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一欠片の軌跡  作者: 皇 欠
四章~掴み取る奇跡、共にある為の一歩~
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第三十七話

少し時間を遡った別の空間。


「僕の相手はあなたですか。この前の続きですね。ちなみにこの空間から出る事は出来ませんよ。先程の魔法が変な風に作用してしまったようですからね」


ジャッカは静かに呟き、私は黙ってそれを聞いている。


「さぁ始めようか。僕もあの女を許すことは出来ないし、君を倒して魔力を奪わないといけないからね」


ジャッカは水の球を浮かばせ戦闘態勢に入った。

「私は出来れば戦いたくはないんだけど、襲ってくるなら抵抗するよ」


私も中空に二つ〝魔法球〟を生み出し、戦う構えを見せる。


「ほう、一週間前は手からしか生み出せなかった君が、この短期間で生み出せるようになりましたね」

「あなたは好き好んで争う人の様には見えないのになぜあなたは……」

「君と一緒ですよ。好きな人の隣に立っていたいからです。違いますか?」


ジャッカが同族をみるように由香梨を眺める。


「あなたも……なんですね」

「ええ、ですから僕はフルーネが望む事は全て叶えてあげたいんです。例え僕が望まない事でも!」


水球から二条の〝魔法の矢〟が飛び出し、私を強襲する。横に飛び、回避するが次々に回避地点を狙って追撃が飛んでくる。バランスを崩しながらも私は足を止めずに移動し、当たらずに済む。


〝魔法の矢〟


私も〝魔法球〟から〝魔法の矢〟を四発タイミングをずらして放つ。だがジャッカは右手を前に出し薄い水の膜を張り、防御した。


「僕はフルーネの隣に立っていたい」


私だってそうだ。ずっと真の隣にいたい。真の隣で笑っていたい、それが私の幸せだから。

水の膜全てが矢に変わり、私に向かって飛んでくる。何十発もの凶器となった水の矢を私は〝魔封壁〟を展開し、耐え凌ぐ。


「僕はフルーネを支えてあげたい」

「私だって大した力になれないかもしれないけど、真の力になりたい!」


〝魔法球〟から放てるだけの〝魔法の矢〟を放つ。全部で二十の矢になってジャッカを襲う。ジャッカは恐れを知らないのか躱しながら接近し、隙だらけになった私に手刀を下す。私は思わず左腕で受けてしまい、そのまま力負けして弾き飛ばされ、ボキッという嫌な音と共に視界が暗転、だがすぐに激痛が走り、視界を戻される。ブランと垂れ下がった腕、紫色に変色し骨は確実に折れているだろう。でも戦意を失うわけにはいかない。そうなったら命まで奪われてしまうのだから。


「僕はフルーネの望みを叶えさせてやりたい!」

「私だって……私だって……」


それ以上私は言葉を呟く事が出来なかった。真の望みは紗姫をあんな風にした奴に復讐し紗姫を取り戻すこと。だけどそれは、それは真が私を見なくなってしまうと言う事。いや真に限ってそんな事はないと思うが、それでも真の心が紗姫に向いてしまうのは確実。それは嫌。絶対に嫌。だけど真の願いを叶えてあげたいのは本当。紗姫の事で苦悩している真を見るのも嫌。私の頭の中ではそんな自己嫌悪の気持ちがグルグルと渦を巻き、動きを止めてしまった。ジャッカはその隙を見逃すはずもなく、殴り飛ばされる。


「キャっ!」


咄嗟に〝魔封壁〟を張って直撃は防げたが衝撃だけで数メートルも後ろに飛ばされた。


「何か迷いがあるみたいですね。所詮その程度の気持ちですよ。君があの方に抱いている気持ちと言うのは。僕がフルーネを想う気持ちに迷いなんてない。彼女の為なら僕は全てを捨てる覚悟でいる。あなたはそんな覚悟をする事が出来ますか?」


私はまだ私の気持ちに正直にはなれない。それでもこれだけは言える。私は……私は……。


「私は真を愛してる! それだけは胸を張って言える! それが私の心からの答え。真の想いが私に向いていなくたって私から想う事を諦めたら可能性なんて残らない!」


背筋を伸ばし真正面からジャッカに思いの丈をぶつける。これが私の本心。心からの叫び。


「君の気持ちは分かった……でも僕は引くわけにはいかないんだ。せめて楽に逝けるようにしてあげる」

「私はこんなとこでは死ねない。死んでたまるもんですか!」

 

イメージは矢。十からなる光の矢。私の想いを届け、生き残るために必要な魔法の矢。

そして私の魔法の矢と彼の水の矢が衝突する。


〝十からなる魔法の(アーバ・ルークス)

