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歴史の狭間の中で  作者: 高風鳴海
第一章<新しい世界での生活>
12/18

幼稚園・年少生/夏休み編・弐

今回も少ないので、後で追加・編集します。

5/25:サブタイトル間違いを修正しました。

 朝食を食べた後、着替えなどの旅行の荷物を自分で正鳴は準備して、チャンピオンのボストンバックに詰め込んだ。


 使用人が最初は準備しようとしたのだが、楓が自分で準備するように言ったので正鳴は自分で準備したわけだ。楓曰く、こういうところで楽をしていると、いざという時に動けなくなるとのことだった。忙しい時は仕方がないが、いまは時間があるのだから、感覚を失わないようにするのに自分で旅行の荷物は準備するのだと楓は滾々と説明した。


 別段、正鳴は使用人の仕事がどうのという拘りはない。むしろ前世は少し裕福な家庭に育ちながら、自分の代では貧困化して散々苦労してきている。貧困になるのは正吉の父の龍蔵の代に森家と辻家を中心とした囲い込みで決定づけられていたようなものだったが、正吉の代にそれを防ぎきることはできず、子供に十分な教育を与えれなかったのも事実だ。



 和幸の父の一夫は龍蔵が家の歴史を伝えなかったように考えているらしいが、実際は正吉に余裕がなくて子供に伝える機会が無かったのが事実だ。孫には多少伝えたが、そのなかでも和幸は自分の祖先でもあるから、いろいろ知らないことも逆に知っているからややこしい。


 富田家に伝わる古武術らしい、神保流の武術も和幸は知っているらしい。正鳴自身は名前だけちらっと聞いていただけだ。なんでも森家と辻家には文永年間のころには豪くこの流派は嫌われたらしく、次第に廃れた歴史があるそうだ。

 それというのも日下部から朝倉、富田へ至る間に作られた武術で、江戸幕府の励行によって作られた武道ではなく、殺すことを目的とした代物だそうだ。

 日本の古武術に打撃技がないように思われがちだが、実際には明治維新までの間に廃れただけにすぎないのである。関節技との複合で教えている流派が多かったせいもある。

 鎧を着ている相手を絞め殺すだけでなく、首元に手を入れて爪で喉をつぶしたり、投げ落としたあとに手刀や脇差でとどめを刺すなどの素手のみならず、刀剣術との組み合わせや、果てや刀や槍を使って相手を投げ飛ばす技まであったそうだ。武具百般を使える事を信条としていて、そのなかに素手格闘や暗器の使用法も含めていたそうだ。

 ここまで殺しや無力化に特化すれば、太平の世では嫌われて廃れるのもある意味無理もない話ではある。

 神保流の名前の由来はそのまま「神が保つ」を意味しているそうだ。




 迎えの車は十時半ぴったりに着いた。

 軽井沢の別荘地に着くまでにしばらく時間が掛かる。首都高速道路外環自動車道はこの世界でもよく込み合う場所だが、ウィークリーの午前の時間帯なので割と空いていた。

 その間、自動車の中で楓と智子はいろいろと会話を楽しんでいる様子だった。

 ななこは途中で眠くなったらしく、正鳴に寄りかかって寝ている。

「・・・一応、李家や桃山家の事を調べてはみたんだけどね。辻家と森家をつないでいるパイプでもあるみたいね。辻家は芸能関連や教育現場での実働の仕事に従事し、森家は作戦立案や辻家の全体の統括をしている感じで、李家がそこに商売品の違法薬物や資金を提供している感じね。」

 智子の言葉に楓は首を振った。

「それだけならいいんだけどね。著名な国内劇団のいくつかが李家の資金で運営されているのまでつかんだのよ。おまけにうちの本部のある富山県の利賀村が、完全に工作員の養成施設と化してるのよ。表向きの名目は演劇の研究ってなってるけど、工作活動の為の演技訓練をやってる。それも反政府的な組織運営されてるから頭が痛いわ。」

 楓によると、庄川上流の利賀村は演劇を村おこしに使い、国際演劇村として表向き成功しているそうだが、実際は反政府組織の、それも低年齢の青少年を工作員に仕立て上げる場所になっていて、そこの指揮を辻家がとっているそうだ。

 テレビ局やラジオ局の運営においては、芸能プロダクション自体が李家の出資によって賄われているケースがかなり多かったそうだ。そのうえ辻家の作り上げた工作員の一部が芸能プロとしてそういった場所に入社し、活動をしているそうだ。

