0-4 ルイスのご機嫌①
武器屋の商人は無許可で武器を売っていた事がその後分かり、衛兵に突き出される事になった。
色々面倒になりそうだったので、その場にいた野次馬連中に後は任せて俺はその場を離れた。そして、港沿いまで逃れてきたのはいいのだが、
「………」
後ろから騎士候補生がぴったり後を着いてきている。
「………」
視線が痛い。なんかこう、背中がムズムズと………。
「あのさ、何か、用?」
視線に耐えきれなくなり、振り向き、騎士候補生と向き合う。
相変わらずフードで顔はよく見えない。
「………その剣」
すっと腰に差している刀、名無しを指さす。
「剣、ああコイツか」
腰から鞘ごと名無しを引き抜く。
「コイツは刀って言うんだ」
「カ…タナ?それはあの剣を切った」
「あんなナマクラ訳ないさ。って、君は【強い剣】を探して…ま、まさか」
「ああ」
声が近い。いつの間にか距離を詰められていた。
「その剣が欲しい」
フードから覗く綺麗な碧眼が俺を射抜いた。
◇◆◇◆◇◆◇
一角兎の入口に立つ。はあ………っとため息。これから起こる事を思うと気が重い。
ノックを一回。扉は勢いよく開く。
「お帰りなさいですー、おにいちゃん」
朝と同じく小っちゃい塊が突っ込んでくる。ルイスだ。
「もー、広場の鐘が鳴ったらお仕事は終えて早くお家に帰ってくるんです~。今日の夕食当番はおにいちゃんですが、私も手伝うです~。むふ~」
いつものように抱きついて甘えてくる。とても話しづらいが………。
「あの………ルイス、悪いが夕食の準備はもう少し遅れる」
ふえ?っと俺を見上げるルイス。
「悪いが、お客様だ」
分かる様に視線を横にずらす。それで俺の後ろで静かに立っている。騎士候補生に気が付いた。
「あ゛」
天使のような笑顔をから一転、悪魔でも見た様な嫌そう顔をする。
「12騎士団の騎士候補生がこんな北の果てに何のご用でしょうか」
今にも噛みつきそうな敵意を持って睨むルイス。さっきから物凄い力で掴まれて………すごく痛いです。ルイスさん。
「その男が持っている剣が欲しい」
「120万メシェ」
高っ!って言うか即答かよっ。
「ルイスっ!!」
さすがにこれには黙っていられない。ルイスを引き離し、腰の名無しをかばう様に身構える。
「………と、言いたいところですが、この刀はスバルの大切な物なのでお売りできません。さあ、回れ右して帰り下さい。またのご利用を」
「そうか………、なら仕方ない。依頼をお願いしたい」
「ギルドマスターの権限でお断りします。またのご利用をお待ちしておりません」
「………」
「………」
「………………」
「………………」
静かだ。静かな沈黙だが、二人の間でぶつかりあう殺気がなんとも痛い。
「ふっ、噂道理の毛嫌いだな。波打つ炎」
沈黙を破ったのは騎士候補生だった。腰辺りに手を伸ばし、蝋印で閉じられた一枚の羊皮紙を取り出す。
「12騎士団【中央】団長 ロイス・コールブランド直筆の依頼書だ」
獅子を形どった真紅の蝋印をパキっと割り、俺たちに見える様に広げて見せた。
「本日をもってノースドウッド在住、
一角兎
群狼
夜梟
の3組織は12騎士団と共同で北の封印地区【焔室の祭壇】の最深部探索、及び封印の強化を行う」
この内容にルイスは黙る。
「ついては、一角兎ギルドマスター、ルイス・フランベルジェ。我ら獅子王騎士団の先導。君は確かスバル……と言われていたな。君は私の護衛を依頼する」
「っっっっっ却下!!ですっ。おにいちゃんを護衛になんて絶対却下ですっ」
これにはさすがにルイスは黙らなかった。