第七話
コウは刀を両手で握り両腕を伸ばし目の高さまで上げ剣尖を犬の方向に向ける。犬達はコウのその姿を隙と見たのか一声上げた後勢いよく溜めていた火球を吐きだした。最終的に大きさは、十メートルを超える程になっていた。その火球はゆっくりとコウに近づいていく。しかし、それを前にしても彼は動かず騒がず、じっと佇んでいる。
向かってくる火球はアスファルトを焦がしながらじりじりと彼との距離を詰めていく。コウは火球に刀を向けたまま棒立ちを続けている。しかし、その顔には恐怖すら浮かばず、ただ楽しそうな余裕の笑みを浮かべている。そして、火球が自分の間合いに入った途端、にんまりと嬉しそうに笑う。
コウは小さく、ポツリと、
〝炎よ〟
と呟き刀の先を火球の中に鍵を差し込むように入れた。
すると、火球は進むのをやめ、刀の先で止まる。コウは刀の先に止まった炎に無造作に手を伸ばし掴む。炎は未だ煌々と赤く燃えて周りに熱を放出しているが、そんなことは意にも返さずボールを扱うように指の先で回したり、体の周りを一周させたりして遊んでいる。
一通り遊んだ後、犬達の方に向き直り、
「所詮、犬っころの魔法ってわけね」
と落胆した顔をして、
「追い詰められた奴は」
言いながら、火球を上に放り投げ、
「自分の力以上の力を発揮するはずなのに」
片手に持っていた刀を両手に持ち直し構える。
「ガッカリさせないでっよ」
落ちてきた火球を刀の鎬の部分でナイスバッティング。打った火球は一直線に犬達に向かい犬達は火球から逃れるために散りじりになって逃げる。
「そんなことで逃げられると思うなよ」
不敵な笑みを浮かべるとまた一言、
〝炎よ〟
その言葉と共にさっきみたいに火球は止まることなく犬達に向かっていくが火球はかすかにブレ始め次第に二つに分かれ、二つに分かれた火球はさらに四つに分かれ、分裂は止まることなく進み分裂が止まった頃には火球は元の大きさの十分の一の大きさにまで小さくなっていた。
しかし、小さくなった分、数は凄いことになっている。火球は空間を蹂躙するほどに増え、犬達に襲いかかる様子は虐殺以外の何物でもなく、コウは無表情に見つめ、リンカが呆れたように溜息をついた。
「コウ、さっさと片付けなさい。あまり気持ちの良いものではないわ」
「そうだね。弱い者いじめほどつまらないものはないからね」
コウは大きく深呼吸して、
【我に従いし
炎達よ
燃え盛れ思いのままに
暴れまわれ望みのままに
さぁ共に遊ぼう我が友よ】
〝炎原(ヘル・ラ・ヴァ―ミナ)〟
唱え終わると犬達が虫の息で倒れ伏しているその周囲の地面に火線が走っていく。火線は円を描き、五芒星を内に描いていく。五望星が完成すると、円の中に火の手が上がる。猛火は円の中をすべて燃やし尽くし全てを灰に還していく。円の中の犬達は苦痛の声を洩らすこともできず灰に帰って行った。
「これでいい?」
「上出来よ」
コウは問いかけリンカはそっけなく答え、リンカは少女と真と由香梨の元へ戻っていく。
「さて、まずはどこか安全な場所に移動しましょ。そこで全部話してあげるわ」
「それじゃ移動しなきゃいけないね。ホタルちゃんお願い」
いつの間にか戻ってきていたコウがにこやかな顔で傍らの少女・ホタルに命ずる。
ホタルも笑顔で応え、
【さぁ行きましょう
古から続く尊き契約に従いて
風よ 大気よ
我らを導き運べ】
〝飛べ、風渡り(かぜわたり)〟
風が舞い始め、周囲を踊り始める。次第に、舞は速くなり視界を覆い隠し目を開けていられなくなる。浮遊感と風が通り過ぎる音が一瞬耳を掠めたと思ったらその後はすぐさま静寂が訪れ俺は不安に思いすぐに目を開くとそこは机と椅子が並び、落ち着いた雰囲気を醸し出すレトロな喫茶店のようだった。
店内はマスターと思われるエプロンをした男性が一人と数人のサラリーマンと思われる客がいる。外と同じように全員時間が止まっていた。コウは一つの席に勝手に座ると残りの二人の少女もその両隣りに座る。俺達は必然的に向かいに座ることになる。俺と由香梨は緊張気味に椅子を引き座る。
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