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紅の焔薙ぎ  作者: 藍原ソラ
第二章:女子高生の焔薙ぎ
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第三話:出現

「……そのあと、この男ってば、じゃあ俺これから不動産屋さんと物件見に行く約束してるから~とか言ってさっさと姿を消すし、千春と琴音はすっごい興奮するし、それで周りの人達が変な目で見てくるし!! 本当に、すっっっごく恥ずかしかったんだからぁぁぁ!!」

「あ~、あったなそんなこと。……そんな大したことかぁ?」

「大したことに決まってるじゃない!!」

 刀夜は不思議そうな表情で瞬いているが、少し考えれば分かるのではないだろうか。

 恋話が大好きな女子高生の友人にいきなり現れた婚約者。しかも今まで浮いた話ひとつなかった友人にである。――食いつかない、わけがない。

 興味津々に顔を輝かせる千春と琴音の様子を思い出して、朱鳥は頭を抱えた。婚約者ってどういうこと、という追及を親が決めたらしくて詳しくは知らないと必死に言い募り何とか逃れて帰って来たのだ。

 けれどそんな逃げ方をしてしまった以上、明日また会えば激しく追及されるに違いない。

 いっそのこと家業を継いだら婚約者がついてきたとでも言えればいいのだが、焔薙ぎのことを関係者以外に話すことは禁じられている。いたずらに不安を煽ることになってしまうからだ。

 かといって焔薙ぎの事をうまく誤魔化しつつ説明するなど、朱鳥には出来そうもない。家業って何と問われたら何て返せばいいというのか。

 明日までに当たり障りのない返答を用意しておかなければならない。祖母が気に入っている男性で紹介された、とでも言っておけばいいのだろうか。

 朱鳥が祖母を尊敬しているのは千春も琴音も知っているから、ああ断りにくいねと納得してくれる、かもしれない。というか、してほしい。

「は~……明日、学校行くのが気が重いよぉぉ……。絶対質問攻めだよ~……」

 学生である朱鳥は、一日の大半を学校で過ごす。その間中質問攻めなど、心穏やかでいられるはずがない。考えるだけで憂鬱だ。

 そもそもあの時あの場所で婚約者だと名乗る必要などなかったはずだ。それをなぜわざわざ名乗ったのだろうか。刀夜の嫌がらせか。ならば効果はかなり高いと言わざるを得ない。そして朱鳥の中の刀夜の評価は落下の一途をたどっている。

 思わず深いため息をついて肩を落とすと、紅蓮がバサバサと翼で肩を叩いてきた。少し痛いが、紅蓮が朱鳥を励まそうとしているらしいのは伝わってきたから、朱鳥は文句も言わずされるがままになっている。

「小娘も小娘なりに苦労しているのであるなぁ。……刀夜殿は少しでりかしーというものが欠けておるらしい故、大変であろう」

 どこか遠い目をした紅蓮のその発言に、刀夜はさすがに目を細める。

「……オイ、紅蓮」

「ああ~、やっぱり! デリカシーないわよね、この男!」

「うむ。師匠の安曇殿がそう申しておった故、間違いなかろう」

 顔を上げて力説する朱鳥に、紅蓮はこくこくと頷く。刀夜は自分の契約した焔魔を冷ややかに見つめた。

「ぐ~れ~ん~? あとでちょーっと話ししようか?」

 その言葉にさすがに紅蓮もびくりと身体を震わせる。

「何よ、レンちゃんいじめたら許さないわよ。そもそも、こんな風に言われるのなんて、あんたの日頃の行いが悪いからでしょ! 自業自得よ、自業自得っ!」

 朱鳥がきっぱりとそう言い切った時だ。朱鳥の膝の上に置かれた破邪退魔の剣『アヤメ』が小刻みに震えだした。同時に紅蓮の瞳が険しさを帯びる。

 その反応を見た刀夜がすっと目を細める。

「……時間、だな」

 小さく呟いた刀夜に、朱鳥は小さく息を呑んで頷いた。

「……うん」

 その声音に、刀夜の瞳が面白がるような色を見せた。

「あれ? 緊張してるのか? そんなんで大丈夫か~? 新米焔薙ぎさん?」

 朱鳥は一瞬むっとした表情をしたあと、右手で剣の柄を握った。

「適度な緊張感は必要でしょう? そっちこそ、油断して痛い目みても知らないからねっ!」

 今まで緊張感皆無な会話を交わしていたことなど忘れたかのように言う朱鳥に、刀夜は呆れたような視線を向けてきた。けれど朱鳥はそれには構わずにひらりとジャングルジムの頂上から飛び降りる。

「……結構、身軽だな」

 危なげなく着地した朱鳥の動きを見た刀夜がぽつりと呟いた。皮肉でもなんでもなく感心したようなその声音に、褒められると思ってもみなかった朱鳥は目を丸くして数度瞬く。

「……ありがと」

 少しだけ複雑な気分ではあるが、刀夜の焔薙ぎとしての実力がかなりのものであることは朱鳥も承知してるから、褒められれば嬉しい。

 素直にお礼を言う朱鳥に刀夜は何だか可笑しそうに笑ったが、からかうようなことは言わなかった。

 朱鳥はひゅっと片手で剣を振り、握り具合を確かめる。そうして黙って一歩前に出る。

 そこに、刀夜が声をかける。

「朱鳥。今回、俺と紅蓮はサポートな」

 朱鳥の実力を確認しておきたいということだろう。これからともに戦っていかなければならないのだから、そのことに異論はない。

「……分かった」

 小さく返した朱鳥のその言葉を合図にしたように、紅蓮が大きく翼をはためかせ宙に舞い上がる。その身体が、爆発音とともに炎に包まれた。火ノ鳥――それこそが、紅蓮の真の姿だ。

 朱鳥の手の中の剣の震えが強くなっていく。

 そして、公園の時計が九時三十五分を指した、その瞬間。公園のごみ箱の近くに、小さな炎の塊が出現した。

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