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一欠片の軌跡  作者: 皇 欠
二章~忘れられた出会い 新しい出会い~
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第十六話

「あんたいきなりドアぶち壊してどうすんのよ? 皆もびっくりしてるじゃないの」

「「「いや、もう慣れたから大丈夫」」」


教室にいた全員が声を揃え、顔の前で手を左右に振り、否定する。全てにおいて完璧なシンクロを織り成して。きっとこの三人いや二人のこの行動はいつもの事なのだろうと全てを悟ってしまった。


「その二人が転入生なの?」


明るい金色の髪を肩の上で切り揃えその一房を緑色のリボンで結び、エメラルド色の澄んだ瞳をキラキラと輝かせ明るい声ではっきりと喋る女の子が気軽にリンカに問いかけた。


「ええ、紗姫の忘れ形見」


その言葉を聞いた瞬間教室中が一気に騒がしくなった。


「やっと来てくれた~!」

「紗姫さん、必ず助けて見せますから……」


一人は天井に向かって叫び、一人は胸の前で手を組み静かに祈りを捧げる。

俺達二人はその異様な光景を黙って見続けたが、さっきの明るい声の少女がこっちに向かって微笑みかけながら、


「ごめんごめん。君達二人を置いてきぼりにしちゃったね。ここにいる全員、紗姫さんに命を助けてもらった人達なの。助けてもらった後もこの学園で友達として恩人としてとっても良くしてもらってたんだよ。私もその一人で神代明菜って言います。このクラスの委員長もやってるから分からない事は何でも聞いてね。よろしく」


神代明菜、委員長は手を差し出してきた。

俺は頷きながら、


「辻村真です。こちらこそよろしく」


自己紹介して握り返した。


「うん、よろしく」


満面の笑みを返した。

委員長は機敏な動きで由香梨の前に移動して同じ様に手を差し出す。


「よろしく」

「雪村由香梨です。よろしく」

「委員長! ずるいぞ。抜け駆けとは委員長のする事じゃないだろ!」

「へっへ~ん早い者勝ちだよ~」

「あんた達、いい加減にしなさいよ」


呆れたようにため息を吐くリンカ。


「そろそろ授業始まるから用意しなさい。あなた達の席はそこだから。教科書とか全部中に入ってるから。それじゃ後でね」


それだけ言ってリンカは二人を伴って出て行った。


「あれ? あの三人はこのクラスじゃないの?」

「聞いてないの? あの三人は……」


キンコーンカンコーン丁度チャイムが鳴り響きガラっと音と共にリンカ達三人がもう一度入って来た。


「ほいほ~い、席に着いて~」


コウを先頭にリンカとホタルも続いて入って来た。


「先生もやってるのよ」


あの三人は規格外にも程がある。


「今日の授業は全部私達が担当して上げるから嬉しさで咽び泣くといいわよ」


教壇に立ったリンカが放った最初の一言がこれだった。そしていきなり教室中から咽び泣く声が聞こえ始める。そいつの顔を覗いてみるとマジで号泣していた。しかも男が。俺はいてもたってもいられず左隣に座っている委員長に話しかける。


「皆どうしたんだ? 男はマジ泣きするは、女の子はシクシクすすり泣くは。リンカ達の授業はそんなにいいの?」

「いや……その逆で……この三人、鬼みたいに厳しくて、皆トラウマになっちゃってるのよ。かくいう私も体の震えを抑えるだけで必死なんだけどね」


委員長はそう言って微笑んだ。だけど顔は若干青ざめている。


「そんなに怖いの!?」


俺の右隣りにいた由香梨が身を乗り出して委員長に聞く。


「怖いとかそんな次元じゃないよ。……ダメこれ以上は思い出させないで!」

「あんた達いつもの反応だから気にしないけど今日は安心していいわよ。真と由香梨はつい先日魔法を知った素人も素人だから。まずは基礎の復習をするわ。あんた達これ出来なかったら地獄見せてあげるから気合入れてやりなさいよ」

「はい!」


元気に返事を返す、俺と由香梨以外の面々。中には敬礼をする者までいる。リンカの鬼教官ぶりは相当なものみたいだ。


「真、由香梨、魔法って何だと思う?」


リンカから漠然とした質問をしてきた。


「凄い力だと感じたよ。けどそれと同じぐらいに怖いとも思った。コウ君の魔法見てたら足が勝手に震え出すのを抑えきれなかったもん」


由香梨が若干声を震わせながらそう答える。


「由香梨のその考えは魔法を扱わない人間からしたら正しいわ。だけどその考えはもう捨てないといけないわ。魔法を使う時一番重要なのは集中力なの。恐怖や畏怖はその集中を妨げる感情なの。恐怖や畏怖では生まれる魔力も微々たる物だしね」

「それは魔力が感情エネルギーだという事に起因するのか?」

「もちろん。魔力を作る上で効率の良い感情と悪い感情があるのよ。悪い感情の方はさっきの恐怖と畏怖に類する感情ね。良いのは怒りや憎しみ、楽しみかしら」

「楽しみは分からなくもないが、憎しみや怒りは漫画やゲームならダメな感情じゃないのか?」

「それは間違ってるわけじゃないけど説明不足ね。怒りや憎しみに囚われると人って周りが見えなくなるのよね。だから怒りや憎しみで魔力を引き出し、なおかつその感情に引っ張られない事が理想なの。二人とも思い出して。白い部屋の中で一人横たわる紗姫の姿……」

リンカが発した紗姫の名一つで俺の内からドス黒い感情が溢れだした。その黒い何かは俺の体を覆い尽くす。


「はい、そこまで」


 首のあたりに軽い衝撃が走った。それだけで俺の体はバランスを保てなくなり倒れ、そのまま俺は意識を失った。



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