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歴史の狭間の中で  作者: 高風鳴海
第一章<新しい世界での生活>
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幼稚園・年少生一学期末試験編

今回も短めなので、あとで付け足すかもしれません。

 その日は朝から慌ただしかった。

 それというのも次の日から幼稚園の一学期末試験があるというので、注文していたオーダーメイドの文房具を都心のお店に取りに行ったからだ。この時点でどれだけお金かける気だと正鳴はいいたくなる。

 そのうえその中身は幼稚園児なのに万年筆である。そこの時点でなにか可笑しいと普通は思う。それだけではない。その万年筆のペン先はプラチナ合金製である。一般用のステンレスのもので構わないのではと思わず楓に言った正鳴だったが、楓曰く、上流階級ではプラチナのペン先を使うのが常識になっているとのことだった。

 しかも本体は本体でチタン合金製のものだった。正直樹脂製の一般用の万年筆でいいのにと正鳴は思った。プラチナとのイオン化傾向の差で電蝕をさけるためにペン先との接触面には特殊な樹脂加工がなされている。

 金属製の本体のほかに大山石だかなんだか有名な石材でできた本体のものもはいっていた。うかつに落とせば欠けそうである。

 ペンケースは革製の重厚なつくりのもので、富田家の家紋の押し印が押されている。

 家紋はあちらの世界では取りつぶしの時にいろいろあって家紋のなかった一般市民用の家紋にされている代物である。富田家には表向きのその家紋のほかに天皇家の末流を示す鵬の隠し家紋もあったりはするのだが、表ざたにされてはいない。

 文具屋で試し書きをするわけだが、正直、年少生の正鳴には重い。

 それでも上流階級の嗜みとして期末試験ではこれを使えと楓には強く言われた。

 



 そして迎えた試験当日、配られた運筆のプリントに正鳴は万年筆で運筆の課題をこなした。

 周りを見れば普通の鉛筆で試験を受けている同級生も多かったが、万年筆を使っている同級生も少なからずいる。ちなみにななこもそうである。

 運筆の試験を終えると、今度は鋏をつかって紙を切り抜く試験である。


 この時使う鋏もオーダーメイドのチタン合金製の代物である。普通のステンレスの鋏と違って赤銅色をしている。持ち手は黒い樹脂製のラバーで包まれており、子供が持つような鋏ではない気がした正鳴である。

 鋏での切り離しは問題なくできた。


 試験は続く。次は五十音の平仮名とカタカナを使った問題に単語で答えるテストだった。

 これはわりにはやく正鳴は終えた。平仮名やカタカナと指定されていない場所は全部漢字を混ぜて書いてある。

 計算の問題も混ざっており、それにも正鳴はきちんと答えを書いて提出した。


 

 ペーパーテストが終わると、今度は実技試験である。礼儀作法についての試験で、続く昼食もカテラリーの使い方の試験となっている。


 昼食の試験を終えると今度は昼寝の時間だが、ここでも礼儀作法についての試験が続いている。布団の敷き方、整え方などのほか、布団への入り方などまで礼儀作法にある。

 寝るときにおやすみなさいと声をかけることを忘れなければ進級には問題はないが、布団への入り方の美しさも採点にはいるというのだから侮れない。



 試験が終わったのは夕方の五時過ぎだった。正鳴はもうぐったりである。



 その日は夕食を食べてすぐに眠りたかったが、そういわけにはいかなかった。

 それというのも、三井ビルディングとの合弁会社の名前で種だねの特許を大日本帝国とアメリカ合衆国、ヨーロピア連邦の三国で出していたが、このうちアメリカ合衆国で二十二件の特許のうちの三件、ヨーロピア連邦では二十二件の特許のうちほぼすべてが差し戻しを受けたのだ。

