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短編

追放モノ主人公(無能の極み)即死亡してしまった。

作者: かがりかい
掲載日:2025/10/20


 追放の朝、村の広場はいつもより幾分騒がしかった。というのも、今日は俺の「追放の日」にしては珍しく、空が真っ青で、風が強い。

 カケルは父から渡された紙切れ(赤い印が押してある)をボロボロの手袋のように握りしめ、誇らしげに見せびらかした。


「追放状って、なんだか立派だな!」


 カケルは照れ笑いをする。周囲の視線は相変わらず冷たい。追放の理由には簡潔にこう書かれていた。「無能の極みにつき、村追放」

 文字は丁寧だが内容に容赦ない。

 カケルは文字の半分しか読まず、極みだけを見て満足していた。

 この主人公カケルはとにかく無能である。ちなみに自分のことを一世一代の天才だと思い込んでいる節がある。


―――――――カケルの悪行一覧―――――――


『1』村の祭で聖なる灯火に「もう暗いから」と言って油を大量に足し、火柱を立てた。


『2』村の馬小屋の扉を開けて「自由にしてあげよう」と言いながら全頭を放牧させ、馬は村外へ逃亡


『3』魔法使いの訓練場で「実演だ!」と勝手に火魔術を試し、隣の見習いのひげを燃やした。


『4』養蜂家の巣箱を「観察しやすい位置に」と言って裏返しにし、蜂の逆襲で村内が大騒ぎ。


『5』村長宅で「紙って燃えるんだっけ?」と古文書の一部を燃やしてしまい、領地図の一部が消失。


『6』旅人に「道案内してあげる」と自信満々に言い、道を三回間違えて魔物に出会って旅人を生贄に食べさせようとした。


『7』村の井戸に「もっと栄養出るかな」と薬草を大量投入し、水を茶色に変色させ井戸が1週間使えなくなった。


『8』市場で「商売のコツ」と言いながら魚を冷やさずに売り、その日の夕方に食中毒騒ぎを起こす。


『9』古い封印石を囲っていた縄を切って封印を解き、魔獣王が出てきて国を滅ぼしかける。


『10』鍵を預かる「重要任務」を任され、旅の途中で地図と一緒に「安全な所」に置いたまま忘却。


『11』貧しい家族に食糧を渡すつもりが、袋を間違えて貴重な宝石が入った袋を渡してしまい、両親が泣く。


『12』村の鍵のかかった倉庫を「空いてるだろ」と判断して入り、中の薬草を全部匂いで判別しようとして保存法を台無しにする。


『13』村の境界に立つ巨木を「試しに昇るか」と登って降りられなくなり、救出で迷惑をかける。


―――――――――――――――――――――


 カケルの準備といえば、まずは朝ごはん。

 村民としての最後の食事だから、とパンを豪快に頬張り、出発前に鏡の前で決めポーズを三回取り、結局、出発したのは昼下がりであった。


 森に入ると、木々がささやき、葉が小さな拍手をしているようだった。実際は風のせいである。

 道すがら老人に出会う。老人は杖をつきながら諭した。


「この森には魔物がおるぞ」

 

 カケルは帽子の羽を直すことを優先する。


「へえ、魔物ってどんな味がしますかね?」


 カケルは真顔で尋ねた。

 老人は深いため息をついた。


「お前はもう口を利くな」


 老人はそう呟いて去ってしまった。


 森の奥深く、草むらがざわめき、やがて巨大な影がゆっくり立ち上がった。

 毛皮はもこもこ、牙は月の欠片のように白く光る。噂に聞く魔物グルグルシマリスレンターカ。昼寝の邪魔をされて機嫌が悪いらしい。


「ガァァ゛ーー」


 グルグルシマリスレンターカはカケルを見た瞬間、食糧を見るように涎を垂らしていた。

 グルグルシマリスレンターカ……長えな。ここからはグルちゃんで行く。

 グルちゃんは猛スピードでカケルとの間合いを詰めた。カケルは四股を踏んでいた。

 カケルはそのまま、首を綺麗に抉られ喰われた。悲しい結末だ。いや、あっけない結末だ。

 だが、最後にグルちゃんの昼ごはんになることでようやく役に立ったのかもしれない。


 カケルの最後の言葉は「へえ、魔物ってどんな味がしますかね?」だった。

 名言だ。いや違う……迷言だ。


 ――カケルの終わりの瞬間、カケルの笑顔はほんの少し安らかだったかもしれない。彼を忘れる人はいないだろう。

 なぜならば忘れたくても忘れられないからだ。


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