ー夫婦円満の秘訣? それは互いを思いやる事かしら ―過去の貴方なんていらない。レティシアの幸せ
夫は結婚当初から帰って来ない。
レティシアは、毎日毎日、夫であるハリウスを待ち続ける。
レティシア・バレド公爵令嬢は政略で、ハリウス・マーシャス公爵令息を婿に迎えた。
バレド公爵家の一人娘のレティシア。名門マーシャス公爵家の次男のハリウス。
両家の事業協力の為に、結ばれた婚約だ。
ハリウスの顔はとても美しい。
金髪に青い瞳の彼はモテた。
歳はレティシアと同じ20歳。
だから、結婚当初から、バレド公爵家に寄りつかず、遊び歩いていた。
バレド公爵家の方が、マーシャス公爵家より格下である。
マーシャス公爵家の方が名門で、事業も順調に行っている。
それに比べてバレド公爵家は事業が停滞していた。
だから、ハリウスを婿に貰って、同時に援助を受ける約束していたのだ。
彼はそれに胡坐をかいて、やりたい放題。
外で遊び歩いた。
結婚式は盛大に行われた。
金はマーシャス公爵家がほとんど負担してくれた。
大勢の貴族達が二人を祝福した。
外面だけは良いハリウス。
レティシアを横に並べて、
「皆、祝ってくれて有難う。この素晴らしい縁を私は喜んでいるよ」
そうにこやかに言われれば、レティシアも悪い気がしない。
婚約当時からハリウスは浮気ばかりしていた。
それでも、レティシアは許して来た。
家に援助を受け続ける為に。
婚約を結んだ事により、援助を受けられるようになり、大分、助かっているのだ。
ハリウスの父であるマーシャス公爵は、
「女遊びは男ならば、当然、あり得る事だ。大きな目で見てやってくれたまえ」
そう、言われてしまえばレティシアは黙らざるを得ない。
結婚式が終わって初夜を行おうとしても、ハリウスは外で遊んでいるのか帰って来なかった。
初夜なのよ。わたくしは貴方の妻になったのよ。
それなのに他の女性と?酷いわ。
心の中で悲しみの涙を流しても、レティシアは両親の前では明るい顔で。
「ハリウス様は夕べも帰ってきませんでしたわ。忙しいのでしょう。色々と」
両親はすまなそうに、
「申し訳ない。レティシア。我がバレド公爵家の為に我慢してくれ」
「そうよ。レティシア。我が公爵家はマーシャス公爵家の援助を受けて助かっているのだから」
レティシアはにこやかに、
「本当にそうですわね。わたくしは大丈夫よ」
心の中では、
ちっとも大丈夫じゃないわ。他の女性と遊び歩いて、家に戻って来ないなんて。
我がバレド公爵家の事を馬鹿にしているのかしら。
そうね。父は経営が下手だし‥‥‥だから公爵家が傾いてしまった。
わたくしがもっとしっかりしていれば。でも、わたくしはまだ経験不足。
商才も無いわ。
どうしたらいいの?どうしたら。
遊び歩く金を、ふらりと戻ってきたハリウスが請求してきた。
「私は婿なのだから、面倒を見るのは当然だろう」
レティシアはハリウスに、
「でも、我が公爵家は赤字で色々と大変なのですわ」
「もっと私の実家から援助を受ければいい。とりあえず、遊ぶ金をくれないか?でないと離婚してやる。困るのはそっちだろう」
そう言って金を持って行ってしまう。
かといって、援助を受ける金は決まっているので、これ以上、請求出来ないのだ。
ただでさえ、苦しい我が公爵家。
どうしたものかと困っていたら、人が訪ねてきた。
フードで顔を隠しているが、ハリウスに関して大事な話があるという。
レティシアは会ってみることにした。
「初めまして。レティシア様。私はべディウスと申します」
フードを取ったその男の顔に驚いた。ハリウスに似ているのだ。
美しい金の髪に青い瞳。
「貴方、わたくしの夫に似ていますわ。マーシャス公爵家の血筋の方かしら?」
「私は庶子です。マーシャス公爵の。私は公爵夫人に遠ざけられて、別の所で暮らしておりました。ハリウスとは同い年です。似ているでしょう?」
「ええ、そっくりだわ」
そう、似ている。母親は違っているはずなのに、この男、似ているのだ。
