第二十三話
「全員いるね。感心感心逃げた奴がいないなんてあんた達は真面目ね」
この時全員心の中でこう思ったに違いない。
(逃げたら後が怖いからな)
「それじゃ明菜、真と由香梨に〝魔法の矢〟のお手本を見せてあげて」
「ほいほい」
明るい声と共に前に出る委員長。
委員長は手を真っ直ぐに伸ばし唱えた。
〝魔法の矢〟
伸ばした手から放たれる一筋の光。そして数瞬遅れて遠くで爆ぜる地面。その後訪れた不気味な沈黙。その沈黙を破ったのは青筋を浮かべたリンカだった。
「明菜」
「はい、なんですか?」
「私はお手本を見せろって言ったはずだよ」
ツカツカツカ足音をわざと立てながら委員長に近づいていく
「うん」
「なのにな・ん・であんな風に派手に地面を抉ってるのかしら!」
「いひゃいいひゃいほっぺをひっぱらひゃいで(痛い痛いほっぺを引っ張らないで)」
情け容赦なく委員長の頬を思いっきり引っ張る。
「ひゃってへっかくみゃこととゆかりにみへるんならはへなほうがいいとおもっては(だってせっかく真と由香梨に見せるなら派手な方がいいと思ってさ)」
「派手にする必要などまったくない!」
委員長にゲンコツを一つ落とすとようやく手を放した。
「仕方ない。私が手本を見せるわ」
リンカは委員長と同じように手を伸ばす。
「まず体を巡る魔力を掌に集める。次に掌に集めた魔力をその上に放出し球をイメージして形成する。こんな風にね」
そういうとリンカの掌に薄い蒼色の球が形成された。
「これは〝魔力球〟と呼んでる物で基本となる魔力の使い方だからマスターしてね」
そういいながらリンカは掌を前に突き出す。
「〝魔法球〟を造り出したら後は簡単。頭の中で矢を飛ばすイメージを描いて唱えるだけ」
〝魔法の矢〟
リンカの〝魔法球〟がゆっくりとその姿を変えて行く。リンカが分かり易いように遅くしているのだろう。球状だったものが最初に鏃のように尖っていき箆と呼ばれる矢の棒の部分が簡単にくっつきそこで変化は終わった。矢羽はなく吹き矢に使われる矢のような形だ。
「最初は形のイメージ次に飛ぶイメージを浮かべるとこうなる」
言った瞬間リンカの掌で浮かんでいた矢が眼前から消え去りさっき委員長が開けた穴の隣でまた爆発した。手加減して放ったのだろうが窪むくらいの威力はあるみたいだ。
「こうなるわけよ。全ての要はイメージだから戦闘中でも明確にイメージできるようになりなさい。さてあなた達は今から〝魔法球〟を構築できるように練習ね。あんた達は二人一組になって〝魔法の矢〟だけの模擬戦を始めなさい。手を抜いたらコウと私が相手になるからね」
リンカは心が底冷えする笑みを湛えその後ろのコウは戦えるのが嬉しいのか歓喜の笑みを浮かべている。戦闘狂(亘)以外はすぐにチームを組み真面目に取り組み始める。だが、
「リンカ俺はコウと殺り合いたいんだがいいか?」
「好きにしなさい」
狂気に染まる笑みと喜びの笑みという対極の笑みを浮かべてコウと亘は離れて行く。そしてすぐに周囲は爆音が響き始めてる。
「それじゃ始めるわよ。体を巡る魔力を感じて掌に集中と同時に頭の中で球をイメージ。ただここで絶対球である必要はないわ。イメージ出来るならどんな形でも構わない」
イメージ、言葉だけなら簡単だ。だが明確にイメージを固めるというのは難しい。曖昧に浮かべる事なら誰にでもできる。だがイメージという自分の頭の中だけで形造るものはなにも媒介に出来ないため出来たと思ってもそれは結局は不完全な形となる。
(リンカの造った球を思い出せ。寸分違わない完全とは言わないまでもそれに近いものさえ出来れば)
掌から魔力が放出され集って行くのが感覚で理解できる、できるが、魔力はそのまま霧散し消え去ってしまう。頭では理解できるが体ではどうしても魔力という今までにないものを扱うために戸惑いがあるみたいだ。
「なら使わない方の手で銃を握ってなさい。魔力が集まる感覚が分かるはずよ」
言われた通りポケットの中に入れていた銃を取り出し握ると勝手に体を巡る魔力が流れを変え銃の中に集まって行く。
「その感覚を真似なさい。百聞は一見にしかずと言うけれどそれにも勝るのは体感、経験する事でしょ。頭は常に球状を思い浮かべながら、体はその感覚に委ねなさい」
意識をより高める為に両目を閉じ集中する。正常な流れを乱して力を集める銃の機構、それは必然的に違和感となって知覚できるようになる。その違和感を両手に等しく出来れば成功するはずだ。
「継続こそ力なりよ。ちょっと他の奴ら見てくるから」
そういってリンカは離れていた。
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