 その理由が共通して、現状証明できないという事にされている。


 ヨーロピア連邦では旧デンマーク王国のコペンハーゲンの学閥が合弁会社の理論をことごとく否定しているらしい。

 それが影響して海外展開が非常に難しくなったと悠一が暗い顔をしていた。


 正鳴への相談がこれの対策は何かないかということだった。

 正直、アメリカ合衆国はともかくヨーロッパの事情には正鳴は疎い。ドイツ中心のヨーロピア連邦は正鳴が向こうの世界で死亡したときはなかった国だからなおさらである。ヨーロッパ共同体がよくやくまとまり、ヨーロッパ連合構想に移行する議論が交わされていた時代だ。


 正鳴としてはこういう時の対策は、お金を使うやり方しか思いつかない。

 アメリカ合衆国ではロビーを育てる。育てるといっても単純ではなく、福祉団体に定期的な義援金や寄付金を渡して、ロビー活動の下地になってもらうことが絶対必要になる。政治団体はそれ自体が主張するところが強く扱いづらいから福祉団体なのである。

 ヨーロッパでも似たような状況だが、ユダヤ商人やヨーロッパの王族・貴族階級と渡りをつけることが求められる。正直コネクションが無ければすぐには無理な相手なのがヨーロッパである。

 特許の性質上、それ自体を根回しで伝える事は難しいが、相手の国や地域にあらかじめ味方をつくっておく根回しがアメリカ合衆国やヨーロッパでは必須なのである。

 もっとも三井家のバックアップがあったのにそれだから、向こう側の技術関係政府高官が絡んでいる可能性も高い。

 そうなってくるとお金をばらまいてロビー活動で押し切らない限り、技術の逆の占有を行われたり、囲い込みを行われたりする可能性が高い。

 むこうの世界の日本が開発したコンピューターの形式であるトロンや、戦前のテレビジョン開発などで、日本側はアメリカ合衆国での特許申請を退けられるばかりでなく、その特許を逆にアメリカ合衆国の企業に後出しで取られている。これはアメリカ合衆国の企業というより政府がその技術の重要性を認知したがために、アメリカ合衆国の国益のために日本の企業に特許を認めなかった代表的な例である。

 ロビーを維持するにも、広めるにもお金をばらまけるだけの資本力が必要だし、重要な案件を押し通すには企業規模がどうしても必要になるのはこういった理由があるからだ。


 正鳴がとりあえずの方策を話すと、悠一は考え込んでしまった。富田家もまがりなりにも貿易で財を成す国際企業なのだから普通にこの手の知識があるはずだと思っていたが違ったらしい。


 あちらの世界で日本の企業がバブル時にアメリカ合衆国進出で痛い目をあった最大の理由がこのロビーの育成と根回しをしなかったことにある。

 アメリカ合衆国の誇りともいうべきビルを買い取ったり、大々的な行動をとっておきながら、味方になる現地の組織を育てなかったのが最大の問題だった。だから金をむしり取るだけむしり取られてあとは結局安値で不動産を売り払う羽目に羽目に陥ってる。

 貿易摩擦があったから、立ち回りが難しかったのも事実だが、もう少し向こうの組織・団体に配慮していればそこまで叩かれることはなかったはずだ。


 その点、向こうの世界での中華人民共和国の国営企業や海外に作った関連企業は根回しだけはしっかりしている。製品の質があまりよろしくないとはいえ、叩かれることが少ないのはそれがあるからだ。


 特にロビー活動費についてはかなりのお金を政府自体が支出している。向こうの世界で中華人民共和国の横暴があってもなかなかアメリカ合衆国がそれに対して実力行使を行わないことが多いのもその影響が大きいからだ。

 チベットやウイグルでの現地人の虐殺が行われても動くことすらないのは華僑による根回しが完璧なことが災いしている。

 中国叩きすると議員の多くが華僑や関連企業からお金や支援をもらえなくなるからだ。

 向こうの世界の日本が次の世界大戦前に中華人民共和国に負けかかっていたのもそういった根回しの差が大きいからだ。


 一番痛いのは、日本の皇室と親交のあるイギリス王室が香港の李家の系譜と強いつながりを持っていて、終始あちらよりの考えを持つことだ。

 イギリス王室の宮廷魔術師として名をはせていたアレスター・クロウ・リーもこの李家の関係者だと言われている。オカルトの話題ではあるが、現実、アレスターはイギリス王室に重用されていたのは事実である。

