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第3話

第3話

―銀の櫛―


アランが族長の家を後にしてから、もう空は明け方近くになっていた。

一方、フィーネはと言うと、自分の髪に挿してある銀の櫛に目を奪われ、

周りに何があるのかも解らず、ただ村を歩いていた。

「銀の櫛…。これが、私と民族を繋ぐと言うの?

何も思い出せない。何故なの…教えてよ…」

涙を流しながら、村の路地裏へ走りこむと、フィーネはうずくまり、

涙を道のアスファルトへと流し始めた。

記憶を無くしてからと言うもの、フィーネは気持ちが静まらなかった。

自分の両親はどこにいるのか、私はどこの民族なのか。

疑問は耐えず、フィーネ自身を慰める事もできず、反対に傷つけてしまった。

けれど、あの赤い月に誘われる事でアランと出会ってしまう。

そんな事、フィーネは予想もしていなかっただろう。

そんな、フィーネをよそにアランは何時もの様に村の仕事を手伝っていた。


「アランかい?もう、ここの仕事は良いよ。

今日はフィーネの元にいておやり。あの子、ここの路地裏でさっきまで、

泣いていたんだよ」

優しそうな笑顔をアランへ向ける人。

それは、この村の仕事をきりもりしている女性だ。

昨日、フィーネが泣いているのを見つけて、声をかけるのにもかけれなかった人だ。

「フィーネが泣いていたのですか。けれど、私などが行っても…」

「つべこべ言わず、フィーネを探しておやり。

あの子を見つけられるのはアラン、あんただけだよ。

私はあの子の気持ちも何も知らないからね」

アランの背中を押すようにそっと微笑むと、その女性はアランを送り出した。

「ったく、アランって本当に鈍いんだよねぇ。

フィーネの気持ちも察してやれないなんて…」

ぶつぶつと、その女性はアランを送り出したあとも独り言を呟いていた。


「フィーネが泣いていた?何故?

昨晩は族長の家で、あんなに元気そうにしていたのに」

アランはフィーネが泣いていた事を知ってかなり慌てているらしく、

いつもの余裕がない。

「フィーネ!!何処に居るのですか?」

路地裏にアランの声が響き渡る。

フィーネの姿、痕跡も何も残っていない。一体、フィーネはどこへ…?

「アランの声が聞こえる…。くすっ、私ってそんなに弱い女の子なのかな。

幻聴が聞こえるなんて…」

フィーネは、路地裏から海の見える海岸線へと徒歩を移していた。

アランはそれに気付く筈もなく、ずっと村の中を探しまわっていた。

「フィーネ!!!!どこにいるんだ??!!」

アランは村の隅々を探しまわったがフィーネは見つからなかった。

かなり疲れたらしく、アランは他の所へ移動してみる事にした。

「もう移動してしまったのか?

そうだ!海、フィーネは海が好きだって確か言っていた筈」

そう言うと、アランは海の海岸線へ足を向けた。

「フィーネ、居るのなら返事をして下さい」

アランの掠れかけた声が海辺に響く。

ここにも居ないのだろうか…。

アランの心はは絶望の淵へと立たされそうになっていた。

と、そこへ…

「アラン?こんな所で何してるの?」

肩で息をしているアランへフィーネが声をかける。

アランがびっくりしたように振り返ると、そこにフィーネがいた。

「フィーネ、そこに居たのですか…。

村の人から、あなたが泣いていたと聞いたので探していたのです」

いつもの様に笑顔を浮かべて話しかけるアラン。

けれど、フィーネにとってそれは嬉しいものでも悲しいものでも、

何にでも属する笑顔ではなかった。

「アラン、なぜあなたは私に手を差し伸べてくれるの?

私なんて、記憶のないただのそこら辺にいる女の子じゃない…。

今まで私に手を差し伸べてくれる人なんて居なかった。

あなたも興味だけで近づいてきたの?」

涙目で訴えながら、アランの肩までしかない身長でアランの胸のあたりを

叩きつづけるフィーネ。

そこにアランの手が伸びてきた。

「フィーネ、何に怯えているのです?何があなたをそんなにしてしまったのです?

私は興味本位で近づくような、そんな男ではないですよ」

いつもと同じ、その笑顔で微笑まれるとフィーネは何もできなくなる。

叩き続けていた手をそっと下ろすと、道へと腰を下ろした。

そうすると、フィーネは今まで自分に起きた事を話し始めた。


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