第4話「追放と保護」
アクアリア評議会の裁定は、
驚くほどあっさりしていた。
「魂喰い病の疑いあり。
法律違反の可能性あり。
24時間以内に退去せよ。」
……いや、軽っ!?
人生変わる判断が、そんなテンションでいいの!?
でも誰もツッコまない。
だって、みんな“魂喰い病”の言葉に怯えているから。
「近寄るな!」
「息を吸うな!」
「魔法が使えない薬師のくせに……危険なものを……」
(いや、吸って!? 息は吸って!?
あと魔法は使えないけど、危険物じゃないから私!!)
心の中でツッコんでも、声は震えて出ない。
頭が真っ白で、
何が現実で何が悪夢なのか、分からなかった。
外に出た瞬間。
街のざわめきが耳を刺す。
「魂喰い病を隠してたとか……」
「カミーユ様に移した卑怯者だって……」
「やっぱり孤児院上がりは危険だ」
「治癒師でもないのに医療ギルドに入るから……」
(孤児院だから何?
薬師だから何?
治癒師じゃないと罪なの……?)
胸がぎゅうっと締めつけられた。
そんな時――
「リア姉ちゃん!!」
孤児院の小さな子たちが走ってきた。
「リア姉ちゃんは悪くないよ!!」
「ずっと助けてくれたのに……なんで追放なの!?」
「ぼくの咳、いつも治してくれたのに!」
「……う……」
子どもたちに抱きつかれる。
(ああ……私……子どもたちの前で……泣きたくないのに……)
でも。
ぽと、ぽと、と涙が落ちる。
「ごめんね……私……
カミーユを……病気にしちゃったのかもしれないの……」
違う。
分かってる。
でも、そう言うしかなかった。
子どもたちはただ首を振り続けた。
「リア姉ちゃん、嘘つかないもん!!」
「うぅ……」
心が、ぐしゃっと音を立てて潰れた気がした。
荷物をまとめる時間は、わずか一時間。
調合室に戻ると――
今までの努力の残骸だけが残っていた。
乾いた薬草。
メモだらけのノート。
夜通し研磨した器具たち。
そのすべてが、
“証拠捏造の道具”に変えられた。
(私……私の何が悪かったんだろう……?
カミーユは……親友じゃなかったの……?
私……薬師としても、人としても……終わり……?)
座り込んだまま動けなくなっていると――
「リア」
低い声がした。
振り向けば、
黒髪に灰色の瞳の特使――ゼクス。
「行くぞ」
「……え……?」
「ここに置いておくわけにはいかない。
お前は無実だ。俺が証明する」
「え……でも……私は……
法律を……破って……隔離義務も……」
「黙れ」
え、今、普通に黙れって言われた?
けれどその声は、氷のように冷たいのに、
どこか震えていた。
「お前が罪を犯した可能性はゼロだ。
俺は“真実視”で確認した」
「でも……カミーユが……あんな……
私に怯えてて……」
「カミーユは――
最初からお前を友達だと思っていなかった」
「…………え?」
ゼクスが、私の肩をぐっと掴む。
灰色の瞳が、まっすぐ私を見ていた。
「今は説明している時間がない。
とにかく、来い」
「で、でも……私……もう……何も……」
「……分かった」
ゼクスは静かに息を吐いた次の瞬間――
ぎゅーっと抱きしめられた。
え。
えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?
「お、お、お、おち、おち、おちつ……!」
声がひっくり返っているのに、
ゼクスはびくともしない。
「お前が俺を救ったように、
今度は俺が、お前を救う番だ」
「っ……」
胸の奥がじん、と熱くなる。
(あ……あれ……
私、さっきまで……
世界中から嫌われたと思ってたのに……)
ゼクスは私を離さず、
そのまま大使館の馬車に押し込んだ。
「待って……!
私……カミーユを……病気にしたかもしれないのに……」
「それも嘘だ」
「でも……カミーユは……泣いてて……」
ゼクスの声が低くなる。
「リア。
あれは“演技”だ」
「…………え?」
「真実は俺が暴く。
お前は、もう一人で抱え込むな」
馬車が動き出し、
アクアリアの街が遠ざかる。
人々の罵声。
子どもたちの涙。
カミーユの泣き顔。
すべてが胸に刺さったまま苦しいのに。
ゼクスの隣だけは、
なぜか少しだけ、温かかった。




