第十話
目が覚めたら机に突っ伏していた。顔を上げると沈痛な面持ちでリンカ達三人が俺達の事を見ていた。隣で同じように由香梨も身をゆっくりと起こしていた。
「思い出した?」
正面にいるリンカが問いかけてきた。
俺は勝手に溢れてくる涙を何度も何度も拭いながら、
「ああ…………なぜ俺はあいつの事を……紗姫の事を忘れていたんだ。例え魔法の力だとしても忘れてはいけないはずなのに。いや、その前にあの後紗姫はどうなった? 俺が生きているということはあいつが俺達を助けてくれたのか?」
俺は俺が気絶した後の事を知っているだろう当事者のもう一人、由香梨の方に顔を向け問いかける。しゃくりを上げて泣き続けながらも由香梨は答える。
「ごめん、真。私もあの後、お腹に穴を空けた二人を見て気絶しちゃったみたいなの。そこからの記憶がないから……」
「そうか……なら」
確実にその後の事を知ってるだろう人達に聞いた。
「あの後一体どうなったんだ?」
「真、あなたが気を失ってからすぐに私達は到着したわ。だけどその時には全部終わっていた。血塗れのあんたと気を失った由香梨――」
リンカは一度そこで区切り、深呼吸をして呼吸を整えている。それはまるで自らの罪を明かす咎人のような面持ちで口を開いた。
「――そして〝夢無人″となった紗姫が残されていたわ」
その言葉を聞いて顔から血の気がひいていくのが分かった。リンカの説明に出てきた〝夢無人〟その一言に俺は深く絶望した。
――――〝夢無人〟には死ぬ以外の選択肢がない。
リンカの言葉がグルグルと頭の中を駆け廻る。呼吸が苦しくなり息が上がり、体は熱くなっていくのに頭は血の気が引き思考出来なくなっていく。
「真さん、落着いてください」
ふわっと俺の頭を優しく包み込む温かい腕。いつの間にか俺はホタルに頭を抱かれていた。何度も何度も俺の頭を撫でてくれる。そのたびに俺の体に鎖のように絡みついていた熱が解けて行く感じがした。
「真さん、紗姫さんは生きています」
「えっ!?」
「ホタルが言った事は本当よ。紗姫は生きてるわ」
「でも紗姫はさっき〝夢無人〟になったって」
「ええ確かになった。でもこの話の続きは後にしましょう。どうやら敵に見つかったみたいだから」
そう言って席を立つ、リンカ。
「俺達はどうしたらいい?」
リンカに投げかけたはずの言葉に答えたのはコウだった。
「ホタルちゃんをこっちに置いておくから大丈夫だよ。僕達は狩りを始めるから応援よろしく~」
コウが軽い調子で告げ入口に足を向ける。
「リンカちゃん行こうか」
二人は赴く戦場に迷いなく歩みを進める。
「さて二人の戦いをのんびり観戦しましょうか」
ホタルが中空に手を翳す。
すると、ホタルの手元にディスプレイが浮かび上がり先程の二人が映し出されていた。いつの間に移動したのか大通りを歩く二人は自然体で散歩しているようにしか見えない。
気軽に誤字脱字報告感想お送りください。




