第二十九話
今私の目の前で真が真としての何かが音を立てて崩れさった気がした。ここからじゃ真の顔を見ることは出来ない。それに動こうにも体はさっきの電撃で指一本動かせない状態だ。だけど私の予感が的中したと分かったのは真の体から不気味な黒色の魔力が噴き出したからだ。
……あれは。
魔法の授業の時、リンカが紗姫の事を話した時と同じ魔力。だけど今目の前で起こってる事象はこの前のとは明らかに一線を隔している。魔力が炎のように揺らめき、一時として同じ形になる事はなく、形が変わるたびに私の心は焦燥と悲涼が互いに渦を巻き苛む。
「ま……こ……と……」
私は真に戻って欲しくて声を絞り出しどうにか名前を呼ぶことは出来ただけどあまりにもか細くてあまりにも非力過ぎた。
「ッ……こいつなんて禍々しい魔力してるんだ。だがこいつの魔力を喰らえば僕達はもっと強くなれる」
「ッええ、ジャッカ。さっさと頂いてしまいましょう」
ジャッカとフルーネが真に近づいていく。ジャッカが水の球を浮かべ放つ。その矢は真の体を間違いなく貫くとジャッカは確信していたのだろうだからジャッカはあれ程驚愕に満ちた顔をしたのだ。
ジャッカが放った水の矢が真の魔力の炎に触れると彼の髪と同じ色の矢が黒く変色し、炎の中に取り込まれる。絶体絶命に陥っている私達より向こうの方が焦っているように見える。いや実際焦っているのだろう。二人の眼には真が何をしたのか。どうやって矢を消したのか。魔法に深く長く関わり合っている彼らには魔法がどのような方法と手順で行使されるか私より遥かに理解している。ゆえに目の前の事象があり得ない事と認識し、そのあり得ない事を行使できる真の事を恐怖の対象として見る事になる。
「もう一度電撃をプレゼントして差し上げますわ!」
語気を荒げ、今だ電流纏う棒を真に振り下ろす。しかし、それもまた同じ事。棒もまた矢と同じように黒き炎に触れた瞬間、侵食され光を反射する銀は全てを吸い込む黒に変わっていく。しかもそれだけで終わらず握っていたフルーネの手にまで黒は侵攻し同色に変える。
「ひっ!?」
フルーネは短く悲鳴を上げ、叫ぶ。
「来るなぁああああああーーーーー!」
フルーネの体から電流が迸り、おのれ自身の体を蹂躙する。フルーネの体のいたる所から煙が立ち上り、いつの間にか侵食されてした手は元通りの肌色に戻っていた。
「フルーネ、大丈夫かい!?」
「ジャッカ……ヤバい……こいつはやばすぎる……魔力なんていらない……こいつは殺してしまいましょう……」
「君がそう言うならそうしよう」
ジャッカは手を掲げる。すると下に向かって落ちていた雨が向きを変え理を捻じ曲げて手の上に集まって斧を形作る。
「これなら消されることもないだろう。それではさようなら。どうか恨まずに逝って下さい」
静かに呟き真の首に向かって斧を振り下ろす。そのとき何かが壊れる音がした。今まで聞いた事のない音。だけどそれは何かが壊れたと分かるそんな悲鳴みたいな音。そして救いの声が私の耳に届く。
〝水よ(我が友よ)〟
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