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紅の焔薙ぎ  作者: 藍原ソラ
第二章:女子高生の焔薙ぎ
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第二話:理由

 十七歳の誕生日を迎え、ようやく念願の焔薙ぎとなった朱鳥だが、普段は地元の公立高校に通う至って普通の女子高生だ。

 放課後は焔薙ぎの訓練などがあるため、部活動には入ってはいない。だから、授業が終わればそのまままっすぐに帰ることが多い。

 そうはいっても朱鳥も年頃の少女なので、時には朱鳥と同じように部活に入っていない友人や決まった日にしか活動しない部活の友人などとともに放課後にファーストフード店に寄ったり、カラオケに行ったりなどすることもある。

 琴音と千春というクラスメイトであり友人でもある二人と帰ることになった今日だって、そんないつも通りの放課後になるはずだった。

 学校の校門を出て、三人は並んで歩く。

 今日の数学の授業の抜き打ち小テストが難しかったという話題から始まったはずの会話は、気付けば最近琴音が気になっている先輩の話へと移り変わっている。まあ、いつまでも終わったテストの話をしていても建設的ではないし、何より勉強の話よりも恋の話の方が楽しい。

 恋愛なんて自分には縁がないと思っている朱鳥だって、年頃の女子高生らしく恋愛話は好きだ。

「へぇ~、図書館でよく会うんだ~。琴音、図書委員だもんね~」

「借りる本の好みが一緒、かぁ。いいんじゃない? 話盛り上がりそうだし。今度本おすすめしてみるとかすればきっかけになるんじゃないの?」

 きゃっきゃと盛り上がる朱鳥と千春の言葉に、琴音は頬を紅潮させる。

「ええっ……! 無理だよぉ~。今だって恥ずかしくって顔まともに見られないのに……」

 やや内気で奥手な琴音にしてみたら、おすすめの本を紹介するという千春の提案はかなりハードルが高いのだろう。話しかけることすらままならないに違いない。

「え~? 貸し出し手続する時に、その本あたしも好きなんですよ~っとか言えばいいじゃない。で、この本は読んだことありますかって琴音の好きな本おすすめすれば話するきっかけにもなるしさ」

 さばさばした性格の千春はこともなげにそう言うが、その光景を想像したらしい琴音の顔は真っ赤だ。

「む、難しいよ~」

「でも、きっかけ作らないと! 仲良くなりたいんでしょ~!?」

「お、お話はしてみたいけれど……」

「じゃあ、勇気ださなきゃだめじゃない! 向こうが話しかけてくれるかなんて分からないんだからね! 別に告れって言ってるわけじゃないんだから、そんなに緊張しないの~」

 千春に圧倒されたように琴音が小刻みに頷く。

「そう、だよね……が、頑張ってみよう、かな……?」

「かな、じゃなくて頑張るって言いなよ~」

 二人のやり取りはどこか微笑ましい。にこにこと笑いながらそんな二人のやり取りを眺めていた朱鳥を、いきなり千春が振り返った。

「何か笑って見てるけど、朱鳥こそどうなのよ」

「……え?」

「え? じゃなくって! 朱鳥ってかわいいし、時々告られたりもしてるじゃない。でも、全部断ってるんだよね?」

「う、うん……まあ……」

 話が何だか気まずい方向に走っている気がする。朱鳥は曖昧に頷いた。

「何で?」

「だ、だって……告白してくれた人、みんなあんまり知らない人だったし……いきなり付き合ってって言われても……」

 幼い頃から焔薙ぎを継ぐつもりで、継げば結婚相手も焔薙ぎの中でも同世代の男性から選ばれることが分かっていた朱鳥は、なるべく恋愛に興味を持たないようにしてきた。

 さらに言えばおばあちゃんっ子であり、昔から祖母の凛とした姿に憧れてきたので、恋愛に関する考え方が少し古風なところがある。

「え~。付き合ってみればいい人かもしれないのに?」

「よく知らない人と付き合うのは無理かなぁ」

 そんなことにもならないだろうけどと思いつつもそう言うと、今度は琴音が小さく首を傾げる。

「朱鳥ちゃん……好きな人、いるの?」

「え?」

 そこで朱鳥は固まった。その問いかけに、一瞬だけある人物の面影が脳裏を過ったが、同時に浮かんだ感情は決して甘いものではない。

 何でこの男が出てくるの、と心の中で自身につっこむ。だって、この男は違う。好きな人なんかでは、断じてない。やむを得ず婚約関係にあるだけで、好きでもなんでもない。むしろ思い浮かべるだけで腹が立つ。

 だが、その一瞬の空気を千春も琴音も逃さなかった。

「……誰か、思い浮かべたよね?」

「今の反応はそうだよね、絶対! 誰なの、朱鳥っ! 学校の人!?」

「ち、ちが……!」

 その時だ、エンジンが止まる音とともに、軽快な声がかけられたのは。

「あ、やっぱりそうだ。おーい、朱鳥~」

 それは今しがた不本意ながら脳裏に思い浮かべてしまった人物の声で、朱鳥は再びびしりと固まる。

 千春と琴音も反射的に声の主を振り向く。その視線の先に、ヘルメットを取り朱鳥に向ってようと軽く手を上げる、少しだけ年上の男性の姿があった。

「……」

 朱鳥はぱくぱくと口を動かすだけで、何も言うことが出来なかった。そもそもこの男を何て呼べばいいのだろう、なんてどうでもいい疑問が思い浮かんだりもする。

「わぁ~。かっこいい人~」

「あの人、誰っ? 誰なの!? 朱鳥っ」

 琴音と千春の疑問にも応じられずにいる間に、刀夜は朱鳥たちの方に歩み寄っていた。

「……。何で、ここに?」

 短く、やや硬い声音で問いかける朱鳥に、刀夜はあっけらかんと返す。

「や、今住んでるとこ、ここから結構離れてっから不便で。賃貸探しに来たんだよ。さすがにキツイしな~」

 焔薙ぎの活動は基本夜だから、確かにこちらに引っ越してきた方が心身が楽には違いない。

「あ、そう……。そうだよね」

 そこから会話が続かない。千春と琴音の好奇の視線がひたすらに痛かった。 刀夜もその視線に気付かないわけがなく、少し苦い笑いが混じってはいるもののさわやかとも言えなくないような曖昧な笑顔で千春と琴音を見る。

「いきなり話しかけて悪いな。朱鳥の友達?」

「あ、は、はいっ。大崎琴音です」

「あたしは須藤千春って言います! あたし達、朱鳥のクラスメイトなんです! ……あの、お兄さんは?」

「あ、俺? 俺は飛崎刀夜」

 そう言って今日一番の爽やかな笑顔を見せた刀夜は、そこでやめておけばいいのに、朱鳥の友人達に爆弾発言を放ったのだった。

「朱鳥の婚約者でーっす」

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