第一幕『私達には関係ない世界』
登場人物に自己心がなかったらどうなるか試したかったのです。
「彼女には心はないんですか?」
「多分ないね。」
「じゃあ彼女は何を楽しみに生きてるんですか。」
「何もないね。」
「それじゃあ悲しくないですか。」
「感情がなければ悲しみも感じないね。」
「彼女が生きている理由は?」
「それは教えられないね。」
-僕は何を聞かれても「ない」とするよ。人の人生なんて自分にはわからないし。
私は今日も少女の家を訪れた。家の周りには雑草が生い茂っている。そもそも彼女は『手入れ』というものを知らない。私もやる気にはならない。自分はただ命令に従うだけ。彼女が雑草を刈れと言うまでは絶対にすることは出来ない。
今日も夜が来た。彼女はこう言う。
『夕飯を食べろ。』
私はこうして夕飯を自分で調理し、食べる事が出来る。彼女の言うことは絶対。自分からは行動することは出来ない。
『私にも分けてくれ。』
もちろん私は彼女にディナーを分ける。例えメニューがゴキブリでも。彼女には感情はないから、何を食べても無反応。
『お風呂に行ってくる。』
これが一番心配だ。彼女はとりあえず風呂には入るが体も髪も洗わない。いわばお湯に浸かっているだけだ。私が洗ってやりたいがそれは出来ないし。彼女は洗うことを命令しない。私は動けない。
『寝るから帰って。』
私は帰る。帰ってもそのまま風呂に入ることも、座ることも、テレビを見ることも、寝ることも出来ない。ただ立っているだけだ。朝には大家さんが来て、
『ミキチャンノイエニイケバ?』という。棒読みで。そして僕は彼女の家に行く。
ずっとこの繰り返しだった。あの女が来るまでは。