 工作員の多くは未成年の中高校生や大学生が多いらしい。その理由が男性を罠にかけるのに適しているからだそうだ。

 実際テレビ局の幹部や、一部の政治家がこのハニートラップに引っかけられて辞任に追い込まれているケースが多々あるようだ。辞任ならまだいいが、それを弱みとして操られているケースがさらに多いようで、非常に頭が痛いと楓がボヤいていた。


 ぼやいていてもどこか楽しそうなのは女性独特のものだろうか。

 そんな疑問を正鳴は感じた。



 自動車が長野県に入るころになると、周りは山々に囲まれており、軽井沢の場所が、長野盆地の入り口にあるからどんどん山に吸い込まれていくような情景だ。

 あちらの世界では新幹線にあたる日本高速鉄道の新型車両が左わきを走っていく。

 いいのか悪いのかわからないが、あちらの世界では正吉が死んだときには富山県には新幹線は開通していなかった。それどころか財源不足を理由に中止の話がでていたくらいだ。

 しかし、こちらの世界では四十年も前から全国に高速鉄道網が敷かれている。

 そのうえ東京と大阪の間にはリニア高速鉄道がすでに開通している。自治体との関係が太平洋戦後になって変わったあちらと違って、上意下達を基本とした中央集権が維持されていることから、中央の計画を推し進めるだけで自治体の意志はあまり考慮されないからだろう。

 逆に言えば、地方自治が行われているとは言い難いから、地方の意見を出すのにあちらより苦労することになる。陳情に中央に出る地方政治家の数は多いだろう。

 しかし、統一的な計画の下に地方都市計画が進められており、計画に齟齬が生じにくいのもいい点ではある。



 小学校の社会科の教科書を読んで分かったのだが、こちらの世界では農地解放が行われていないため、寺社の荘園はそのまま温存されている。

 一部の地主の横暴も聞かれるが、それ以上に農業生産において寺社の果たしている影響は大きい。

 昨今では工場型農場を多数経営している寺社も多い。

 あちらでは宗教法人には税の優遇があったが、こちらにはない。それというのも、会社組織の一形態として寺社の荘園が認知されているからだ。

 小作農の人たちの悲劇も起きているが、荘園は、政府の監査がはいることになっており、地主の横暴を許容しない方向ができている。

 現時点で小作農への最低賃金以上の支払いの義務が荘園には課せられており、それに違反すれば荘園としての認定の取り消しのほか、経営者の財産没収などの強烈な罰則規定もある。

 大正の時期の地主に搾取される小作農というイメージはすでに過去のものになりつつある。

 株式会社に移行した寺社の荘園もあるくらいだ。

 このことで一番影響が大きかったのは、農産物の自給率の高さを維持することが可能だったことだ。農地解放によって農作地が細分化されるのが行われなかったために農産物の競争力を維持できたことがある。

 また林業のほうでも寺社に経営による山林の管理が行われており、放置林が生まれるのを防いでいる。

 農業経営が個人経営では競争力が維持できない事実が露呈した結果ともいえる。

 長野に至るまでの高速道路の脇では至る所で、そういった寺社経営の荘園が広がっていた。


 軽井沢の別荘地は幾つかに分かれているが、そういった中で、比較的日本人の別荘地が多い場所に三井家の別荘は立っていた。

 総二階建て洋館で、それなりに大きな屋敷だった。門にには金属製の門扉が閉められていた。


 門のところで、智子が自動車から出て、門扉のインターホンで門を開けてくれるように言うと、門が開いていった。どうやら電動式の門扉らしい。


 自動車で中に入ると、使用人だろう、老年に差し掛かったお仕着せを着た男女が玄関先に出てきた。

 そして、一礼すると、玄関先につけたドアを運転手の砂田さんが開けると、にこやかに挨拶してきた。


「富田楓様と正鳴様、奥様にななこ様、ようこそ御出でくださりました。この日向楽しみにお待ちしておりました。少し遅くはなりましたが、ご昼食の準備は整えてございます。旅装を解かれたら食堂までお越しください。」

 脇にた女性が、正鳴ら四人が屋敷に入ると、目礼してから自己紹介をした。

「この日向和沙の妻で妙子と申します。富田様には初めまして。屋敷の事なら何でもお聞きください。」


 そのあと正鳴と楓は別の若い使用人に案内されて割り当てられた二階の部屋に行った。

 二階の部屋はそれなりに広かったが、奥の部屋にはツインサイズのベッドが三つ並べてあった。

 そこで正鳴たちは上着を脱いだだけで、特に着替えもせずに、食堂へ向かった。

 食堂で勧められた席に着いたが、ダイニングテーブルが長かった。

 智子が苦笑いをしていた。

「このテーブル大きいでしょ?親戚中が集まって会議できるようにこんな感じになってるのよ。会議室は会議室で二階の別の部屋にもあるんだけどね。」

 智子によるとこの屋敷はもともと本家の別荘の別宅だったそうだ。本家の別荘の本宅は長野のプライベートエリアにあり、そこにはプライベートゴルフ場やスキー用のプライベートゲレンデまであるそうだ。

