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序章 『Transend Symphony(トランセンド・シンフォニー)』

すいません。再投稿します。

 今から約200年程前に、母なる青き星が死の星と化すほどの大戦争があった。


 第三次世界大戦、魔女戦争、もしくは100年に渡って続いた事から百年戦争とも呼ばれる人類の存亡を賭けた史上最大の戦い。

 たった一人の女性の手によって始まった大戦は瞬く間に一つの星を戦場へと変え、数多の命が次々と消え去った。


 たった一人の女性のせいでそんな事になるなんて冗談にしか思えない。


 しかし、実際に大戦は始まった。

 科学では到底理解出来ない神秘の力を持つ一人の『魔女』と呼ばれる超越者の手によって。


 何処からともなく突如現われた魔女は不思議な力で瞬く間にヨーロッパ全土を掌握し、メディアを通して世界に対して宣戦布告をした。

当時の人々は、誰もが末期の中二病患者の戯言だと嘲笑ったらしい。


 だが、宣戦布告から三日後――――極東の島国、日本へと放たれた二発の核ミサイルによって人々は度肝を抜かれた。


 核アレルギーの激しい非戦国である日本に対して容赦なく使用された核兵器。

 それも核兵器と最も因縁のある国へと放たれた核ミサイルは、一瞬で五千万以上もの民間人を大虐殺し、日本という国を壊滅させた。

 その外道な所業は瞬く間に世界中へと知れ渡り、各国に十分な危機感を煽らせた。


 すぐに事態を重くみた国連は魔女が率いるEU軍を討伐するべく国連軍を結成して、魔女が支配するヨーロッパへと軍隊を差し向ける。

 世界中の誰もが国連軍の勝利を疑っていなかった。


 しかし、その思惑は外れる事となる。


 核兵器を始めにレーダーや無線機の類は“マルチクリアジャマー”によって封じられ、数と装備で勝っていた国連軍は魔女が生み出した魔物によって覆された。


 国連軍の敗戦に次ぐ敗戦。


次々と魔女が率いるEU軍によって各国は制圧され、開戦当初に予想された短期決戦は長期決戦へと変わった。


 百年も長きに渡って一進一退の攻防が続き、多くの命が失われていく中で追い詰められていた人類の科学力は急速に進歩して様々な物が生み出された。

それこそアニメや漫画などでしかありえなかった物が次々と。


 光線銃やビームサーベルなどのビーム兵器を始めに、巨大な魔物に対抗する人型機動兵器。

サイボーグ技術とロボット技術。

 さらに超能力者や改造人間などを生み出す技術まで作り出した。


 それらの科学の力を持って国連軍は魔女とEU軍を徐々に追い詰めた。


 そして遂にEU軍を壊滅させて魔女を討ち取る事に成功した国連軍だが、魔女は最後の悪あがきとして禁術を発動させたと言う。


 魔女の命と引き換えにした発動した禁術は地球を巨大な魔法陣で包み込み、空から黒い火の雨を降らした。


 その日の出来事は後世の人々から『ハルマゲドン』と畏怖を込めて呼ばれている。


 魔女が命と引き換えに降らせた黒い火の雨は文字通り地球を焼き尽くして滅ぼした。


 大戦によって百億人から十億人にまで減っていた人類は『ハルマゲドン』によって五千万人にまで減り、ほとんどの動物や植物などが死滅した。

 北極と南極の氷が溶けた事で多くの国が海に沈み、地球を覆う分厚い雲のせいで陽の光が一切遮断されて昼間なのに夜みたいに世界は闇に包まれた。

 さらに緑豊かだった大地は草木一本生える事を許さない荒野と化し、多くの生命を育んできた青き星の象徴とも言える海はどす黒く濁り、防毒マスク無しでは呼吸すら出来ないほど大気は汚染されていた。


 あの日、人類は魔女に勝利をしたのだが、青く美しかった母なる星を失ったのだ。


 生き残った多くの人々が絶望して次々と命を自ら絶った。

 それでも生きる事を選んだ者達も多くいた。


 生きる事を選んだ人々は、国や宗教や人種など関係無く団結して知恵と行動によって、宇宙・地下・深海に『ガーデン』と呼ばれる人工の世界を造り出して自分達が生き延びる未来を手にしたのだ。


 新時代の始まりとして、死の星となった地球を万国共通語として『エアリス』と名を改め、法と秩序が無くなった世界をまとめる新政府としてエアリス連邦政府が発足した。

 言葉の壁を無くすべく万国共通言語としてエアリス語や新たな世界通貨である『アード』を作るなどの改革が行われ、長い年月を懸けて世界はエアリス連邦政府の下に失った平穏を取り戻そうとしていた。


