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第38話 実験、実験、実験 2

 アルフレードは、目の前にある腕輪の山から、エレナの魔力を帯びたものを一つ手に取り、腕に嵌めてみた。


(何となく……体が軽くなった気がする)


 ガラリと何かが変わったわけではない。

 だがアルフレードは、己を常に蝕んでいる呪いの熱が、僅かに静まったような感覚を覚えた。


 じっと腕輪を見つめている彼の様子を、エレナは研究自体に興味を抱いたからだと思い、説明を続けた。


「まだ短い間しか検証できていませんが、それでも、わかった事が三つあるんです」






 一つ、ラールの花が魔力を吸収する速度と量は、人によって異なること。



「エレナ様は一瞬で吸収が終わりましたが、私では2、3日かかりそうですね」


 実験中、屋敷にいる者の中でも魔力量が多めだったブルーノが、計測器を睨みながら言った。


 魔力量が多ければ早く、少なければ吸収も遅い。

 そして最終的に吸収する量も、時間がかかる程少なくなるらしい。


 店員が言っていた「一週間は腕輪を持って眠る」というのは、花に魔力が吸収され性質が変わるまでに必要な時間が、普通の魔力量の人間だと一週間は掛かるからだろうと推測できた。




 二つ、魔力をある量まで吸収すると、花が持つ魔力の性質が変化し、他の魔力を受け入れ

なくなるということ。



「駄目だね。私の魔力でも弾かれちまう」


 クララの魔力を帯びた花に魔力を跳ね返され、ヴェレニーチェが面白そうにニンマリと口角を上げて言った。


 誰かの魔力を帯び、性質が変わった花に、新たに他の誰かの魔力を吸収させることはできなかった。

 エレナやヴェレニーチェのような魔力が多い者が試しても同じで、花の性質は一度きりしか変化しなかった。

 




 三つ、吸収された魔力は、魔石とは違い、花からは取り出せないということ。



 エレナの魔力を吸収した花から、その魔力を取り出し使うことはできなかった。

 魔石は魔力の保管庫のような役割だが、ラールは花そのものが別の物に変わってしまったような感覚だ。

 

「吸収する量も本当に微量だし、取り出して使えないなら、この花を渡しても魔力譲渡法に違反したことにはならないな」


 ヴェレニーチェは、ほんのりと自分の魔力を帯びた腕輪を指でくるくると回した。


「まあ、そもそもかなりの実力がなけりゃ、こんな微量の魔力をはっきり感知することはできないだろうがね。何となく感じるものがあるんだろう。家族や恋人に贈るのも納得だね」


 ラールの腕輪が御守りとして根付いているのは、花の性質が変化すると、腕輪がその人の魔力を帯び、身につけていると存在を身近に感じられるからだろう、という結論だった。






 説明を終えると、甘やかに目を細めてアルフレードが言った。


「なるほど。面白い結果だね。それで、この腕輪はもちろん私が貰ってもいいんだよね?」


「え?」


 研究に思考が染まっていたエレナは、きょとんとした目でアルフレードを見つめ返す。


「……あ、はい。ヴェレニーチェ先生が資料として魔術塔に持ち帰る予定でしたが……ご希望なら、()()()はアルフレード様に──」


 すでに腕に嵌められている一つのことを言うエレナに、アルフレードは笑みを深めた。


「私が言っているのは、君の魔力が籠った腕輪──四つ全部という意味だよ」


「え!? 四つですか?」


「もちろんだよ。エレナは今研究の事しか頭にないようだけど、この腕輪が本来どういうものだったか、よく思い出してほしいな」


「それは、御守りとして家族や()()()()()──」


 そこまで言って、エレナはぼっと顔を赤くした。

 アルフレードは満足げな表情で、言い含めるように答え合わせをする。


「エレナ、婚約者は私だよね? 魔力譲渡に違反しないとしても、君の魔力を帯びたものを、他人に渡したいとは思わないな。それが本来、親密な人に贈る物だと言うなら、なおさらね」


 エレナが純粋に研究のために作った物だとわかっていても、アルフレードの独占欲は、腕輪を他人の手に渡すなんて許せるはずがない。


 周りから狭量だと思われたとしても、アルフレードにとってそこは譲れない部分だった。


「ね、いいよね? 私が貰っても」


 駄目押しとばかりに、圧を孕んだ優しい声音で尋ねると、エレナは顔を真っ赤にして小さく頷いた。




 


 それから暫く、調べた内容についてさらに話は弾んだ。


 目を輝かせて話すエレナが可愛くて仕方なく、アルフレードは目を甘やかに細めた。


「楽しく過ごしていたようで良かったよ。エレナの研究がやっと進みそうだね」


「そうなんです! 普通のラールでは魔力の吸収や性質の変化は起きないので、あとはどうして新月の時期に摘んだものだけそうなるのかが分かれば、薬草でない植物を薬草に変える道が見えそうなんです!」


 エレナが声を希望に跳ねさせると同時に、それまで部屋の端でラールを見比べながら蹲っていたヴェレニーチェが、突然大声を出して立ち上がった。


「あーーーーー! もう、駄目だ! 器具も素材も全く足りん!」


 頭をガシガシと掻きむしると、くるりとアルフレードの方へ向き直った。

 研究に没頭し、一人だけ徹夜を続けていたヴェレニーチェの顔にはクマが浮かび、目が据わっている。


「……あ? アルフレード、お前いたのか。私は帰る。ここで調べていても埒が空かん。領地中のラールをかき集めて、城に送りな。早急に」


 爛々と光る瞳でそう言うなり、ヴェレニーチェは転移魔術を発動させ、光の中に周辺に広げていたラールも巻き込み、姿を消した。

 

 膨大な魔力を消費する転移魔術を使ってまで、早く自分の研究室に帰りたかったのだろう。

 呆然とそれを見ていたエレナが、ハッと焦った表情になりアルフレードに頼み込んだ。


「あの……お願いです! 私が研究する分の花は、残しておいてほしいです!」


 必死なエレナの表情に、アルフレードは声を出して笑った。


「もちろんだよ。私には、エレナのお願いが一番なのだから」




 それから、エレナは時間も忘れる程に忙しい毎日を送った。

 サーリャの様子を見たり、妖精のことを調べたり、ラールの研究をしたりと、やることは尽きない。

 新しい竜舎も完成し、サーリャと卵の引っ越しも行った。




 そうして目まぐるしく過ごしているうちに、エレナはクララに言われるまで、大事なことをすっかり忘れていた。


「オルフィオ様の式典が……明日!?」


 エレナの部屋の机に、化粧道具をこれでもかと言う程ずらりと並べながら、クララがにこやかに「そうですよ」と答える。


 研究や竜のことで頭がいっぱいだったエレナは、式典用の礼儀作法の復習も、祝辞の練習も、ダンスの特訓だってしていない。


「アルフレード様にお任せしていれば、何も問題ありませんよ」


 ミアとアデットがドレスを確認しながらさらりと言ったが、狼狽しているエレナの耳には聞こえていない。


「ど……どうしよう」


 エレナはその夜、ベットに入っても灯りを消すことはなかった。


 せめて礼儀作法だけでも頭に叩き込むべく、必死で教本のページを捲り続け、そして無情にも、気付けば朝を迎えていた。


ここまで読んで頂きありがとうございます(^^)

ゆっくり進んでいくエレナとアルフレードがどうなるのか、呪いの真相と二人の未来を見守って下さると嬉しいです。

面白いと思って下さった方は、ぜひブクマ登録、ポイント評価宜しくお願いします!

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