第三十八話
その時運命に翻弄される少年と少女は同じ想いを胸に抱いて、同じ想いを口に、だけどそれが相手に届く事はないと知りながらも心の形を言葉に変えて魔法という形に再編する。
俺は君を見捨てない
――――――私はあなたの傍にいる
君の笑顔は純白の闇の中に
――――――愛しい愛しい愛するあなた
君の心は手の届かない遥か彼方に
――――――あなたがどこまで行こうとも
でも俺はその先にどんな壁があろうとも
――――――私はあなたと一緒に歩きます
どんな谷があろうとも
――――――たとえそれが茨の道だとしても
乗り越えてみせると誓いを立てる
――――――挫けはしないと心に刻む
さぁ掴み取ろう
――――――さぁ踏み出そう
俺が君を望むから
――――――私があなたを願うから
世界はきっと答えてくれる
――――――世界はきっと叶えてくれる
だから俺は掴み取れるまで手を伸ばそう
――――――だから私は目指す場所まで諦めない
君が待つ未来
――――――あなたがいる現在
それこそ俺が戦う理由
――――――それこそ私が戦う理由
光りを欲せ
――――――闇を弾け
〝一欠片の奇跡〟
――――――〝一欠片の軌跡〟
黒い魔法陣が俺の目の前に出現しフルーネが放った雷の砲を呑み込む大きさで闇が生まれた。闇はそのままあっけなく雷とフルーネを包み込み、そのまま現れた時と同じようにすっと消えてしまった。
「…………終わった……こんなものか…………戦うと言う事は…………」
(そう、私が生きてきたのはこんなもの。戦い終わって生き残っても空虚な虚しさだけが支配すること、嫌になった?)
傲然と呟いた俺に半透明の紗姫はそう語りかけてくる。
(こっちに来る者は力が欲しいってだけの人もいるけど、信念を持ってくる人もいる。私はその想いを潰して生きてきた。その覚悟がなくちゃここからは進めない。もっとさっきの子と同じようにその手で想いを摘み取らなければいけないし、自分が死ぬ可能性もある。それでも真はこの道を歩いてくれるの?)
「当たり前だ。俺にはお前が必要だ。お前がいなければ俺は生きて行く意味がない」
(そんな悲しい事言わないでよ……でも嬉しいよ)
眉根を下げ、困った顔をした後、昔と変わらない笑顔で笑ってくれる紗姫。
「必ずお前を助け出す。絶対だ。お前を取り返したら伝えたいこともあるしな」
(楽しみにしてる。でも由香梨やリンカ達の事もお願いね)
俺の前では一度もしなかったその表情。笑みではあるだけど、期待と悲しみと辛さを同時に表出したその表情。
「それも分かってる。任せといて」
(任しました。じゃあね。真)
手を振りながら消えてゆく紗姫。魔法で再現された姿だとしても嬉しい事には変わりなかった。
「ふ~無様な姿を見せずに……済んだ…………な……本当の…………紗姫じゃなくても……嫌だから……」
そこで俺は倒れ込み、何もない空をぼーと見ながら襲いかかってきた睡魔に身を委ねた。
私の視界を埋め尽くさんばかりの槍の数々。それが一斉に解き放たれ私の体を貫かんとする。だが私はそこから一歩も動かない。動く必要がないから。
槍は私を貫くことなく、その前で動きが止まる。
「っ!?」
私の前で魔法陣が色づいていく。白に色付いた魔法陣。槍は接触面からその色に色づき、反旗を翻す。
「私は私のまま、変わることなく真の傍にいる! それが私が日記に記した! 決意の言葉!」
槍の一つ一つが矛先をジャッカの方に向き直し、塗り潰す。
その色が消えた時私は力が抜け、膝を付いて、ジャッカの方を見る。彼は体を地面に横たえ、身動き一つしない。でも彼はまだ息がある。それでも後少しで消えてしまうのだろうが。
「ごめんなさい。私は私の為にあなたの想いを潰えさせました」
「気にしないでください。僕もそれは同じ。僕とあなたは互いに譲れぬ想いを抱いて戦いそして僕が負け、消える。ただそれだけです」
それだけを言い残し、ジャッカの体は透け始め、粒子となって空気に溶け込んだ。
「ジャッカ、あなたは私だった。出会いが違ったら、良い理解者同志になれたかもしれないのに運命って何でこんなに皮肉に出来てるんだろう?」
私の疑問に答えてくれる誰かはなく虚空を彷徨い消える。そして、そのまま目をつぶり、安堵し、眠りに落ちる。
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