第三十六話
フルーネの動きを良く見る。武器は意識から外し、腕の動き、腰の捻り、足の運びそこから全てを予測する。右、左、下と見せかけて上、俺は体裁きでかわせるものは躱し、無理な場合は刀で弾き、フルーネの攻撃を凌ぐ。
「〝強化〟なんて小細工使ってくるとは思いませんでしたわ。さっさと殺されなさい!」
棒を取り巻く電流がより強く輝きを増し、渾身の突きと共に解放させる。俺は咄嗟に後ろに飛びずさるが、肩を電流が掠りそこから俺の体を焼く。
「くっ!」
だが俺はそれには構わず、構えを解くという愚かな事はしない。
「生意気ですわね! これならどうです!」
フルーネは腕を振り、そこから何条もの電気を帯びた〝魔法の矢〟が射出される。俺はすぐに〝魔封壁〟を展開、全ての矢を受けとめる。
「お前は何のために戦う! 誰の為に戦う!」
「そんなの決まってます! ジャッカと共に永遠の時を歩くためですわ!」
フルーネは〝魔法の矢〟を身に纏い、一体の矢となって突っ込んでくる。俺は〝強化〟のイメージを硬度に変え、真正面から受けとめ鍔迫り合いに持ち込む。電流と刀に纏わせた魔力が火花を散らす。
「永遠の時を歩く? そんなバカげた事が出来るものか!」
「可能ですわ。そのための魔法、そのための秘術。その過程で何を失おうとも、何を傷つけようともジャッカと共にいる未来があるならば私は全てを捨てる覚悟ですわ!」
「ボロボロになって手に入れた永遠に何の価値がある! その罪の意識に苛まれるだけだろう!」
「ジャッカと一緒にいられるならそんなの気になどなりませんわ! それほどまでに私達は愛し合っているのです! あなたにだって心から想う人がいるのではないのですか!」
フルーネの押す力が強まり、その感情に答えるように弾ける電流が輝きを増す。
「ああいるさ! だから俺はこの戦いに身を置いたんだ! 向こうから来るお前達に復讐し、取り戻す為に!」
流す魔力を強め、負けじとばかりに足に力を込めて、押し返す。
「ならば、私達の気持ちが分かるでしょう! 愛する人と引き離されるのは悲しい事だと分かるでしょう!」
「ああ分かるさ! でも他人の命を勝手に奪う事が許されるはずがないだろう! 有限だからこそ過去は価値ある物になるんだ! 永遠とは過去も今も未来も全てを捨てる行為だと何故分からない!」
「あなたこそ喪失を知りながらなぜ分からないのです!」
俺達は互いに一回距離を取り、再び、その距離を詰める。
「うぉおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「はぁああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
互いの獲物が再び火花を散らす。だが衝撃に負けたのだろう。刀は根元から折れ、棒はバラバラに砕け散る。俺達はまったく同じ動作で俺は柄を、フルーネは半分以上砕けた棒を投げ捨て、右手を突きだす。
〝魔法の矢〟
〝魔法の矢〟
二つは爆発を巻き起こし、巻き込まれた俺達。だが空中でバランスを立て直し、すぐにフルーネを見据える。
「私達は止まる事は許されないのです! 私の全てを持って! 私の全てを認めさせ、貫きます!」
フルーネが両手を掲げる。
「俺はそれを真っ向から否定する。俺には俺の貫きたい想いがある! そのための力を俺にくれ! 紗姫!」
俺の深奥を統べる想い人の名を呼ぶ。
すると、
(いいよ)
【我が手に集え 紫光の子】
(私の力を貸してあげる)
【君の姿は雄々しくて】
(真は心から湧き上がる言葉を口にして)
【君の姿は勇ましい】
(後は全部引き受けるから)
【君の偉大な力を私に貸して】
(言葉は形に)
【私の想いを遂げる為に】
(心は胸に)
【彼と共にもっともっと】
(想いは魔法に)
【歩けるように】
(君の全てを私に見せて)
〝失いたくないゆえに欲す永久〟
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