 そこは湖があり景観がすばらしいそうだが、親戚同士あつまったらあつまったらでいろいろ面倒ごとがあるから智子は普段はそちらには行かないそうだ。


 昼食はサンドウィッチにコンソメスープにサラダといった口で言えば簡単なものだったが、材料はずいぶん手が掛けられていた。

 はさんであった具の一つは厚切りのローストビーフだし、そのローストビーフもかなり下拵えをしてからローストしてある様子だった。たぶん一晩はオリームオイルとハーブにつけてあったのだろう。全然生臭くないのに肉の香りと喧嘩してないのだ。

 たぶん、レタスもひょっとしたら特別に栽培されているものかもしれない。葉の種類が、東京の大手スーパーやデパートに置いてあったものとは全然違った。

 あとのバターや、パンも厳選してつくられていることが予想された。一見贅沢には見えないが、非常に手間暇をかけてある本当の贅沢とはこういう事なのかと正鳴は内心驚いていた。


 食事を終えると、智子とななこに屋敷の中を案内された。ななこには手を引っ張られて正鳴はあちこち連れまわされたといっていい。

 途中、廊下のあちらこちらに主張しない形で絵画が飾ってあったりした。


 案内が終わると二階のプライベート用というリビングに案内されて、そこのソファーで話をすることになった。

「正鳴君、食事はどうだったかしら?」

 いきなり智子に言われて正鳴は肩をすくめた。

「見た目と裏腹に、非常に手間暇かけられている贅沢な食事でした。美味しかったですが、正直、毎回これだと安心できません。」


 正鳴の言葉に智子がクスリと笑った。

「子供のわりによくわかったわね。ふふふ・・・実はあれ、ここに初めて来られた方に必ず出す伝統の食事なのよ。」 


 正鳴はなるほどと思った。その食事をしての反応で相手を試すわけだ。そのことを言うと智子は苦笑いだ。

「私もあんまり人を試すなんてしたくはないけど・・・本家時代からの伝統というやつで仕方がないのよね。名家であるということはこういう決まりごとに縛られることと同義だからね。」

 楓は笑っていた。

「私はずいぶん歓迎されていたと思ったわ。あのコンソメつくるのにどれだけ手間かけたのよ?」

 その言葉に一瞬智子は唖然とした様子だった。

「・・初めてでそれがわかるとはね。というか前から気になっていたけど、楓は微妙に舌肥えてない?正鳴君とは対象的だけど。」

 智子はあのコンソメを作るのに三週間かかっていることを教えてくれた。

「三井家でもさすがにあそこまでのコンソメは普段口にできないわよ。」

「いやいや、それでも三井家はすごいわよ。うちなんて、インスタントのコンソメの元で下味つくってるくらいだし。あのコンソメを下味にした料理もあるんでしょ?」

「まあ、それはそうなんだけど・・・・なんだか驚かす予定が狂ったわね。毛利家なのか富田家なのかわからないけど・・・・・御見それしましたってところね。」

 楓が肩をすくめた。

「うちは贅沢の仕方は知ってるし、それが何の知識はあるんだけど・・・形から入る家だからね。中身は後回ししされることが多いわね。使用人を雇っていてもあんまりそれに任せようとは思わないけどね。それよりも仕事優先って感じだわ。」

「噂通りの日下部の血筋だわね。日本の影の一族って呼ばれるのも無理はないわ。」

 その言葉に楓は肩をすくめただけだった。


 二人が会話している間に、ななこがチェス一式を使用人に持たせてやってきた。

 ここのチェスはクリスタルと黒メノウのチェスで、正鳴が持っているような携帯式のチェス盤と木製の駒みたいに子供には運べるものではないのだ。

 駒を並べる間、石のチェスの駒は予想通り重かった。


 二人がチェスをやり始めると、しばらくゆったりとした時間が流れた。


 その日の夜遅くになって秀直氏と悠一が到着した。二人とも仕事が押しているらしく、到着してからもビジネス計画の話ばかりしていた。ほとんど会議に近い。部下も何人かついてきており、正直一階のほうは慌ただしかった。

 正鳴も会議に付き合わされる羽目になり、気づいたら朝の四時になっていた。

 チェスのあと昼寝をしていたからよかったものの、それでも眠かった。

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