 しかし、全てが上手くいっているわけではない。


 一度滅んだ世界で優れた人材をより求めた連邦政府は、完全実力主義を掲げて市民階級制度を導入した。

 そのおかげで世界は確かに発展したが、その影では多くの人が切り捨てられていた。


 そして切り捨てられた無能な人々は有能な者を妬み、有能な者は切り捨てられた無能を侮蔑する様になった。


 それによって生まれる新たな火種。

 切り捨てられた無能な人々はテロリストに身を落として連邦政府に報復を開始する。

 しかし、それを許す連邦政府な筈も無く、各地で連邦政府によるテロ撲滅が行われていた。


 それが今の時代の実態である。

 優秀な人間が優遇され、無能な人間は切り捨てられる完全な実力主義の競争社会。

 誰もが切り捨てられまいと足掻き続ける弱肉強食の時代。


 その時代の名は――――T.S.(Transend Symphony(トランセンド・シンフォニー))。


 そして、T.S.205年9月8日――――終戦記念日と一人の少女の誕生日を明日に控えたその日、とある少女が運命のチケットを手にした事から物語は始まる。





★☆★☆★






 今年のガノンスーパーマーケットで行われている福引の特等に、エアリス歌劇団のプラチナチケットがある。

 その情報をアルル・ステイシーが知ったのは今から二週間ほど前の八月の中頃だった。

 彼女がアルバイトをしているベーカリーレストラン”パンタグラム”の顧客からその情報を教えてもらった時は、興奮して思わず客に詰め寄り、襟を掴んで締め上げ何度も聞き直していた所を店長に鉄拳制裁されたのは、まだ記憶に新しい。


 それほどアルルにとっては衝撃的な情報だった。


 エアリス歌劇団と言えば、エアリス連邦本部がある月面都市アポロガーデンにある、世界中の誰もが知る世界最高の少女歌劇団だ。

 完全実力主義の競争時代であるT.S.において世界中の美しい未婚女性達が集まり、厳しい入団試験と審査の末に選ばれた女性達は、まさに神に選ばれたと言っても過言ではない。

 その中でもトップスターと呼ばれる者は、地位や名声はもちろん何世代に渡っても使い切れない財が湯水の如く入ってくると言う。

 女優からスタッフの一人一人に至るまで超一流が集い、どんな舞台すらも可能とされるエアリス歌劇場で行われる講演は多くの人々の心を鷲掴みにして離さない。


 一度運良く観れたアルルもその一人だった。


 まだ言葉も喋れないほど幼かった時のことだが、はっきりと言葉に出来ないほどの感動を憶えている。

 その日から憧れのエアリス歌劇団のトップスターになる事を夢見ているアルルは機会さえあればもう一度観たいと思ってチケットを購入しようとするがそれは叶わない。

 必ず満席で一般チケットを手に入れる事すら困難とされ、噂ではダフ屋が一般チケットを元値の五倍以上の値段で売っていてもすぐに売れるらしい。


 それほどまでに手に入れるのが困難なエアリス歌劇団のチケット。

 おまけに下流階級のアルルには一生縁が無いかもしれないプラチナチケットが福引の景品として出る。


 その情報が本当なのかどうか自分の眼で確かめるべくバイトが終わるとすぐにガノンスーパーに向かい、人だかりができている福引所で事実確認を行うと確かにそれはあった。

 一等の最新VRRPG(バーチャルリアリティーロールプレイングゲーム)セットの上に敢然と輝くエアリス歌劇団のプラチナチケット。

 上流階級の者ですら一部の者しか手に入れられないと言われる伝説のチケット。

 エアリス語で『エアリス歌劇場 VIPルーム』と書かれた白金のチケットは、アルルがインターネットで見た事があるそれと全く同じだった。


 ―――――一生に一度でいいから、特等席で舞台劇を観てみたい!


 もしかしたら手に入るかもしれないと言う希望がアルルの中で湧いた瞬間だった。

 けれどもライバルは多い。

 福引に並んでいる五十人以上の長蛇の列は恐らくみんな特等狙いなのだろう。

 並んでいる人の中には十枚以上も福引券を持つ猛者までいる。

 その中からアルルが特等を引き当てるなど不可能に近い。

 それでも何もせずにただ遠くから見ているだけだなんてえられる性分でもなかった。

 アルルは自分に当たる事を祈りながら、スーパーで千円分買い物をして福引券を一枚手に入れると長蛇の列の最後尾へと黙って並ぶ。


 その日からアルルの孤独な戦いは始まった。


 ままを言ってアルバイトの給料を月給から日給にしてもらい、僅かな資金で毎日の様にガノンスーパーで千円分買い物をして福引券を貰うたびに長い福引の列に並んで福引を行い続ける。

 上手いことスーパー側の思惑に乗ってしまった感は否めないが、気にせずにアルルはポジティブに福引に挑んだ。

 その中でハズレのポケットティッシュやお菓子が当たるのは普通に残念と思う程度で済んだのだが、皮肉な事に一等の最新VRRPGセットと二等の電子書籍が当たった時は思わず悔し涙を流して周りの人に慰めてもらい、家に帰ってぬいぐるみに八つ当たりするという醜態を晒してしまっていたりする。


