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歴史の狭間の中で  作者: 高風鳴海
第一章<新しい世界での生活>
15/18

幼稚園・年少生/夏休み編・伍

今回は短めですが、加筆はしません。

 この日、鮎川家の園遊会にまさなり達は招待されてきていた。

 場所は奥多摩にあるゴルフ場で、芝生の上にテーブルがいくつも設置されてそこで談笑が行われている。

 正鳴とななこはペアになって、啓信幼稚園の先輩にあたる年長生の鮎川瑞穂と会話をしていた。

 瑞穂は活発な性格で、いろいろな話をしてくれた。

 瑞穂の家はヨーロッパに商談に行くことが多く、フランスのルノー財閥とも関係があるそうだ。

 正鳴たちが会話していると、一人の少年がやってきた。

 見覚えがある。確か別のクラスの岩崎邦彦だ。入学式で新入生総代をやっていた正鳴の学年のトップエリートである。

「瑞穂ちゃん、こんにちは。えっとそちらの二人は?僕は岩崎邦彦、啓信幼稚園の年少生だよ。」

「ああ、邦彦君。こっちのふたりも邦彦君と同じだよ。こっちが富田正鳴君で、こちらが三井ななこちゃん。二人とも婚約してるんだよ。進んでるよね~。」

 まさなりとななこも自己紹介とあいさつを返した。

 邦彦は興味深そうに正鳴をみつめている。

「そっか~。君がか・・・。瑞穂ちゃんと僕も許嫁なんだ。婚約はまだだけどね。お仕事のことだけど・・、僕のお父さんが三井家に先を越されたって悔しがってたよ。武器ならうちがつくるのにって。えっとプラズマレールガンだったかな?」

 その言葉にまさなりはぎょっとした。プラズマレールガンの事は富田家と三井家の企業秘密で、漏らしていないはずだ。

 案の定、瑞穂が顔をしかめていた。

「邦彦君、それはいっちゃだめだっていわれてたでしょ?」

「え~でもこの二人なら知ってるからいいでしょ?」

「だめなものはだめ!」

 まさなりはその様子にほんわかした。なかなか仲の良いふたりだなぁと思った。

 ななこと二人顔を見合わせてまさなりは笑った。


 大人たちの会話が聞こえてきた。

「三井の、どうせだからうちもその件に噛ませてくれないか?」

 そちらをみると邦彦とよくにた顔立ちの男性がすらっとした痩せぎみの男性と会話していた。

「岩崎さん、鮎川さんから聞かれたんでしょうけど・・・正直、この件はやっかいですよ?金食い虫になって事業になるかも怪しい。」

「だが将来性はある。火薬方式の砲弾は頭打ちだろう?うちでも固形式のレールガンは実用化はしているが・・・さすがにプラズマ気体制御のレールガンまでは研究すらしてない。タングステンは住友素材がシベリアから提供してくれているからどうにかなってるが・・・それが何時まで持つか怪しい。水を砲弾にできる技術は将来的に宇宙に出ることを考えると必須だろう。」

 どうやら細めの男性は三井重工業の関係者、おそらく社長の三井雄介氏らしい。

「わたしとしては出資いただけるならありがたいですけど、将来の収益までは保証できかねますよ?」

「かまわんさ。武器に関してうちは日本一を自称しているからな。」

 雄介氏は使用人を呼ぶと、何事かを話した。

 しばらくして悠一と秀直氏がそれぞれの妻をつれてやってきた。

 そこで話し合いをし始めたが、岩崎氏は設計図がすでにある事を聞かされて唖然とした様子だった。

「設計図がすでにある?それはどういうことだ?」

「残念ながらそこまではお話できませんが・・・・ただこの設計図が厄介でして、使用されている部品の製造がまず困難なんですよ。アメリカやドイツの連中にもできるかどうかも怪しい。」

