0-2 異世界のお師匠様
石室から少し離れたログハウス。
入口の扉には一角兎のレリーフが飾らている。
これは、この世界にある12の組合内の一席を表している………らしい。
入口の前に立ち、すうっと深呼吸。扉を一回ノックする。
これから会うのは俺の命の恩人であり、お師匠様であり、このギルド、一角兎の組合長でもあり、
「はいはーい。おにいちゃんどうぞー」
扉が開くと同時に甘い香りと共に小っちゃい塊が突っ込んでくる。
「むふ~。おにいちゃんは暖かくてむふむふです~」
………どうやら、おにいちゃんみたいです。
◇◆◇◆◇◆◇
俺に抱き着いてむふむふしている女の子の名前はルイス・フランベルジェ。
艶やかな銀髪に白兎の毛皮のコートから覗く白く美しい肌。
時折、俺の表情を窺うように見つめる青い双眸。
黒の皮手袋をはめた両の腕は、俺より二回りも細いとは思えないほどの力でがっちりと掴んでいる。
「ルイス………、いえ、お師匠様」
お仕事中です。とルイスを引き離し咎める。
「ぶ~。スバルちゃんはマジメです」
がっくり項垂れた後、顔を上げた表情はお師匠様の顔つきだった。
ふわりと身を翻し、とてとてっと奥のカウンターに向かう。その後を俺も追う。
「はいはーい。さて今日のスバルちゃんの成果はどんな感じでしょうか~」
ルイスは、木製の回転椅子をくるりと回し俺に向き合うと、
両手をいっぱいに広げてちょだいとねだる。………なんとも可愛い。
「お師匠様。これが今回の成果です」
はっと、魅了状態から戻り、先ほど錬成した小っちゃいナイフ?をルイスに渡す。
ルイスはそれをつまみ上げ、じっと見る。
「ふむふむ、小さいけれど形の造り、現出度は文句なしですね。しかし、現段階では錬成に時間がかかりすぎですが、それは今後の修練でどうとでもなるでしょう。………まあ、スバルちゃんは【具現錬成】しか遣えませんが」
この世界には【魔法】と呼ばれる力が存在する。
その力を行使するが【魔法遣い(マホウツカイ)】と呼ばれるみたいだ。
魔法には幾つかの型があるみたいで、そのうちの一つがイメージを現実として創りだす【具現錬成】という魔法が、唯一俺が遣える魔法らしい。
「しかし、スバルちゃんの錬成するナイフは変わった形をしていますね」
「ナイフではなく刀なんですけどね…」
ナイフ。と言われるとさすがにがっくりくる。
小さいころからオヤジの工房で刀を打つ姿を見てきたおかげで、イメージは簡単にできるのだが………何度やっても小っちゃいナイフ?みたいな物ができてしまう。
ちなみに刀以外の【具現錬成】は残念な結果になってしまったのはまたの話にしたい。