〝三十からなる水の(べルアーバ・ス・ルークス)


白と青がぶつかり、その破片は周囲に散らばり、地面を爆砕する。

数は私の方が少ない。多く作るためにはそれだけの集中力と経験が必要とリンカに教わった。だから私は一本の矢に込められるだけの魔力を込めて放ったのだ。一本がジャッカの矢を三本ないし四本無に帰して、消えて行く。だが、


「ごめん、君の想い奪ってしまって……」


ジャッカの顔が目の前にある事に驚いた私は離れようと地を蹴った瞬間、胸を突かれ、ジャッカの腕を伝って私の血が流れ落ちて行くのを暗くなる視界の中で客観的に眺めていた。




私の意識が戻ってくると私は白い世界をたゆたっていた。


「ここは……」

「久しぶり、由香梨」


その声を聞いた瞬間、勢い良く振りかえった。


「紗姫……どうして紗姫がここに?」

「そんなに驚かなくてもいいじゃない。もう」

 

頬を膨らませて拗ねる紗姫。私の前でしか見せない。子供っぽい表情だ。


「まぁ懐かしい昔話に興じてる暇はないけどね。由香梨一回死にかけたんだから」


私が一度死にかけた? そう紗姫に言われてハッとする。そうだ。私は確かにジャッカに胸を貫かれて……その後どうしたんだっけ?


「死にかけてそしてここに来たのよ。大丈夫。傷は私の力で塞いでおくから。由香梨、さっきの言葉に嘘、偽りはないと断言できる?」


さっきの言葉……


――――――私は真を愛してる! それだけは胸を張って言える! それが私の心からの答え。真の想いが私に向いていなくたって私から想う事を諦めたら可能性なんて残らない!


もう一度心の中で呟き、確信と共に紗姫に言う。


「うん……この心、想いに偽りはない。あるわけがない!」

「うん、それでこそ私の知る由香梨だよ。その気持ちを詠に乗せなさい。変わる事のない不変の言葉を用いて魔法にするのよ。そうすれば世界は答えてくれる」

「世界が答える……」

「そう。人とは世界。世界とは人との繋がり。世界とは遠いようであって手を伸ばせばすぐそこにあるの。だから心からの言葉は世界を変える為に十分な力になる。イメージの要は由香梨が書いたあの心、真っ直ぐなあなたらしいあの言葉(ことのは)達。さぁ名残惜しいけど行きなさい。私の事はすぐに忘れてしまうけど。向こうで会える事を祈ってる……」


紗姫はそういうと胸の前で両の手を固く握り、目を伏せ、祈った。だがその姿はどんどん薄くなり、白かった世界も透明になり再び私はどことも知れぬどこかに飛ばされた。



目を開ける。私は地面に横たわり、血溜まりの中にいた。制服は血を吸って真赤に染め上がり、胸の所には穴が開いている。だけど傷は完全に塞がって、跡も残っていない。

腕を突っ張って体を起こす。


「なっ!?」


すぐ近くで地面を蹴る音がした。ジャッカが近くに来ていたのだろう。確かにこれだけの出血をしていれば普通の人だったら死んでいるはずだ。


「どうして生きているのです!?」


私はそれには答えないだけど代わりにこう答える。


「ごめん。私があなたの想いを奪う……私の想いを成し遂げる為に」

「それは不可能だ。そんな満身創痍の体でどうする。立てた事も傷が塞がっていることもおかしい事だが、君が生きて帰れる可能性は万に一つもない。それにその可能性も僕が零にする!」


【君の想いは僕が引き継ぎます】

 私は真にただ一つ隠している事がある。


【だからどうか安らかに眠ってください】

 紗姫が真に本をあげたように、私も紗姫に日記帳をもらった。


【赦してくれとは言いません】

 私は紗姫に何で日記帳? と聞いたが紗姫は由香梨に貰って欲しいんだと明確な答えは返さないまま押しつけ、


【その罪を背負う覚悟はとうの過去(むかし)に済ませているのだから】

私はそのまま引き出しの奥に仕舞い込んだまま紗姫の事を忘れてしまっていた。


【僕と君は似ています】

 だけどリンカから記憶を返してもらって紗姫からの日記を改めて開いて、


【だけど相入れる事は出来ないのです】

私は最初のページに決意の一文を書き連ねた。


【それは彼女の想いに反する事だから

私はその決意を本当にするための言葉を口にする。


〝悲愴に塗れた涙の(イル・ス・アジェスティア)


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