表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤児の私を救ってくれた“外交官”は、本当は帝国皇太子。 そのくせ溺愛してくるなんて……ヒドイです!  作者: 風谷 華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/14

第10話「カミーユの罠」

 ブルースト家から回収した呪術書――

 そして、カミーユ直筆の狂気のメモ。

 それらすべてが本来は決定的なはずだった。

 ……はずだったのに。


 翌日、

 ガルゼイン大使館・応接室で、

 私はソファに腰を下ろしていたが、体がどんどん冷えていくのを感じた。

 呼吸は浅く、視界がぐらぐら揺れる。

(……こんなに……早く……)


 机の前で、ゼクスが呪術書を何度も読み返している。

 その手は冷静に見えるのに、指先が微かに震えているのが分かった。

(……ゼクス、焦ってる……?)


「……儀式が最終段階に入ったかもしれない。

 カミーユは自分の症状をごまかし、裏で呪いを進めていたようだ」

 低い声。

 でも奥底は荒れていた。


「ゼクス……なんか、胸が、苦しい……」

 私が言った瞬間、ゼクスの表情が一気に崩れた。

「リア!」

 彼の声には“恐怖”があった。

 冷静な外交官の顔が剥がれ落ち、必死な男の顔になる。


「横になれ。少しでも楽になる体勢を」

「でも……評議会に行かないと……」

「そんな必要はない。お前のほうが何倍も重要だ」

 言葉に迷いがない。

 だが――その手は私を支えながら、震えていた。

(……ゼクス……)


 そのとき、ドアが激しく叩かれた。

「ゼクス皇太子殿下!! 緊急事態です!!」

 大使館員が蒼白な顔で飛び込んでくる。

 “皇太子殿下”。

 その言葉が部屋に響いた瞬間、時間が止まった。


「……っ」

 ゼクスの肩が、ほんの僅かに揺れた。

 隠していた身分が暴かれたことを、痛いほど理解している表情。


 大使館員は続ける。

「ブルースト家が評議会へ正式に告発しました。

 “ゼクス皇太子がリア嬢と共に、アクアリアの混乱を狙っている”と!」


 その場の空気が凍った。

 私は苦しさの中で、ゼクスを見上げた。

「……皇太子……なんだね……?」

 彼の目が大きく見開かれた。

「リア……すまない。本当は――」

「ううん。なんとなく、思ってた。

 でも……今は……驚く余裕もないよ……」


 呼吸が苦しい。

 でも、少しだけ納得した気がした。

(……だから、あんなに立ち居振る舞いが綺麗で……どこか遠い人みたいで……)

 ゼクスは唇を噛みしめた。

「……俺の身分を隠していたせいで、お前を巻き込んでしまった」


 それは、“後悔”に近い声だった。

 外交官の理性ではなく。

 皇太子の冷静さでもなく。

 一人の男として、私を守れなかったことを悔やんでいるように聞こえた。


「いや……そんなこと……」

 声が震える。

(ゼクスが皇太子だからって……私には関係ないよ……

 私にとっては……ゼクスはゼクス……)

 でも言う前に、また胸が痛んだ。


「っ……ゼクス……息が……」

「リア!!」

 ゼクスが私の手を掴む。

 その手は温かいのに、握力が強すぎて震えている。

 ゼクスの瞳の奥で、何かが壊れそうになっているのが分かった。


「……どうすれば……」

 ゼクスが珍しく、言葉を詰まらせた。

(ゼクスが……“分からない”って言ってる……)

 それは、初めて見るゼクスの姿だった。


ーー

 一方、街では――

 孤児院の子どもたちが、必死に叫び続けていた。


「お願い! リア姉ちゃんを信じて!!」

「リア姉ちゃんは良い人なんだよ!」

「署名して! お願い!!」

 その姿に、街の噂は少しずつ揺らいでいっていた。


ーー

 しかしその頃、私はもう限界だった。

「ゼ、ゼクス……なんか……眠い……」

「眠るな!!」

 ゼクスの叫び。

 その声は震え、破れそうで、今にも泣き出しそうだった。

 そんなゼクスを見るのは、初めて。


「リア、頼む……お願いだ……俺を置いていくな……」

 灰色の瞳が揺れている。

 皇太子の威厳なんて跡形もない。

 ただ必死に私を繋ぎ止めようとする“男”の目。


(……ゼクス……そんな顔、しないで……)

 でも、もう意識が保てない。

「ぜ、ゼクス……ごめ……ん……ね……」


「リア!!!!!」

 ゼクスの絶叫が遠ざかる。


 ――その時、頭の奥にカミーユの声が響いた。

『ゼクス。あなたが私を愛してくれないなら――』

『あなたを殺すわ』

『あはは……ははは……!』


(……カミーユ……)


 その言葉を最後に、私は暗闇に沈んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