第一話
鬱蒼と生い茂る新緑の木々、聖域と呼ばれるマファードの森。その中心部に、大なる湖あり。其の名をマニ湖といふ
其の水面、湖の底が見えるがごとく透明なり、柔らかき太陽の光を反射し、宝石のごとき美しさを湖面にたたえたり
其の湖の中心、湖の最も深き部分に、二つの影有り
水面に浮かびたる二つの影
片や、周囲の木々が小さく見えるほど巨大なりて、眼前のその他の影をただ一心に見つめたり
片や、その姿は他方と比べものにならぬほど小さけれど、その覇気、その気高き魂、もう一方のみならず、全てを圧倒せり
両者は何一つ言葉を発さず、ただ互いを見つめ続けたり
天上から光有り、両者を包み込みける
その様、この上神々しく、天が両者を祝福するがごとくなり
やがて両者はどちらともなく歩き出す。其の湖畔へと
そして歴史は紡がれる、不死なる王と、その傍らに常に在り続けた、一体の従者によって
「アヴァロン帝国記」序章
〜永遠の王と聖獣の出会い〜
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アギャ アギャ アギャ
「ん・・・」
目が覚める。体が重く感じる。
まだ眠い。昨日は割と早く寝た方だが、やっぱり朝はな。
目を開けることのないまま、ぼんやりとそんなとりとめの無いことを考える。
アギャ アギャ アギャ アギャ アギャ!
(あ〜、今日こそは図書館行って勉強・・・しないと)
未覚醒状態の頭でのんびりと考える。
(今日の目標は、本一冊にミクロとフラ語・・・。まあ5時間くらいかな。でも、もうちょっとだけ・・・)
そして、再びまどろみの中に沈もうとした瞬間、それは起こった。
アギャ〜〜〜!!!!!
ガブッ!
「いってぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
頭に鋭い痛みを感じ、飛び起きる。
目を開いて一番最初に見えたのは・・・白。
何か真っ白いものが顔の上に覆いかぶさっている。
「なんなんだ、一体」
そう声を出して言ってみるも、事態が全く把握できない。
相変わらず頭には鋭い痛みが続いているし、顔を上げても白しか見えない。
「ん〜?って、俺ベッドで寝てたはずだろ」
そう、彼が今背中に感じる感触は、正しく地面のそれ。家のベッドの柔らかい感触とは全く違うものだ。
とにもかくにも、頭が痛い。目が見えない。
目の前の白い何かに向かって右手を伸ばしてみる。
ふにっと柔らかい感触がした。
「お〜〜〜」
ふにふにふにふに。
何となく癖になる感触に思わず何度ももんでみる。
「アギャッ!」
「・・・ん?」
(何か・・・動物の鳴き声のようなものが聞こえたような。でも、なんだ?)
そして、また目の前に見える白い何かを、今度は両手で揉んでみる。
ふにふにふにふにふにふにふにふに。
「アギャギャ!」
先ほどから続いていた、頭を襲う鋭い痛みが弱くなり、頭を覆っていた重いものがとれる感じがする。
そして、目の前に現れたのは・・・
「ド、ドラゴン!?」
トカゲのような顔、その口元に見え隠れする鋭い牙、1対の翼、純白の体躯、そして、大きくてつぶらな瞳・・・
そう、それはどこからどう見ても、ファンタジーの世界等によく出てくる、ドラゴンだった。
ただし、サイズは自分の顔3つ分くらいしかない、チビドラゴンだった。
「アギャ〜」
そのつぶらなひとみでこちらの顔をのぞいてくる。
言葉なんか理解できようはずも無いが、なんとなく「ようやく起きたかこの野郎」と言われ、あきれているようだ。
だが、彼の精神状態は今それどころではない。
「は?ドラゴン?って、いや、ちょ、は、え〜???」
混乱している。それはもう、100人が見たら100人が「こいつテンパってんなー」と確信できるほど混乱している。
パニック状態の頭でドラゴンから目を外し、周りをきょろきょろと見回すと、そこは一面の木々。
樹齢数百年を超えているであろう大木たち、それに絡まるツタ、鬱蒼と生い茂る葉、植物。
全てが彼の理解を超えていた。
「待て。。。落ち着け、俺。状況を整理しろ。理性を取り戻せ。大丈夫、俺ならできる!」
若干変なテンションで己を鼓舞すると、彼は現状を理解しようと努めだす。
(そもそも自分は家で寝ていたはずだ。それが・・・頭を噛まれて、起きたと思ったら目の前にドラゴンがいて、おまけにここは森で)
「って、理解なんてできてたまるか!!!!」
そう自分にツッコむあたり、意外と余裕があるのかもしれない。
「え?どういうことだ?ここどこだ?つか、こいつ何だ?ドラゴン?んな馬鹿な。ぬいぐるみ?いや、でもあったかいし・・・」
「アギャッ!」
まるで、自分は生きているぞ、と主張するかのように一声鳴くと、目の前の純白のドラゴンは、彼のジャージの袖をくわえ、どこかに引っ張って行こうとする。
「え?何?ついてこい、みたいな感じ?いや、俺ちょっとまだ現状把握してないんだけど・・・いや、ちょっと待てって、おい!」
こちらの事情なんて気にせず、ぐいぐいと引っ張る力は体のサイズの割に驚くほど強く、寝間着であるジャージの袖が破れそうなほどだ。
「わかったわかった。ついてくから、そう引っ張るな。破れちまうだろ」
男がそういうと、まるでこちらの言葉がわかるかのように一言「アギャ」と鳴き、くわえていた袖を放した。
「か、賢いな、オイ・・・」
そして、ドラゴンについて歩いていくこと約20分(勿論、体感だが)
1人と1匹は、大きな湖のほとりに出た。
「うわ〜、なんだここ?きれいなとこだな」
そこは幻想的な空間だった。
水は透き通り、湖の底の底まで見通せそうなほどだ。
湖上は霧がかかっていて、まるで幻想世界にいるかのように神秘的な光景である。
その湖に見とれていると、彼をここまでつれてきたドラゴンが、湖の中に入って行く。
「お、おい。どこにいくんだ、よ・・・」
男が焦った声でそう話しかけるも、その声は次第に尻すぼみになっていく。
ドラゴンは、湖の中に入って行くのではなく、水の上を滑って行くかのように水上を歩き出したのだ。
そして、霧が次第に濃くなって行き、チビドラゴンの姿が見えなくなっていく。
そして、その姿が完全に見えなくなったとき
ピカッ
と、一際大きな光が湖上を貫き、それまで湖を覆っていた霧がどんどん晴れていく。
その霧が完全になくなると・・・
そこに姿を現したのは、自分の何倍、いや、何十倍も在ろうかという、純白のドラゴンだった。