 もちろんそこには香港の財閥家ともいうべき李家のバックアップがあったのは事実だ。


 李家というのはすももの家の意味だが、その祖をたどると、太公望とされる呂望につながる。呂望がすももが好きだったことから分家に与えた姓が李であるとされている。三国志で有名な呂布とも関係がある家柄だということになる。 

 アヘン戦争前にイギリス側について、清でのアヘンの密売に関わっていて財を成した家である。

 あちらの世界の日本では漫画家集団に出資をして、思想のインプリティングを中華人民共和国政府の意向で行っている事でも有名である。


 あちらの世界の日本は内と外両面から中華人民共和国に攻められているといえる。その代表が李家なのである。


 取り扱っていたのがアヘンであることから推測される通り、あちらの世界の日本国内の違法薬物を売買している元締めの一つである。朝鮮民主主義人民共和国で覚せい剤を製造し、それを日本に密輸入させているのも李家なのである。裏の財閥家といえる存在だろう。


 報道関係者にも強いつながりがあり、芸能人に覚せい剤や合成麻薬が広がっているのもこれが影響している。


 昨今では大麻をベースとした依存性の強い合成麻薬を主力商品においているという話もある。その大麻の供給元は中華人民共和国とコロンビアであり、コロンビアにあるのはイギリス王室からのつながりである。


 あちらの世界で戦前から戦後にかけて南アメリカ大陸に移民した日本人の一部に大麻を作らさせた首謀者が李家でもある。その関係者がアメリカ合衆国で反日を掲げるのだからなおさら救えない。もちろんそれは中華人民共和国の意図である。



 こちらの世界にも李家は存在するはずである。そのことに気づいて、正鳴は一瞬青い顔をした。貿易で財をなしているのが富田家である以上、お得意先に李家があっても不思議はないはずである。


 そのことを悠一に慌てて聞くと、悠一は首を振った。

「李家とは関係がないわけじゃないが、うちは取り扱ってないな。伊藤商事が取り扱ってたはずだが・・・・・。」

 正鳴が向こうの世界での違法薬物事情を話すと、悠一はこめかみに手でもんだ。

「む~。さすがに荷物の中身全部を確認しているわけじゃないからな。うちが取り扱っている荷物から違法薬物が見つかったことも何度かある。李家が関与していたのか・・・・・・。いまは桃山っていう姓を日本では使っているな。満州のほうで違法薬物の密売が多くてアメリカ合衆国が調査にていこずっているという話もある。今回の件を進めるのにカードの一つにするか。」

 その言葉に正鳴は別の意味で唖然とした。

「それって裏の企業を敵に回すことにならない?」

「貿易は大なり小なりそういう厄介ごとが付きまとうものさ。相手がどこかわかっていれば対処の仕様もある。住友さんほどではないにせよ、貿易商社としては富田海運はそれなりに大きいほうだからな。」

 なんとも頼もしい父親だなと正鳴は正直思った。



 数日が過ぎて、期末試験の結果発表があった。


 運筆と算数、国語、英語の科目で正鳴は一位をとることになった。一方、礼法、音楽、美術の科目のほうでは上位順位にはいることすらなかった。

 ななこのほうは正鳴に負けたとこ以外はパーフェクトだった。

 総合で辛うじてトップをとったことにはなったが、成績を楓に渡すときに川上教諭は音楽と礼法、美術の習いごとをすることを勧めてきた。

 音楽と礼法についてはすでに家庭教師に習っているから居た堪れない。美術に関しては、お絵かきをしただけだが、一応クレヨンで写実的になるように風景を思い浮かべて書いたはずだ。


 家に帰ると、その成績の理由が楓に説明された。

「正鳴、よくやった。パーフェクトよ!」

 三つも発表順位外をだしていてパーフェクトはないなと思った。そのことを指摘すると、楓は苦笑した。

「運筆、算数、国語、英語はほぼ明確に採点基準が存在する。だから採点側が意図的に下げることは難しい。一方の礼法、音楽、美術は採点側の主観がほぼ採点のすべてを意味する。意味はわかる?」

