デキナイ
少しだけ汚い表現があります。ご注意ください。
「…………なんで帰ってきたの」
「みゆきと一緒にいたいからだよ」
「…………私はアンタといると吐き気がするんだけど」
「えっ?もしかして、やっと?」
「…………………はぁ?何と勘違いしてるの」
「え?だって…………」
「…………そうだ。アンタに渡す物があるの」
「今日はなにかの記念日だったっけ?」
「……………ちっ」
「舌打ち……………………」
「………はい、これ。結婚指輪なんてもういらないからアンタに返す。あとこれも」
「……そんな、離婚届なんて…………。私、みゆきと離婚したくないよ!」
「私は今すぐアンタと別れたい。別れて新しいひとを探したいの」
「嫌だ!私は…………私は…………」
「……………………ほら、それ書いてさっさと出ていってよ。私の分はもう書いてあるから」
◆
そして、私は泣きながら離婚届に署名と捺印を押したのち、仕事帰りのスーツのまま自宅から追い出された。
どうして、どうしてこんなことに…………。
◆
同性婚が国で正式に認められるようになってから、はや数十年が過ぎた。
この頃にはもうすっかり異性婚と同性婚の隔ても無くなって、同性の夫婦が当たり前に街を闊歩するようになった。
私たち鞘吹夫妻もその中の一組で、結婚式も挙げて新婚旅行にも行って夜の営みも盛んで、ずっと幸せだった。
半年前までは。
その頃からだっただろうか。私の愛妻のみゆきが露骨にイラつくようになったのは。
理由はなんとなくわかる。
たぶん、一向に良い兆しの見えないみゆきの不妊治療に原因があったんだと思う。
他の同性夫婦はすぐに成功するのに、私たちだけはなかなか子どもがデキなくて。
泣き続けるみゆきを慰めたこともしばしばあった。
そしてしばらくして、彼女は人が変わったかのように私に対する態度が厳しくなった。
私の洗濯物だけ箪笥にグシャグシャに詰め込まれていたり、いってらっしゃいのチューをしてくれなくなったり。
ご飯も作ってくれなくなった。
私が「お弁当は?」と聞くと、
「自分の排泄物でも食べたらどう?」
と言われてしまった。
暴言も多くなった。
初めは
「死ねクソ女」
が定番だったけど、それが徐々にエスカレートして、内容も具体的で残酷なものになっていった。
「アンタの物触りたくないから、全部捨てた」
「もう帰ってこないで」
「浮気でもして暇つぶしすれば?」
「はい、これで首吊ってきて。誰にも見つからない場所で」
「いつになったら消えてくれるの?早くいなくなってよ」
「アンタと結婚しなきゃよかった。私のバラ色の人生を返してよ」
などと言われたこともあった。
でも私は、みゆきと一緒にいたかった。
それなのに、とうとう離婚だなんて……………………………………………………。
認めたくはなかった。けど認めるしかなかった。私はみゆきに嫌われたんだって。
ごめんね。
私は、みゆきを幸せにできなかった……………………。
みゆきの元へ引き返すことも出来ず、実家に帰る勇気も無かった私は、少ない所持金を全て使い果たして樹海へと向かった。
◇
うっ、うっ………………………………。
ごめんね、柚希…………。
私の身体が弱いせいで、いっつも赤ちゃんがデキなかった…………。
柚希、ビデオカメラ買ってずっと楽しみにしてたのに、結局ダメだったよ…………。
私のお腹が大きくなるところ、見せてあげたかったよ。
家族を増やしたかったよ。
でも、どれだけ願ってもコウノトリは運んできてくれなかった…………。
だから私、このまま暮らしていてもきっと柚希を幸せにできないと思って…………。
ほんとは別れたくなかったけど、私に失望させるために、たくさん意地悪して、酷いこと言って…………。
柚希の物何も捨ててないよ。押入れに隠しただけだったんだよ。
でもなかなか柚希から切り出さないから、仕方なく私から別れてほしいと申し出て……………………。
その結果、貴女は自殺してしまった。
私を忘れて、新しい道を歩んでほしかっただけなのに……………………。
神様は不親切だ。
貴女の訃報の直後だったよ。私のお腹に命が宿ったのは。
どうも、壊れ始めたラジオです。
これは、とあるテレビ番組に感化されて思いついた小説です。
展開がものすごく読みやすくて、人によっては「お約束」と思ってしまうかもしれませんね。
しかしこの話…………別に百合カップルじゃなくても成立してしまうような気がします。現に異性カップルならあり得そうな展開ですしね。
けど、私は百合にしました。
なぜなら、私が個人的にガールズラブが好きだからです!
暴走しかけてしまいました。
また次のお話でみなさんにお会いできるのを楽しみにしております。
それでは。