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孤児の私を救ってくれた“外交官”は、本当は帝国皇太子。 そのくせ溺愛してくるなんて……ヒドイです!  作者: 風谷 華


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第4.5話 カミーユ視点

一方その頃、

アクアリア医療ギルド長邸――

豪奢な絹のカーテンが揺れる、青い煌びやかな私室では。


カミーユが、鏡の前でゆっくりと座っていた。

銀のブラシを髪に滑らせるたび、

光が散って、彼女の青い髪が水面みたいに揺れる。


けれど、

その美しい姿とは裏腹に――

鏡に映る表情は、不気味なほど静かだった。


「……ふふ」

ブラシを止める。

唇の端だけを、妙に丁寧に持ち上げた。


泣き腫らしたように見せていた翡翠の瞳は、

いまは、底冷えするほど澄んだ光を宿していた。


机の上には、

古びた黒革の本――呪術書。

ページを指先でなぞる仕草は、

まるで恋人に触れるかのようだった。


「ねぇ……聞こえる?」

黒革の表面に、そっと頬を寄せる。

「今日ね。やっと“あの子”を舞台から降ろしたの」

うっとりと目を閉じる。


「リア……孤児院で拾われた、魔法も使えない、小動物みたいな子。

 あの子、最初は本当に扱いやすかったわ」


ページをめくるたび、

乾いた紙の音が、不気味に響く。


「ちょっと褒めてあげれば、子犬みたいに尻尾を振って……

 “親友だって言ってくれて嬉しいです”なんて、涙ぐむのよ?

 可笑しくて……たまらなかったわ」

カミーユは指で唇を押さえ、くすくすと笑う。

その笑いは高貴でも上品でもなく、

どこかひび割れた、不安定な音だった。


鏡に映った自分の頬を、そっと指でなぞる。

「今日の“泣き顔”、どうだったかしら。

 あれでもっとリアは“罪悪感”と“混乱”に溺れたはずよね」


鏡の中の“泣き顔”を再現するように、

ゆっくり、丁寧に目を潤ませて――

次の瞬間、ぱちん、と無表情に戻る。


「……まあ、本心では一滴も泣いてなんかないけれど」


机の上に置いていたガラス瓶を手に取る。

瓶の中には、赤黒い乾いた血のようなものが固まっている。

「これは“私の血液”。もちろん、呪いを仕込んだ特別品」

ガラス瓶を光にかざすと、

中身がまるで脈打つように、ゆらりと揺れた。


「触れた時、リアの指が少し震えていたわ。

 驚いた? 怖かった? ねぇ、どんな顔してたの?」


問いかけているのは、瓶なのか、呪いなのか、

それとも、“自分自身”なのか。

誰にも分からない。


ふいに、カミーユの唇が歪む。

「5年間……よく頑張ってくれたわ、リア。

 あなたの“献身”“信頼”“友情”。

 全部ぜーんぶ、計画通りに育ってくれて……

 本当に、便利だった」


「そして今日、あなたは“魂喰い病”を移した卑怯者。

 治癒師から見ても最低の裏切り者」

その口調は、まるで小説朗読。

ひとつひとつ、じっくり言葉を味わっている。

「……“孤児院上がりの薬師”には、お似合いの終わり方よね」


呪術書の最後のページを開く。

そこには、

“最終儀式:信頼する者を生贄に”

と書かれていた。

カミーユは人差し指でその文字をなぞる。

「生贄。……いい言葉よね」

「愛」「信頼」「感謝」

そういう綺麗なものを、一気に裏返して

“糧”にしてしまう。


喜悦が瞳に満ちた。


「次は……ゼクス」

名前を口にした瞬間、

彼女の声は少しだけ甘く、震えた。

「ゼクス……どうして私じゃなくて、リアを見るの?

 どうして私の魔法より、あの子の“薬の技術”なんかを評価するの?

 ねぇ……ねぇ、教えて……」


鏡の中のカミーユは微笑んでいるのに、

その笑みは壊れかけのガラス細工のように不安定だ。

「でも大丈夫。

 リアが舞台から消えた今、ぜーんぶ元通り」


呪術書をぱたんと閉じる。

「次の満月で……“儀式”は完成するわ」

翡翠の瞳に、静かな狂気が宿る。

「ゼクス……

 あなたは私のものになるの。

 絶対に、絶対に、絶対に」


呪術書を胸に抱きしめながら、

彼女はゆっくりと笑った。

その笑みは、

美しくて、

壊れていて、

そして――

底なしに黒かった。

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