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一欠片の軌跡  作者: 皇 欠
一章~それぞれの始まり それぞれの出会い~
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第十二話

章タイトルつけてみました。

長大だったコウの詠唱に対しヘルキスの詠唱は短くも重々しくそして殺意に(まみ)れていた。

コウは自分の前に出現した紅色の魔法陣に右手を突っ込み引きだす。その手には紅の槍が握られている。火の粉を散らしながらコウの手の中で燃え続ける焔の槍。コウは腰を落とし構える。

ヘルキスの足元にも魔法陣が出現すると同時に暗雲が立ち込め、渦を巻きヘルキスを中心にして竜巻を形成する。


「行け!」


ヘルキスがそう命令すると竜巻はまるで意思を持ってるように唸り分岐してコウに襲いかかる。


「甘い甘い」


コウは難なく躱し、槍で払い笑みを絶やさず更に深めていく。


「だから君は雑魚なんだよ。力押しなんて雑魚がする代表例だよ。もっと戦略立てして戦わないと」


その言葉を戦場の片隅で聞いていたリンカがポツと呟く。


「あなたが言えるセリフじゃないでしょうが」


 と呆れていた。


「そんな事いってお前俺に手を出せないじゃないか!」


更に数を増やして襲わせるヘルキスだがその顔には焦りがある。幾重もの攻撃を繰り出すにもかすり傷さえ付けられない事に苛立ちも混じっているようだ。


「そろそろこっちからも行かせてもらうよ」


槍を真っ直ぐ前に突き出し足を地面に飲めり込ませ、詠う。


【更なる姿を見せましょう

 羽ばたく私

 見守るあなた

 それすなわち自由を求める我が心

 あなたを置いて行く事に

 罪の意識あるなれど

 空を求める心押さえる事叶わず

 ゆえに我 あなたの心を胸に抱いて

 蒼穹の世界に身を委ねよう】

 

〝蒼天を穿つ紅閃(フェス・ラ・イルジーオ)


 槍が一層紅に輝き、爆発的に魔力が高まる。


「いやっほーーー!」


コウが歓喜の雄叫びを上げると同時に槍頭から翼が生え、空に向かって飛翔する。

ヘルキスが呼んだ暗雲を貫き風穴を開けその風穴から深い蒼と太陽の光が垣間見える。

コウの槍は雲を突き破った後も高みを目指して更に昇っていく。


「こけおどしか!」


ヘルキスは更に竜巻の数を増やしてコウを襲わせる。


「いやそういうわけじゃないよ。ただこの魔法は……」


竜巻がコウの眼前まで迫る。コウは視線を逸らさずヘルキスを見据える。その時天から赤き閃光が降り注いだ。その光は竜巻を貫き、地面に縫い止めた。


「発動まで時間が掛かるんだよね」

コウの顔は常に笑顔だ。だがその目は狩人のそれになっている。既に相手の生殺与奪を手中に収めたようなそんな目をしている。

「竜巻ってさ、台風と同じでその中心は無風状態なんでしょ。その中心にいる君は上からの攻撃には無防備だ。だから僕は容赦なくその弱点を攻めさせてもらうよ」


そう言ってコウはゆっくりと前に突き出し親指を下に向け、地面を指す。それは『死』を意味するジェスチャー。


「楽しかったよ。ありがとう」


心の底から楽しそうに言ったコウの言葉を聞けたかどうか分からなかったがほぼ同時に空からの光がヘルキスの纏う竜巻と一緒に蒸発し、跡型もなくこの世から消え去った。呆気ない幕引きだった。


「やっと終わらしてくれたわね。コウあんたならもっと早く終わらせられたでしょう」

「それはそうだけど、真とか由香梨がいたからかっこいいとこ見せたいじゃん」

「一回あんたの頭をかち割って洗ってあげようか?」

「謹んで遠慮させてもらいます」


コウは地面に平伏する。


「ホタル、二人を連れてこっちに来てくれないかしらもう安全だから」


コウを完全に意識から除外してホタルに連絡する。

頭に直接響いてくるホタルの声。


『はい分かりました』

「二人は大丈夫? ショック受けてない?」

『大丈夫ですよ。コウさん、せっかくかっこよく倒したつもりなのでしょうが。お二人とも紗姫さんの事が気になって全くそちらを見ておりませんから』


ガーンと平伏していたコウが更に地面に呑めり込む程に落ち込む。


「僕の苦労はいったい……」

「あんた遊んでただけじゃない」


リンカがコウの頭を踏みつけ踵でグリグリと地面に押し付けていく。


「リンカちゃん痛いって」


コウが嘆くが構わず踏み続ける。そうやってリンカがコウを弄り倒している内に三人がこちらに向かってきた。

「お疲れ様です。リンカさん、コウさん」

「ホタルちゃんもお疲れ様」


コウが踏まれたままの状態でホタルに声をかける。


「リンカさんお仕置きはそこまでにしといて上げたらどうですか? 自分が戦えなかったからって拗ねないで」

「私は別に楽が出来たから良いけど、こいつの戦い方が気に入らないだけよ」


ゲシゲシとコウの頭に何度も蹴りを入れ続ける。


「だから痛いってば」


コウはそれでも笑みを崩さず、蹴りを受け続けている。そんなコントのような遣り取りを続ける三人に痺れを切らしたのか、


「それで紗姫はどうなったんだ」


重く静かに真が口火を切る。


「紗姫は生きてる。ここを出たら会わせてあげる」

それだけ告げリンカは地面を蹴り、羽のように舞い上がり、中空に佇み、指揮者のように両手を振り上げる。


〝動け〟

〝刻み始める歯車(カルデア)


呟くように声を爪弾くと波と風となって世界に色を取り戻させる。魔法が完成し蒼い光がヘルキスとコウの衝突によって砕けたアスファルトや倒された街路樹、割れた窓などが時間を巻き戻すようにあるべき場所に還っていく。そして最後に一度仮初の色が全て抜け落ち、本物の色に戻っていく。

色と同時に音の波も還ってき、人の話し声、車が出す排気音と走り去る風を体に受け、ようやく現実に帰って来たと実感する。

 

真達五人はいつの間に移動したのか屋上にいた。真達は知らないがそこは最初にリンカ達が魔法を発動したビルの屋上だった。地面に描いた魔法陣は消え去っている。


「戻ってきたの……?」


由香梨は疲れた声で呟いた。


「ああ……そうみたいだな」


真もそう呟いた。


「大丈夫ですか? こっちに戻ってきて気が抜けちゃいましたか?」


ホタルが二人の顔を窺いながら聞いていた。


「それよりも紗姫に会わせてくれ」


真は静かにだが押さえきれない感情を声に乗せて言った。


「そうね。だけど覚悟してついてきなさい」


不吉な事を言ってリンカは階段に向かった。

その後をさっさとコウとホタルは付いて行き更にその後ろを真と由香梨が躊躇いがちに付いて行く。


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