 正鳴はさすがに理解した。家格の順に採点結果がでるはずなのに正鳴はその不文律を破ったことになる。

「智子さんにはいい点数とるようにいわれてたからね。一応義理は通したことになるわね。これは実は先生をよんで接待するのも採点に含まれているのよ。」

 正鳴はなんだよそれはと思った。要するに賄賂を渡しているのと変わらないのではないかと思った。

「最初の年はいろいろ面倒だから、私は接待を一切しなかったのよ。美術や音楽、礼法についても、啓信で採用されている教諭の派閥の人間を家庭教師として起用することがもとめられてるのよ。一応、入学のときに予定聞いたけど、富田家はこっちじゃあんまり有名じゃないからね。面会予約も碌に入れさせてもらえなかったのよね。」

 スタートダッシュが遅れるからしかたなく楓は富田家のつて家庭教師を採用したらしい。

「ななこちゃんとのことが無ければ、どんなに頑張っても半分程度の成績に甘んじていなければならないけど・・・三井家との縁談相手ですからね。これで次の学期からは評定基準も変わるはずよ。そのかわり・・・・習い事の時間が増えるわね。」

 そのセリフに正鳴は呆然とした。いまだって幼児らしい生活は送ってないし、それなりに忙しい毎日だ。この上さらに習い事が増えるとなると四六時中縛られることになりそうだ。


 そして川上教諭の習いごとを始めてはという言葉の真意をようやく理解した。啓信の家庭教師を雇ってくださいということだ。今までの家庭教師を首にするのも障りがあるのでそちらは時間を減らすにせよ、並行して学習することになりそうだ。


 上流階級は柵が多いというが、ここまでくる雁字搦めにちかいと正鳴は思った。






 試験後の休みのこの日、いつもの文明堂のカステラを手土産に、ななこの家を訪問した。ななこはピアノの自主練習をしているところだったらしく、それに正鳴が加わることになった。

 ななこは練習曲である『エリーゼの為に』を引っ掛かりがあるものの全体を弾くことができるようになっていた。正鳴はまだ半分しか引くことができないのとくらべるとかなり練習量に差があるようだ。

 ななこから色々と正鳴は教えてもらう。

 その二人の様子を楓と智子は微笑ましくみている。


 しばらく様子を見ていた二人だったが、納得したのか、仕事の話を始めた。

「森家と李家はつながっていたというのが正鳴君の言葉なのね?」

「正確に言えば正鳴の向こうの世界での孫の言葉だけどね。」

 実は試験が終わった夜の夢で和幸から連絡があり、あちらの世界で日本が滅ぶ原因となるのが、森家、辻家が李家とつながっていて、内部工作に利用されることが国全体に深刻な状況をもたらしたかららしい。

 こちらの日本国営放送にあたる組織の外部組織がまず文教族の森家の差配で、教育チャンネルに、李家のプロデュースした、中国賛美を刷り込ませる、洗脳アニメを放送できるようにされたことが一番大きな変化だったらしい。

 そのアニメ自体をつくっていたのが『道化師』という李家の出資している会社で、一方で原作の『洗濯ばさみ』という漫画家集団が雑誌デビュー前から李家の支援を受けていたそうだ。

 子供たちに絶大な視聴率を誇った番組だったが、いまにしてみれば異常性にいくつか気づけるはずだ。


 それ以前からも民放で中国系の番組のブームが何度かあったが、いずれも中華人民共和国政府の肝いりで制作された番組ばかりだったらしい。

 このときに金を出資していた最大のスポンサーが李家だったわけだ。


 違法薬物で上げた収益をそういう部分に投下し、日本国内での影響力の増大を謀っている李家の存在はこの上もなく危険だろう。



 きな臭い話になってきたなと正鳴はピアノの練習をしながら思っていた。

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