠一さんもこの名前がいいといってくださりましたからね。」


 それを聞いてから正吉は意識を離した。





 正吉こと正鳴が生まれて半年が経とうとしていた。

 ここのところ正吉はなんとなく自分が富田正吉であったことを忘れそうになっていた。正鳴とだけ呼ばれるのでうっかりすると正吉であることを忘れかけてしまうのである。

 しかし、なるようになれと考え、そのことについてはあきらめることにした。


 しかし、正鳴は最近驚いていた。生後半年もしないうちから音感教育らしく、ピアノの音を鳴らしてドレミファを理解できるように訓練をうけ、その上トイレトレーニングは徹底的に受けさせられた。

 実際のところトイレの問題は正鳴には簡単な問題ではあった。正吉のときの記憶があるので、準備された子供用トイレで問題なくできている。

 ただ辟易としたのは簡単とはいえ礼儀作法の訓練まで母の楓がしつこいくらいに教え込むことである。

 普通は言葉がしゃべれるようになってから教えるようなことではないかと思ったが、どうやらこの世界のこのクラスの家では普通の事らしい。

 なんでも三歳になったら受ける地元の富田系の私立幼稚園か東京の有名私立幼稚園の受験に最低限、自分の名前のひらがなでの読み書き、トイレ、簡単な挨拶の三つをクリアしなければならないらしい。

 寝てる時とミルクを飲んでいるとき、トイレをしているとき以外はほぼこういった教育の内容が積み込まれている。


 そして一歳半になるころには食事も食器をつかっておこなう訓練が始まり、一見遊びに見えるなかに教育がぎちぎちに詰め込められていた。


 そして二歳の誕生日がやってきた。どうやら誕生日の六月十六日は完全な四緑木星の日で上る太陽の日だと母の楓が教えてくれた。

 正鳴は服の着替えは自分でできるようになっていた。ただこの日、襞付きの白いシャツの上から自分でネクタイをしめてしまって、周りにずいぶん驚かれた。正鳴は正吉時代の癖でなんとなくネクタイをしめてしまったわけだが、普通この年齢でいくら教育をうけていたとしてもネクタイはしめれるわけがないはずなのである。

 失敗したなと正鳴は気分が落ち込んだ。


 誕生日を祝ってもらえると思って浮ついていたな・・・・・いまさらどうしようもないか・・・。


 あれから一度も和幸からの連絡はない。あれはたしかに夢だったが、一体何が起きてるのか正鳴には把握できておらず、もどかしい気がしている。



 住んでいる屋敷だろう建物の一部から、初めて正鳴は外に出た。

 蒼色に金色の刺繍された長い絨毯が敷かれている廊下を歩く。この蒼色の絨毯にもいろいろ意味があるらしく、海や貿易を意味し、それを踏みしめていくことを表しているらしい。


 それに加えてロイヤルブルーというこの色はヨーロッパでは蒼い血とされている貴族や王族の血族を表す意味でもあるそうだ。つまり持てる者、高貴なるものとしての責務をはたしていくという意味もあるそうだ。



 有力者というのも柵が多いとは思っていたが、思った以上に生活の中までいろいろと気を付けなければならないことが多岐にわたる。さきほどの絨毯ひとつとっても富田家が天皇系の傍系であるからつかえるそうで、そうでなければ普通の赤じゅうたんを使わなければならないそうだ。



 正鳴にしてみれば正直面倒な家に転生させてくれたなというのが正直なところである。


 いま正鳴が着ている服はオーダーメイドの絹織のシャツに、カシミアを細く紡糸して織り込んでつくったネクタイと同じ生地の燕尾服に近いデザインのスーツである。全体としてはホワイトタイを崩した形の礼服になっている。

 毛のスーツでなくてかゆくないので安心だが、これ一着つくるのに一体どれだけお金をかけているのか正直考えたくない。


 それだけでなく靴も黒の浮彫がされているデザイン性の高い革靴である。子供が普通身に着ける代物ではない。


 貧乏生活をしていた向こうの世界の富田家の実情を考えれば天と地の差くらいある。


 母親の楓に手を引かれていたが、目の前が明るくなる。どうやら屋敷の西にある大広間にでたらしく多くの人の声が聞こえる。


 

