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第33話 ヴェレニーチェの来訪

「相変わらず、派手なお方だな」


 屋敷の玄関の前。

 アルフレードが放った呟きに、出迎えのため隣に立っていたエレナは、思わず笑った。


 二人の目の前に停まったのは、金細工が煌めく六頭立ての豪奢な馬車。


 勿体ぶるように馬車の扉が開くと、宝石や魔石の装飾がジャラリと揺れるローブに身を包んだ、妖艶な見た目の華やかな女性──魔術師長ヴェレニーチェが降りてきた。


 ヴェレニーチェは黒髪を靡かせ優雅に歩み寄ると、満面の笑みでがばりとエレナに抱きついた。


「エレナ! 久しぶりだな。元気にしていたか?」


 久しぶりに再開した尊敬する師に、ぎゅうぎゅうと頬を擦り付けられ、エレナは破顔した。


「はい! 先生もお変わりなさそうで。お会いできて嬉しいです!」





 もうすぐ、エレナがアルジェントへ来て二度目の新月の日がやって来る。


 アルフレードが不在になる間、ヴェレニーチェが()()()()()屋敷に滞在することになったと聞き、エレナは師の来訪の日を心待ちにしていたのだった。


「やあ、アルフレード。()()()()()()()()()。今日から暫く世話になるよ」


 ヴェレニーチェが含みを持たせ目を細めると、エレナの後ろにいたアルフレードは、その顔に貴族的な笑みを貼り付けた。


「我が屋敷へようこそ。明日から三日間、私は不在となり申し訳ないのですが、どうぞごゆるりとお過ごし下さい」


「ああ、もちろんそうさせて貰うよ。なんせお前にはエレナとクララ──大事な教え子を二人も奪われているんだからね」


 ヴェレニーチェが揶揄うように笑うと、エレナは眉を下げて抗議した。


「ヴェレニーチェ先生、クララは父と陛下に頼まれて、私に付いて来てくれているんです。アルフレード様のせいではありません。私のことも、国のために受け入れて下さったお優しい方なんです。そのように仰らないで下さい」


 エレナの主張に、ヴェレニーチェはパチリと目を瞬かせると、豪快に笑った。


「あっはっはっは。お前達、まだ()()()()()なのか? くくく……エレナお前、その可愛らしい服は、アルフレードに贈られたものだろう?」


「はい。そうですけど……」


 何故ヴェレニーチェが突然笑い出したのか分からず、エレナは首を傾げた。


 この日の服も普段通り、アルフレードから贈られた、()()クローゼットから選んだものだ。


 着ていたのは、シンプルなシルエットのロングドレス。

 暖かくなって来たので、首元と袖がレースになっている涼やかで上品なデザインのものにした。

 エレナの瞳と同じ深い緑色のドレスは、銀と青の糸で繊細な花の刺繍が蔓を絡めるように全体に施されている。

 ラールの花に似たその柄が、エレナは気に入っていた。


 髪はゆるりと一つに編んだ髪をサイドに下ろし、アルフレードとお揃いの、シトリンが輝く青灰色の組み紐を編み込んである。


「ヴェレニーチェ様がいらっしゃるなら、今日は私がお支度を担当します!」と張り切っていたクララの力作だった。


「ふふ……()()()()()()()の色が良く似合っているよ。大切にされているようで安心した」


 エレナがほんのり顔を赤くしたのを見て、ヴェレニーチェは美しく口角を上げると、優しい声で言った。


「さあ。遥々ここまで来たんだ。仕事は置いておいて、まずは、ここに来てからのエレナの話を聞かせておくれ」


「ええ、もちろんです!」


 師からの嬉しい提案に、エレナはにっこり微笑んだ。








「では、ブルーノの研究成果によっては、今後流通する魔石の質が、大きく変わるかもしれないということなんですね」


 エレナは思わず声を弾ませた。


「そういうこと。ただ、いかんせん実用化するための統計数値が少なくてね。もう少し正確に検証するために、私も手伝う事にしたんだよ」


 久しぶりの師との再会という事で、エレナ、クララ、ヴェレニーチェの三人は応接室にて話に花を咲かせていた。


 ヴェレニーチェに説明されたブルーノの研究内容は、大変興味深いものだった。


 魔獣が死ぬ時に魔石ができるが、ブルーノはその質の違いに注目していたらしい。


 寿命で死ぬのか、討伐されて死ぬのか。

 病で死ぬか、傷を負って死ぬか。

 即死か否か。

 何の魔術で致命傷を負ったか、苦痛を感じていたか。


 ただ『魔石』とだけ認識されていたそれは、実はできる過程によって質が異なる。

 その事に気付いたブルーノは、かなり長い間、魔石ができる過程を調べ研究していたとの事だった。


「面白い研究ですね。今までただ魔獣を討伐して回収するだけでしたが、それが本当なら、討伐方法がかなり見直されそうです」


 クララが興味深げに言うと、ヴェレニーチェは少し困った表情で息を吐いた。


「まあ、元々は違う事を調べていたんだがね。ブルーノが探していたのは、()()()()()()()()()()()()()方法だから」


「魔石化させない……? 何故、そのような──」


「ヴェレニーチェ様」


 続きを聞こうとしたエレナの声は、ブルーノの強い呼びかけとノックの音によって掻き消された。


 部屋に入ると、開口一番、ブルーノがヴェレニーチェに不満を表した。


「まだ途中の研究ですから。()()()()()()()()()()()()()()


「ああ、ブルーノ。いいじゃないか。()()()()()()()()()()()()()()()


 悪びれた様子もないヴェレニーチェに、ブルーノは口角だけを上げ、拒否の笑みを浮かべる。

 その表情を見て、エレナは素直に謝罪した。


「研究内容を勝手に話されるって、いい気分じゃないわよね。ごめんないさい、ブルーノ」


「いえ、エレナ様が謝るような事では……。お気遣い頂き、ありがとうございます。ヴェレニーチェ様のお荷物が全て運び終わりましたので、お部屋のご確認をお願い致します」


 ブルーノが軽く礼をすると、ヴェレニーチェが勢いよく立ち上がった。


「わかった、向かおう。エレナ、それが終わったら、森へ案内してくれるかい? ブルーノの研究補助もそうだが、飛竜と卵の様子の確認も、オルフィオ殿下から頼まれていてね」


「もちろんです! ですが、先生も大変ですね。魔術師の管轄ではないのに、オルフィオ殿下から魔獣管理局の仕事も頼まれるなんて」


「ああ……まあ、いいのさ」


 ヴェレニーチェは目を細めると、窓から見える森に視線を向ける。


「私の管轄ではないが……()()()()()()()()


 そう言った美しいヴェレニーチェの横顔は、どこか悲しげに、遠くを見つめていた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

明日は15時頃に更新予定です。

続きも読んで頂けると嬉しいです。

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