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一欠片の軌跡  作者: 皇 欠
四章~掴み取る奇跡、共にある為の一歩~
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第三十五話

やっぱりそれは唐突に。そして言い得ぬ悪寒を伴って世界は変質する。


「さすがに三度目となるとある程度慣れてくるな」

「慣れたいとは思わないけどね」


俺と由香梨は今、学園の帰りにショッピングモールでウインドウショッピングを楽しんでいた。油断していた訳ではない。むしろ逆だ。一週間で人は全てを忘れられるほど便利には出来ていない。それにあれだけ激痛に苛まれれば刻銘に記憶に刻まれるものだ。だが俺達の顔には恐怖がない。恐れてないわけではないが、学園の生活で俺達に自信を付けさせ強くしたのは間違いないだろう。


「行こう由香梨」

「どこに行こうと言うのです?」


上から高圧的な言葉が響く。

そして俺達の目の前に雷が落ち、その中から一週間前、俺達を苦しめたフルーネとジャッカが姿を現す。


「あなた達はあの女を誘き出す為の餌となってもらいます」


フルーネの言葉に由香梨が喰らいつく。


「リンカをどうする気よ?」

「決まってるでしょう。あなた達の目の前で二度と自力で立てないようになるまで痛めつけてやりますわ」

「そんな事だと思ったけどね」


由香梨は余裕の表情を崩さない。


「堪に障る言い方ですわね。すぐに助けが来ると思ったら大間違いですわよ」

「どういう意味よ?」

「前回の様な時間稼ぎを目的にした罠ではありません。本気で潰す為の罠を用意しました。あの女の実力は底が知れないと分かっています。その評価に似合うだけの物をぶつけさせてもらいました。あの方はあなた達を助ける為に必ずやってくるでしょう。例え死に面した状態でも。そうなったあの方を私が嬲り殺してあげます」

「それを俺達が許すと思ってるのか?」

「どういう意味です?」

「こういう意味だ!」


俺は懐から学生証を取り出し、地面に叩きつける。学生証に登録されている魔法が発動し、魔法環がフルーネとジャッカを包み、効果を発動する。


「強制転移魔法ですって!?」

「フルーネ!」


ジャッカが相棒を呼び、それに答えるようにフルーネも棒を地面叩き、術式を発動させる。俺が発動させた術式とフルーネが発動させた術式が相互干渉を引き起こし、強烈な光となって全てをその中に飲み込む。


「由香梨!」


俺は白い世界で由香梨の名を呼ぶが、返事も何も返ってこない。

次第に光が収まり、視界が戻ると、隣に由香梨の姿がなく向こうもジャッカの姿がなくなっていた。


「一体何が?」

「どうやら、私の結界術式とあなたの転移術式が互いに干渉を起こして、それぞれ別の空間に飛ばされたようですわね。きっとジャッカの方はあなたの連れと一緒にいる事でしょう。まぁ私としては好都合ですけど。あなた一人くらいどうとでも料理して差し上げますわ」


状況確認をさっさと済ませたフルーネは俺に襲いかかってきた。棒の射程に入った瞬間フルーネは横薙ぎに振るい、俺の頭を狙うが、それを俺は一歩下がって躱し、逆に懐から刀を抜き放ち、切り返す。それをフルーネは振った力を身を捻る事によって更に力を上乗せして、剣戟を弾く。

そこからフルーネの猛攻が始まった。右から攻撃を繰り出し、すぐに左からの殴打が俺を襲い、かと思えば上下と、間髪入れずに怒涛の勢いで俺の急所を襲うフルーネだが、俺は時に一歩後ろに下がって躱し、体裁きで躱せない時は刀で防ぎ、防戦一方だがフルーネの攻撃を的確に躱していく。


「うまく躱すじゃありませんか。でもこれならどうです?」


【彼の産声轟かん

 生まれ落ちるは紫光の子

 その身に宿る輝きで全てを焼き

 その身に宿る鼓動で全てを震わす

 さぁあなたはこの子の姿を見ることもなく

 この世界から消えなさい】


〝紫電それがこの子の(シス・イ・ヒルネス)


フルーネが唱えると棒に電気が流れ纏わりつく。

「これに触れればこの前の二の舞よ。さぁどうする?」

挑発的な笑みを浮かべるフルーネ。

だが俺はフルーネを見据え、冷静を保つ。実戦で使うのはこれが初めてだが……あれだけコウにしこたま殴られたんだやれる! 俺は刀に意識を集中し〝強化〟を発動させながら、コウに教えて貰った事を思い返す。




「やっぱり飲み込み早いよ真。〝強化〟をここまで速く扱えるようになるとは思わなかった、さてそれじゃ次は剣術を伝授しようか」

「今のままじゃ通用しないか?」

「うん。無理だね。真の剣道って言うのは面、胴、小手、を有効部位で打突しないといけないでしょ。確かに刀で斬れば相手を行動不能にする事は出来るけど。それを狙うのは難しいよね。急所だし、深く斬り付けないとそれには至らないし、だから僕が教えるのは守りの為の剣技。相手の攻撃を弾き、受け止め、自分が生き延びる為の剣技。仲間を守るための剣技を教えるよ」

「自分と仲間を守るための剣技か……」


俺は竹刀を見る。俺が欲してるのは力だ。だがそれも自分の命あっての物だから、コウの言ってる事は正しい。

「コウ、頼む教えてくれ」

「了解。その前にこれ渡しておくよ」

懐中から鞘に入った刀を引っ張りだした。それを真に放る。片手で受け取った為体が前のめりに倒れそうになる。


「本物だから扱いには気を付けなよ」


コウはしっかりと両手で持つ。


「抜いてみて」


俺はゆっくりと抜刀する。刀にはコウに付いてる様な宝石はなく別段変わった特徴はなかった。だけど抜いた瞬間刀とは思えない程軽くなる。


「これ……さっき持った時より軽く感じるんだが?」

「抜くと軽くなるように魔法をかけてるからね。扱えなかったら本末転倒だから。今の重さは竹刀と同じくらいになってる筈だよ。それじゃ構えて」


両手で握り、中段に構える。


「専守の戦い方は『見て』戦うのでは守れない。戦場の流れ、、タイミング、距離の取り方、相手の癖、あらゆる事象から先の先を予測して、数秒先の戦闘を頭で何パターンもする必要があるんだ。だから敵の一挙手一投足を逃さない観察力、そしてそれを逃さないための集中力が必要となる。それを今から鍛える。じゃあ行くよ」


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