第二十四話
二人が苦戦している間にリンカは他の奴らの様子を見に行く。魔法は基本的な事はアドバイスできるが結局は個人のセンスと経験がものをいう。横からリンカが口を挟んでしまっては彼らの邪魔をするかもしれない。そういう考えで彼女はこっちに来たのだが――
――暇でもいいから向こうにいれば良かったかしら?
リンカは零れそうになる溜息をどうにか抑え込み、目の前の惨状を眺める。
簡潔に言えばそこは戦場だった。ここでは日常茶飯事に起こる事ではあるけれどまさかわずか数分目を放してる間になろうとは。飛び交う〝魔法の矢〟轟く爆音、穿たれる地面。そこはまさしく銃弾飛び交う命を奪いあう戦場。だが、
「目玉焼きには醤油だろ!」
「何言ってんのよ! 塩コショウに決まってるじゃない!」
「はぁ? お前こそ何言ってんだマヨネーズだろ!」
「はぁ? はてめえだ! ケチャップが一番だろうが!」
「何言ってんのさ。ホタルちゃんの目玉焼きが最高だよ」
アホすぎる。なんてアホな戦場何だろう。それがリンカの抱いた感想だった。たかが目玉焼きに何を付けるか、何をかけるかで大地が変形してしまう争いを起こすこいつらホントなんて……なんてバカなんだろう。しかも止めるべきコウまで混じって戦闘を激化させてやがるし。さて彼女はこれをどう収拾したらいいのだろう。
「コウ! 俺はお前が羨ましい! なんでお前はホタルの手料理を食べ放題なんだよ!」
「なんでって兄妹だし。当然じゃない」
「総員、コウを狙い撃て! 目の前の怨敵に捌きの鉄槌を下すのだ!」
「「了解した!」」
「「分かったわ!」」
(コウがボコボコにされるなら放置でいいかしら)
「ちょっと待って何で僕なの!?」
「俺達(私達)だってホタルの手料理が食べたいのよ!」
「あら皆さん嬉しい事を言って下さいますね」
リンカの後ろに音なく現れたホタル。
(我が妹ながら時々怖いわね)
「今度お茶会でも開きましょうか。私の料理を思う存分振るって御馳走しますよ」
「「やった~~~!」」
「話はついたみたいね。それじゃあなた達楽しい楽しいお説教タイムと洒落込みましょうか」
リンカが爽やかな笑みを浮かべて近づいていくと全員顔を真っ青にして退いていく。
「あれどうかした? さっさと来なさいよ。優しく、やさし~く説いてあげるからさ」
「コウお前どうにかしてリンカの怒り抑えてくれよ」
「無理! 絶対無理!」
「じゃあホタルお願い! どうにかして!」
「あらあらまぁまぁ」
「誰でもいい! 誰かリンカを止めてくれ!」
本人が居る目の前でそんな相談をし始めるバカ野郎どもさてどう懲らしめてやろうか思案している時そんな声が上がった。
「出来た!」
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俺の沈んでいた意識を戻したのはそんな声だった。
「真! 出来た、出来たよ!」
はしゃぐ由香梨の掌にはきちんと安定した〝魔法球〟が浮かんでいる。俺は自分の事のように嬉しくなり心が弾む。
「やったじゃないか由香梨!」
「えへへ」
だらしなく緩んだ顔。だけどそれだけ嬉しかったのだろう。
「以外に早かったじゃない。由香梨それを飛ばしてみなさい。矢の形となって飛ぶイメージを思い浮かべながら唱えなさい〝魔法の矢〟と」
「はい」
〝魔法の矢〟
由香梨の〝魔法球〟はリンカ達の扱う〝魔法の矢〟と寸分違わない形で矢となり飛んでいった。
「簡単でしょ」
由香梨はちょっと驚いた顔でわずかに頷く。
「それじゃ由香梨は〝魔法球〟の構築から〝魔法の矢〟までの一連の流れを素早く正確に行えるように反復練習ね。真はそのまま〝魔法球〟の構築の練習。あんた達は一辺死にましょう」
「「「えっ」」」
委員長や信を含むクラス全員が絶句する。
「私ね。今まで前言撤回とかした事ないのよ。だからちゃんと優しく説教して上げるわ!」
力強く言い切ったリンカは愛刀〝清水〟をいつの間にか握り、全員に襲いかかる。
「全員逃げるわよ!」
委員長が大声を上げそれと同時に隣にいた信をリンカに投げつける。あの細腕のどこにあんな力があるのだろう。……あっ魔法か。
「何で俺だけ!」
真っ直ぐ顔から突っ込む信、そんな哀れな信をリンカは情け容赦なく、
「邪魔!」
裏拳を顔面に決め吹き飛ばす。由香梨がうわ~と小さく呟いてるが全く同感だ。こうしてリンカによる肉体言語によって行われる説教と言う名の惨劇が幕を開けた。
「さてお二人は修行を続けて下さって結構ですよ。周囲に結界を張りましたのでこちらに被害が来る事はありませんので安心してください」
相変わらず笑みを絶やさぬホタル。手際が良すぎる。
これで色々と刺激と未知に塗れた魔法学校での一日が終わった。
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