 秀直氏の言葉に胡乱な目をむけた岩崎氏だった。

「つくれるかどうかも怪しいものなのに設計図があるというのは・・・・。」

「もちろん部品それぞれに対する設計図もありますよ。ただこの部品に必要な素材の合成が今の技術でできるかといわれると・・・お手上げ状態なんですよ。」

「素材の事ならうちの三菱素材産業がどうにかできるかもしれん。とにかくその設計図を見せてもらうことはできないか?」

 その言葉に雄介氏は肩をすくめた。

「私は別に構いませんよ。言い出しっぺのこのお二人が許可すればですが・・・。」

 秀直氏が頷いた。悠一もう頷き返す。

「それならお見せしましょう。」

「さっそくで悪いが今すぐは無理か?」

「移動していただくことになりますがよろしいですか?」

「ああ・・・それに鮎川さんもさそったほうがいいな。だがこの会の主宰だからぬけれんか。」

 正鳴たちも園遊会を抜け出すことになった。

 ななこは若干おかんむりだった。これから子供同士で遊ぶつもりだったからなおさらだ。

「おにごっこするつもりだったのに~~。」

「ななこちゃん、しかたないよ。お仕事がたいせつだからね。」

「むぅ・・・」

「こんど邦彦君や瑞穂ちゃんとも幼稚園で遊ぼう?」

「うん。」

 三井家の屋敷につくと正鳴とななこはななこの部屋でしばらく遊んでいた。

 しかし、そろそろ夕飯の時間になるくらいで、書斎に呼ばれることになった。


 書斎では岩崎氏、下の名前を誠という、雄介氏、秀直氏、悠一が原寸大に起された部品の図面を真剣な様子で眺めながら議論していた。

「・・ここがこうか・・だがここの素材の製法がわからないぞ?」

「そこはノートによると、加速落下させている真空の部屋で放電して生成するとなっていますね。無重力あるいは低重力でないと作れない素材です。」

「とんでもないな・・・・・。地上で無重力をつくりだすなんて無理じゃないか?」

「いや・・・このように高層化させた地上200階地下150階の施設をつくれば加速落下中に製造はできます。大量生産するのもこうすれば・・・。」

「金がかかり過ぎる!!」

「だからいったでしょう?この計画は金食い虫だと・・・。」

「宇宙に施設をつくるのとどっちが安いかですね。」

 その言葉に正鳴は苦笑した。地上で自由落下をさせずにつくる方法はある。ただそのために大量の電力が必要だ。

「ああ、正鳴きたな?」

 悠一の言葉にほかの三人が此方を向く。

「参りましたけど・・・・どのような御用事ですか?」

 秀直氏が苦笑した。

「岩崎誠さんと三井雄介さんだ。二人には君のことを話した。」

 正鳴はしょうじき参ったなと思った。

「ふむ。彼が三井家の秘蔵っ子ってわけか?」

「正確には富田家の・・・ですが。」

「親戚になることが決まっているんだ。いまさらだろう?で、本当なのか?」

 とりあえずいま四人が会話していた内容について補足説明を正鳴はした。

「いま無重力状態での精製を問題にされてましたけど、大量の電力を使うのであればそこまで大規模施設を作らなくても無重力や低重力を作れます。たぶんその方法のほうが大量生産には向くと思います。ただそのために別の研究が必要です。」

 そして正鳴は重力遮断・あるいは引力遮断とよばれる、位相速度を利用した技術を説明した。

「・・ということなので角度的にこのような形で地面方向と天頂方向に遮断面をつくればその中は無重力にできます。そのためにはレーザーマニュピュレーターを半導体レーザーで実現する必要があります。その素材ですが・・・・。」

「おいおぃ・・・結局それにも無重力材料が必要じゃないか?」

「それについては少量で済むので大型航空機をつくってそこで作れば問題ないはずです。施設さえ完成すればあとは大量生産ができますから。」

「原子を一定方向に揃えてスピンを加速させた状態で固定するわけか。」

「そうです。加速がこの値以上になればレーザー接触面を除いて外部との干渉性が失われますからそこで引力遮断が発生します。」

 正鳴はひとつひとつ説明していった。

 結局そのひ夕飯を食べたのは零時をすぎてからだった。不健康だなと自嘲するしかなかった。

 案の定、次の日ななこが起しに来て、正鳴は眠い目をこすりつつ洗面をしたのだった。


 その日の朝食の席で、岩崎誠氏が正鳴と悠一を自社の工場へいかないかと誘ってきた。三菱重工業の工場といえば大日本帝国の銃砲製造の最先端の場所である。

 

