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孤児の私を救ってくれた“外交官”は、本当は帝国皇太子。 そのくせ溺愛してくるなんて……ヒドイです!  作者: 風谷 華


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第3話「崩壊の始まり」

連邦評議会主催の晩餐会。

アクアリアで一番格式高い、あの“絶対に庶民が足を踏み入れてはいけない場所”である。


……そんな場所に、なぜ私はいるのかと言えば。

「リアも来なさいよ。親友でしょ?」

――カミーユに言われたからである。

(断れないよねぇぇぇぇ!!)


庶民服しか持ってない私は、借り物のドレスに身を包み、会場の隅で小さくなっていた。

キラキラのシャンデリア。

煌びやかな貴族たち。

高級そうな料理。

(場違いにも程がある……!)


そんな緊張マックスの状態で、事件は起こった。

カミーユが――

ステージの中央で、突然崩れ落ちたのだ。

「きゃっ……!?」

「カミーユ様!?」「治癒師を呼べ!」

会場が騒然となる。


私は思わず駆け寄った。

「カミーユ!? しっかりして!」

彼女の肌は青白く、呼吸は浅い。

額に汗がにじんでいる。

(まさか……そんなにも体調悪かったの!?)

治癒師たちが魔法をかけるが、光は彼女の身体にはじかれた。

「……これは……まさか……」

「“魂喰い病”……?」


ざわっ、と会場が揺れる。

魂喰い病。

伝説の、不治の病。

医療ギルドの治癒師たちですら治せない“死の呪い”。


アクアリアでは

「発症したら即時申告・即隔離」

が法律で義務づけられている“国指定危険病”。

噂では――

人に移すと、自分は治る時もある。

人に移すためには、血液を飲ませればいい。

なんて残酷なデマまで流れている。

治す魔法も薬もない死の病。

その名が出ただけで、人々は一斉に後ずさった。


「囲め! 近づくな!」

「こっちに来るな!!」

「隔離箱を用意しろ!!」


「そんな……カミーユが……?」

私の震える声を聞いたかのように。

カミーユの翡翠の瞳が、ゆっくり、私のほうを向いた。

涙で濡れた、その瞳が訴えてくる。

「……リア……」

「えっ……?」

「どうして……? どうして……私に……病気を移したの……?」

「薬を作ってもらった時に、あなたの血液を入れていたのね」


――世界が止まった。


「……え?」

「嘘だろ……?」

「薬師のくせに……」

「やっぱり魔法が使えない下層は……」

ざわざわざわざわ。


(ま、待って。何言ってるの……?)


「隔離義務を無視したのか……?」

「自分が助かるために、カミーユ様に移したのでは……?」

「なんて卑劣な……っ!」


(いやいやいやいや!?

 私、病気じゃないし!?

 そもそも移せないし!?

 まず発症してないし!?)

言いたいけど、言葉にならない。


カミーユが涙を流しながら、か細く言う。

「私は……あなたを信じていたのに……

 まさか……そんな噂みたいなことを……」


「ちょ、ちょっと待って!?

 噂って、あれ!?

 “他人に移したら軽くなる”っていう、あれ!?

 そんなの、信じてるの!?」

でも、誰も私の声を聞いていない。


医療ギルドの上層部が叫ぶ。

「魂喰い病を隠した!? 法律違反だ!」

「人に移した疑いがある!!」

「危険すぎる!!」

(いやいやいやいや!!

 本気で言ってるの!? 証拠は!?)


「――リア・アーデル」

医師が記録を読み上げる。

「あなたは一年前、帝国特使殿を治療した際に、生命力を大きく消耗している。髪が白くなったのもその影響だろう」

(いや、それは確かにそうだけども!)


「その時に“魂喰い病”を潜伏感染していた可能性がある」

(ない! 絶対ない!!)

「さらに――」

医師が紙を持ち上げる。

「リア・アーデルの調合道具から、“魂喰い病の病原体”が検出された」

(はあああああああ!?)


会場中が一斉に、私を見る。

「嘘……でしょ?」

「孤児院出身の薬師なんて信用できるわけがない」

「カミーユ様を裏切ったのか……!」

「親友を病気にするなんて……!」


刺すような視線。

怒り。

軽蔑。

侮蔑。

胸がぎゅうっと締めつけられる。

(ち、違う……私……そんなこと……)

足が震える。

呼吸がうまくできない。


「リア」

その時。

低く、鋭い声が響いた。

ゼクスだった。

灰色の瞳が冷たく光る。

「この告発は――虚偽だ」

会場が一瞬で静まり返る。

「証拠があるのか?」

「俺の“真実視”がそう告げている。カミーユ嬢は――」


「帝国特使が我が国の内政に口を出す気か?」

評議会の議長が遮り、ゼクスを睨みつける。

その瞬間、空気が変わった。

「特使殿、ご退席を」


「……チッ」

ゼクスの眉がわずかに歪む。

私は微かに口を開いた。

「……私……本当に……何も……」

でも声は震えて、何も言えなかった。

(カミーユがそんな嘘をつくはずない……

 だって、カミーユは……私の……親友で……)


でも。

カミーユは、泣きながら顔を背けた。

「リア……あなたが怖い……」

「……リアが……私を……生贄にしたのね……」

「っ……」


その瞬間。

会場の視線は“同情”から“憎悪”に変わった。


カミーユの表情は完璧だった。

完璧すぎて……私は、言葉を失った。


「――リア・アーデル」

議長が宣言する。

「魂喰い病を移した罪により、アクアリアからの追放処分とする。24時間以内に退去せよ」

(…………え?)

音が遠ざかる。

景色が滲む。

誰かが笑い、誰かが罵り、誰かが哀れむ。

カミーユの瞳だけが、涙で揺れていた。


(あれ……?なんで……?)


私は――

ただ、親友を助けたかっただけなのに。

世界はあまりにも簡単に、

私を“悪”だと決めつけた。


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