 そして無情にも時は流れ――――――福引の特等の期限であるT.S.205年9月8日が訪れた。


 明日には終戦記念日で行われるエアリス歌劇団の特別講演とアルルの5歳の誕生日がある。

 それなのにアルルは浮かない顔で自室の壁に掛けたカレンダーを見つめていた。

 何故なら―――――


 「・・・・・・とうとうこの日が来ちゃった・・・」


 特等のプラチナチケットの存在を知ってから約二週間。

 自室の勉強机の上に積み重なった福引のハズレであるポケットティッシュ、それと当たりの景品であるVRRPGセットと電子書籍を見てアルルは大きな溜息を吐いた。

 もう何度福引をしたか分からない。

 それでも今日に至るまで誰も特等を引き当てる事はできなかった。

 「本当に特等が当たる様になっているのか?」と思い切って問い詰めた事もあったが、目の前で確かに当たり玉である黄金の玉が入っているのを見せられては何も言えなかった。


 今日がラストチャンス。

 今日誰も特等を当てられなければプラチナチケットはガノンスーパーを経営するお偉いさんの物になってしまうらしい。


 「今日こそ絶対に当ててやるんだから・・・・・・!!」


 澄んだ碧い瞳に強い意志の光を宿しながらアルルは、グッと手を握り締めて握り拳を作る。

 諦めるのはまだ早い。

 まだラストチャンスがある。

 今日のガノンスーパーが閉店するまで勝負の行方は分からない。

 弱気になりそうな自分に活を入れると、アルルは学校に向かう支度を始める。


 明日で五歳になる彼女だが、これでも昼は幼年学校に通う一人の学生である。

 完全実力主義の競争時代である今の時代に義務教育など無く、中には幼い頃から働く子供も珍しくない。

 そういった人間は学校に通う余裕も無い者だったり、家業を継ぐ為に専門の独自教育を受けさせられる者がほとんどだ。

 アルルみたいに昼は学校に通って夜はアルバイトをする学生など別に珍しくもない。


 「よし! これで準備万端!」


 学校に向かう支度が出来るとアルルはドレッサーの前でくるりと一度回って鏡に映る自分の姿をチェックする。

 そこには人目を惹く可愛らしい少女がいた。


 滑らかで抜けるように白い柔肌。

 腰までストレートに伸びる艶やかな漆黒の髪。

 蒼穹の如く澄んだ大きな碧い瞳。

 桜色の小さな唇、スッと通った鼻筋など、西洋の精巧な人形を思わせるほど整った秀麗な顔立ち。

 一見して西洋人の様だが、よく見れば東洋人の血も僅かに感じさせる面影がある。

 まだ幼く小柄で植物に例えれば良質な種を思わせる程度だが、成長して芽が出て蕾が出来て花開けばきっと多くの人目を惹き付ける美しい女性になるであろう。

 そして今着ているのは普段着にしているセーラー服。

 青いセーラーカラーと胸元の黄色いスカーフが特徴の白いセーラー服、青いミニスカートの下には下着が見えない様に履かれたスパッツ、膝上まである黒いニーソックス。

 その姿は学生と呼ぶに相応しいのだが、それは旧暦の話。

 今の時代は特別な専門学校を除いて私服で学校に通うのが当たり前である。

 そしてアルルが通う幼年学校も制服制度は無く、みんな私服で登校している。

 彼女がセーラー服を着ているのはコスプレなどではなく、これが彼女の私服だからだ。


 「うん。寝癖も衣服の乱れも無し。我ながら完璧だわ」


 鏡に映る完璧に整った自分の姿に満足気に頷くとアルルは昨夜の内にしっかりと準備した、教科書や私物などが入った黒鞄を持つ。


 「ふふ~ふ~~ん♪ ふふ~ふ~~ん♪ ふふふふふ~ん~ふ~ふふん~♪」


 機嫌良く鼻歌を歌いながら二階の自室を出て階段を降り、朝食の用意がされているリビングへと向かうとそこにはアルルの家族が全員揃っていた。


 「おはよう、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、おじいちゃん」


 アルルはいつも通り笑顔で朝の挨拶を家族にした。


 「おはよう、アルル。昨日も寝るのが遅かったみたいだな」

 「うん・・・ちょっと宿題が多くてね」


 リビングに現われて朝の挨拶をしたアルルへ一番に挨拶を返したのはテーブルを布巾で拭いている、アルルの父にしてステイシー一家の大黒柱であるアラン・ステイシー。

 質実剛健と言う言葉がよく似合う黒髪黒眼の中年男で、アルルがアルバイトをしているベーカリーレストラン”パンタグラム”のパン職人をしている。

 職人気質で厳しいが家族想いの優しいお父さんだ。



 

 

 

 

 


 

  

 

 


 

 

 



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