 扉を開けて中に入ると少し正面が広くなっており、左右に階段のスロープがつくってある。


 正鳴はまさかと思った。こういうつくりはヨーロッパの一部の王宮にしかないつくりで、王族と貴族をわけるようなつくりである。

 正直、これをつくったいまの家族の誰かの事を考えて頭が痛くなった。この流れからすると正面の手すりのところから挨拶をすることになるようだ。


 王族じゃあるまいに、何を考えてこんなつくりにしたんだか・・・・・。


 予想したとおり正面の張り出しのところに連れられてきた正鳴は父親の悠一のまつその張り出しの場所へつれられていき、悠一が挨拶をはじめた。


「本日はわが愚息正鳴の誕生を祝う会に参加してくださってどうもありがとうございます。わが愚息が・・・・・」


 悠一の挨拶は長かった。正鳴は正直足が疲れてきたが、ここで姿勢を崩すわけにいかない。階下の広間には多くの人の目がある。


 しばらくしてよこについていた母の楓も挨拶をした。そのあとそっと肩を抑えられて悠一が口を開いた。

「お前の番だぞ。だけど気楽にやればいい。すきなことをいっていいんだぞ?」

 茶目っ気のあるセリフだったが二歳児に何を言わせる気なんだか。


 正鳴は小さく頷くと、前に出た。そして声を張り上げた。こういうのは軍隊にいたころの朝礼で慣れている。それに挨拶の文章は楓があらかじめじゅんびしてくれていた。


「・・・僕の誕生日にきてくださってまことにありがとうございます!どうかたのしんでいってください!」


 一行か二行だけの文章だ。大して覚えるのに苦労する内容ではないが、それは正鳴が記憶があるからだ。そうでなければ覚えるのにどれだけ苦労したかわからない。


 金持ちはめんどうだなと思わずため息をつきたくなった正鳴である。

 階下からは拍手が送られた。


 正鳴はこれで部屋で休めると思ったがそうではなかった。悠一にこちらに来いと言われて階段を降りたところにある席に座らされた。


 似たような年頃の幼児をつれた男女が次々とあいさつに訪れた。そして幼児たちはこれまた判をおしたように「おたんじょうびおめでとう」といっていく。

 それにたいしてまさなりはありがとうございますと返していた。



 しばらくすると女中たちがお酒を配り始めた。お客の数人がほうと感心した様子だった。

「ほう・・・ドン・ベリュオンのロゼ56年のものですか~~。」

「これは来たかいがあったというもの。」


 だがお酒が入ったことで羽目を外す人間も出てきた。

「・・・・ふん、いい気なものだ。」

 その声をしたほうに顔を向けると、スポーツ刈りだが、若干肥満気味の男性が周りの人間にいろいろ言っている様子だ。しかも富田家のパーティであるにもかかわらず富田家の悪口を正々堂々といっている。


「・・あなた。森家のかたは招待しないという話ではなかったのかしらね?」

 鋭く楓が言った。悠一は首を傾げた。

「内輪の集まりだから招待状は出していないよ。入ってきたとしたらだれかの付き添いという名目だね。」


 どうやら予定外の珍客らしい。

「・・・たぶん天野家の姉さんがらみだろうね。」

「忍お姉様にもこまったものね。とりあえず騒ぎになる前に正鳴は部屋に戻すわ。」

「わかった。」


 しかし、正鳴と楓が席をたったとたんに、その人物は目ざとく見つけたようでつかつかと二人のほうに歩いてくる。

「おんやぁ?主宰が会が終わる前に退出されるのかね?それは礼儀にはんするのじゃないかね?」

 その言葉に悠一は肩をすくめた。

「菖蒲さん、ここは祝いの席ですよ。それに、あなたは招いてないはずですが?招かれてもいないのに来るのは礼儀に反するのではないでしょうか?」


 その言葉に菖蒲と呼ばれた男性は目を細めた。

「・・・この森家の菖蒲を捕まえてなんだそのセリフは!!森家を差し置いて招待する客なぞいないだろう?」


 どうやら面倒な客らしい。


「・・・・それに富田家はどうもいかんなぁ。前田家に仕えた同じ武家として、上下の別や武家の習いにあまりに疎い。おなじ前田家に仕えた家としては恥ずかしい限りだ。所詮、本質は卑しい金回しでしかないということかな?」


 それを聞いていた、後ろの男性が怒鳴った。

「なんだと!!森蘭丸が利家公の不興を買ったときにとりなして、死罪をまぬがらせたり、お金に困ったといったときに支援したこの家に唾するというのか!!だいたい、いまのそちらの家業の建設業を、藩の事業として任せたのは富田家三代目の慧眼があったからだろう!恩知らずの傲岸さにはあきれ返る!!」


 しかし、その男性に手のひらを軽く振って、抑えるように悠一はしめすと、にっこり笑った。

「もちろんそうですよ。金回しの一族であるのは確かです。前田家の台所を預かってた勘定どころとしてね。使うだけの家の方はいいですよね。苦労もなくきれいごとを並べていればそれでいいのですから。・・・とりあえず遠藤!森菖蒲さんを外にお連れしなさい。」

「・・・はい。」


 脇に仕えていた二人の男性使用人たちに遠藤とよばれた老執事が指示して、腕をくんで二人がかりで森菖蒲氏を外に連れ出していった。ここは本来なら控室につれていくところだが、どうやら招待客ではないことを理由に追い出すことにしたようだ。



 そのあと悠一は招待客に謝った。

「お楽しみを中断させてしまって申し訳ない。さてここで当家がほこる富田学園合唱部の皆さんに登場していただきましょう!」

 そういって手をたたくと、階段のうえのほうにずらりとそろいの服を着た少年少女がやってきた。

 そして引率の教師らしい女性が一礼すると、合唱が始まった。


 正鳴としては学校の生徒をこんな私的な場に引っ張り出していいのか気になったが、次の楓の言葉で霧散した。

「あぶなく、四栁さんに支払うお金が無駄になるところでしたね。」

「お金の問題ではないけどね。名目とはいえ、孤児の生徒への支援のために彼らには来てもらってるんだ。あんまりうちが寄付するといい顔されないからね。」



 誕生会というのはもっと小さくほのぼのとしたなかでおこなわれるものと正鳴は考えていたが、どうやらそういうわけにはいかないらしい。


 社会的ないろいろな要素を組み合わせて最適化して行うのが富裕層のパーティなのだと正鳴は悟った。



 正直、テレビドラマとかだとお金持ちのパーティというとおいしいものを食べながらにこやかに談笑して終わりだったが、現実は駆け引きを行う場に子供の誕生会であってもなるようだ。


 これからの人生を思いやって正鳴はがっくりと来た。

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