べディウスは、囁いた。
「私がハリウスになりましょう。寄り付かないんでしょう。調べさせて貰いましたよ。入れ替わっても解らない位、私は似ています」
「似ていますって本当に似ているわ」
「私はハリウスを研究してきました。この一年間。ずっとずっとずっと‥‥‥」
この男、ハリウスに成り代わる為に、一年間どころではないわ。ずっと陰から見ていたのね。
レティシアはべディウスと握手して、
「いいわ。貴方が今日からハリウスよ。よろしくお願いね」
べディウスはハリウスとして、公爵家に迎え入れられた。
両親には言わなかった。
両親は人が変わったように、真面目に働くようになったハリウスに。
「助かります。ハリウス様。貴方が心を入れ替えてくれて」
「本当に有難いわ」
父について、公爵家の事を学ぶべディウス。誰もハリウスと信じて疑わない。
父の駄目な点を逆に指摘してくる始末。少しずつ公爵家の事業も赤字が解消されてきた。
そんなべディウス対して、頼もしく思うレティシア。
そんな中、本物のハリウスが女を連れて戻って来た。
屋敷に入れないように使用人に言っておく。
「夫である私が帰ったぞ。中に入れるがいい」
「そうよ。ハリウス様が戻ったのよ。中に入れなさいっ」
二人がわぁわぁ騒ぐ。
だから、馬を飛ばして、あらかじめ頼んでおいた、ガタイのよい男性達に連絡を入れた。
男達は門の前でハリウスを別の馬車に押し込み、女を地に捨て置いて。
「偽物め。バレド公爵家が迷惑している」
「我らが連れて行き、正義の教育を」
「さぁ行くぞ」
「三日三晩じっくりとな」
その様子を窓から、べディウスと共にレティシアは見つめていた。
「嫌になってしまうわね。ハリウス様を騙るだなんて。あらかじめ、とある筋の方々に連絡しておいてよかったわ」
「これで安心して暮らせるな。本当に世の中、物騒になったものだ。私に成り代わろうだなんて」
二人でそう言って、顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
べディウスに抱き着いて、
「愛しているわ。ハリウス。貴方が夫でよかった」
「私も、愛しているよ。レティシア」
べディウスは本物のハリウスと同じ顔をしていながら、まるでハリウスと違ってとても優しかった。
レティシアは思う。
元々、遊び歩いていたハリウスは実家のマーシャス公爵家にも最近、寄り付かなかった。
厄介者を引き取ってくれた礼として、五年間はマーシャス公爵家から支援を受けられる。
べディウスはレティシアの耳元で囁いた。
「私はばれない自信がありますよ。これからも、そして先々も」
「貴方はわたくしの事を愛しているの?本当に?」
「ええ、貴方と私は共犯。でも心地よいではありませんか。あの男は変…辺境騎士団で地獄のような生活を。私はずっと憎んでいた。ただただ、正妻の子だからと言って、やりたい放題。私はどれだけ苦労したことか。母は心労の為、早くに亡くなった。これからも、レティシア。共にバレド公爵家の為に頑張って行こう」
大嫌いなハリウス様。でも、今は大好きよ。
わたくしのハリウス様は今の貴方だけ‥‥‥
昔の貴方は辺境騎士団で過ごして頂戴。
二度と、わたくしの前には現れないで。
さようなら。昔のハリウス様。
遊び歩いていたハリウス・バレド公爵令息は人が変わったように心を入れ替えたみたいだと人々は噂した。後に公爵になり、バレド公爵家の事業を発展させた。
彼は領地経営に専念するのだと、社交界の付き合いはレティシアに任せた。
レティシアは社交界で、夫人達に。
「マーシャス公爵家には感謝しております。ハリウス様という素敵な方を婿に紹介して下さった上、援助までして下さって。お陰で我が公爵家の事業は持ち直しましたわ。え?幸せかって。勿論、幸せよ。可愛い双子の娘も産まれて、夫は大喜びですわ。え?夫婦円満の秘訣?それは互いを思いやる事かしら」
と言って扇を手に夫人達と幸せそうに微笑んでいたと言われている。