 正鳴も現在の技術を知りたいと思ったので頷いた。

 するとななこもついていきたいと言い始めた。

 心配そうに秀直氏がななこにいいきかせようとしたが、誠氏は苦笑した様子だった。

「昔のうちの者だったら、女は仕事場に来るなとか言いそうだが、今はそういう時代じゃないから大丈夫だよ。帝国陸海軍には女性兵士もたくさんいる。兵器を小さいころから知ることは大切なことかもしれん。ただな、お嬢ちゃん?工場は危ない場所だから言いつけはまもってもらうぞ?それでもいいならつれていくが?」

「はい。約束します。」

 誠氏は頷いた。



 そして神奈川県の某所にあるという地下秘密工場に正鳴たちは連れてこられた。なにも秘密工場につれてこなくてもと思ったが、この工場では艦載用の固形式レールガンの設計と製造を行っている。

 基本的に陸軍からは航空機やミサイル撃墜用のものを、海軍からは艦砲用のものを受注しているそうだ。

 設計室で正鳴はいくつかの図面を見せられた。

「いまこっちでつくってるレールガンはこんな感じだが、坊主はなにか気が付いたことはあるか?」

 正鳴としては知識や完成した図面は頭に入っているが、それの応用をできるだけの知識が足りてない。

 だが、いくつかの電力の無駄の改善を図る方法は指摘できた。

「力場構成コイルの材質が問題ですね。いまこれは伝導度の兼ね合いから銀を使っていますが、ケイ素を素体とした常温超電導線に切り替えれば効率が上がるはずです。」

 その言葉に誠氏は目を細めた。

「ケイ素は半導体素材という思い込みがあるが・・・・超電導素材になりえるのか?」

「長いケイ素ナノチューブの形成技術を確立する必要があります。単分子化させる必要があるのでかなり手間ですけどね。単分子化したケイ素のチューブの中を電子は損失が少ない状態で通過できます。炭素でも同じことができますが、安定性に難があり、発熱に弱いのでお勧めはできません。やるなら最初からケイ素で作るべきです。」

「なるほど・・・・。効率はどのくらいあがる?」

「具体的な数字はあげずらいですが・・・純銀の線をつかったとしてこの巻き数から計算すると電力消費は少なくても85%は削減できます。」

「ずいぶんな数字だな、おぃ。」

「単分子チューブは金属の単結晶の線をつくり、それに電気を流してその表面に原子ケイ素を組織化する方法で作ります。基本的に半導体のシリコンウェハーの形成技術の応用線上にある技術です。」

「それなら分かる。だがそうなると素体となるケイ素の純度を上げなくてはならん。金食い虫だなあ。とりあえず坊主の名前と俺の名前でそのシリコンナノチューブの特許をとるぞ!」

 ななこはわきで静かにそれを聞いていた。

 休憩室に戻ると、ななこが関心した様子だった。

「正鳴君、まるでお父さんみたいだった。かっこよかった!」

 正鳴は苦笑するしかなかった。


 岩崎誠氏は思い立ったら吉日、拙速は巧遅に勝るを地で行く人で、その日のうちに正鳴は製造方法の細かいレポートを作る羽目になった。

 そして、夏休み中なのをいいことに秘密工場で缶詰にされた。

 工業的実験室も併設されているので、真空実験室で実際にそのケイ素ナノチューブの生成を行うための実験施設を作ることになった。

 八日間かけてできたケイ素ナノチューブの線は非常に細い銀色をしていたがせいぜい20センチメートルしかなかった。

 実際にできた単分子チューブの物理特性の調査は工場の研究部門が引き継ぐことになり、ようやく正鳴とななこは工場から外に出ることになった。


 明日から幼稚園の二学期が始まる。今年の夏はいろいろと密度が濃かったなぁと思い起した正鳴だった。

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