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天才な彼女と根暗な僕

作者: takuto

四時間目の終了を告げるチャイムの音


それは高校生である僕達にとって、つかの間の休息である昼休み開始の号令。

そんなガヤガヤと机を移動させる音、楽しげなクラスメイト達の声を

僕は両耳でいつものように受け流しながら、誰にも気づかれることのなく

教室の外へと一人、出ていく。

僕の片手には弁当……ではなく、少し小さめのコンビニ袋が己の動きに合わせて揺れている。

早くも遅くもない、僕の中でのいつもの歩くスピード……

うるさいほど耳に響く女子生徒の笑い声、だらしなく制服を着崩して

大声で壁に寄り添いながら喋る男子生徒の姿。そんな人達が僕の視界に入っては消えていく。

一分ほど歩いたのだろうか……さっきまで聞こえていた生徒達の声は

僕の耳にやっと届く程度の小さなモノへと変わっていた。

これも僕の日常にとってはいつものこと。

僕は人混みを極端に嫌い、人との関わり……人付き合いが人一倍苦手で

いわゆる根暗な性格、それが僕だ。だから、いつも僕は昼休みの間


「うっ、まぶし」


ほとんど人の近づくことのない屋上へと向かい、静かな時間を過ごすのだ。

でも一人っきりって訳ではなく、今日もまた先客が一人……

彼女はいつもと変わらず、面白く無さそうな顔をしてそこにいた。


「どうして人間って奴は汚らしい色をしているのかしらね」


これは彼女の口癖。

常時テストで満点を取るほどの天才な彼女は、特殊な能力を持っていた。

共感覚……良く理屈は分からないが、ほんの一部の人間に見られる特殊な知覚現象。

彼女は共感覚者であり、人の姿や性格に色で識別する力が備わっているらしい。

そんな彼女にとって人間という物体は醜い色で見えるらしく


「特に政治家なんて見てられないわ。真っ黒すぎて表情も見えない……絶対、アイツは裏で

何かやってるわよ、間違いなくね」


こんな愚痴を洩らす事も少なくない。

ちなみにその政治家は、警察の捜査によって建築業界の癒着が判明し

数週間後、逮捕されたニュースが流れた際は少し驚いたことを思い出す。

たまたま静かに出来る場所を探して見つけた屋上……

そこで偶然、彼女と出会ってから約一年の月日が経つ。

今日もまた僕は、彼女の愚痴を聞きながら昼食の時間を過ごすのであった。


「そういえば昨日、同じクラスの男子に告白されたのよ」


今日の話題は珍しく学生らしい事柄のようだ。

こんな一風変わった能力を持つ天才な彼女であるが、結構もてるらしい。

まぁ、見た目は結構美形だし、少し近付きにくい所が逆にミステリアスさを

醸し出しているのかも知れないと勝手に予想する。


「で、なんて返事したんですか?」

「無理って一言」

「はっきり言いすぎですよ」

「しかし、しつこい奴でね。あまりにもしつこいから……触るな、この屑が! って言っちゃった」


相変わらずの毒舌ぶりだ。

会ったときから何も変わっていない物言い、口が悪いといえばそれまでだが

ある意味周りを気にせずストレートに生きてる証拠でもある。

根暗の僕にとっては不可能にもほどがある、彼女の生き方だった。


「でも、仕方ないわよ。だって告白した奴、名前は……えっと、忘れたけど」

「昨日のことなのに忘れたんですか?」

「人の揚げ足取らないで。まぁ、その告白してきた馬鹿なんだけど……色が凄くてね。久し振りに

あんな汚いの見たかも? 泥水みたいっていうか、ゴミみたいっていうか」

「あなたのその表現も結構酷いと思いますが」

「そうかしら? 少し言い過ぎた気もするけど、人間って多分君が思っているよりもずっと

醜い色をしてるものよ、私も含めてね」


僕に軽く笑いかけて、彼女は視線を空へと向けた。

今日は快晴。雲ひとつ無く、無限に続いていくような青々とした空が広がっている。

少し寒い風が僕の頬を撫でるが、もう季節は春。

木々が生い茂る校舎の周りには虫達の鳴き声も聞こえてきていた。


「ねぇ、なんで人ってこんなに醜いのかしら? 私はこんな能力を持ったが故に他人の気持ちが

なんとなく分かっちゃう。人は常に自分の欲求を満たす事に必死で、どす黒い色が渦巻いてる」

「でも、それは」

「人間として当たり前のこと。それは私も分かっているわよ、人ってそういう生き物だしね。

だけど、今の世界は……異常すぎる。あまりにも人は抑止する事を知らない、醜い存在に成り果ててしまった」


そう言い放つ彼女の姿は、普段と違い真剣で僕は視線を彼女から外す事など出来なかった。


「年を重ねていくごとに、嫌でも気付くわ。周りの人達から数少ない希望の色が消え失せていくのを……時代が時代だって言われれば、それまでなんだけどね」


また軽く彼女は僕へと笑いかける。

でも、その笑みはいつも見せる子供のような無邪気な笑顔じゃなくて

何かを受け止め、押さえつけているような悲痛な笑み。


「だから良く、人間なんて嫌いだ! って叫んでいるんですね」

「そうよ。でも、私だって根っから人間嫌いって訳でもないのよ? やっぱり私だって人間……

女の子だから恋って奴も経験してみたいしね」

「恋、ですか」


なんとも彼女らしくないと言えば失礼だが、似合わない言葉だ。

人間嫌いなのに、人間と恋をしてみたいだなんて


「だからずっと探していたのよ、どこかにいるであろう私のお眼鏡にかなう綺麗な心を持った

少女マンガに出てくるような王子様をね」

「王子様ですか。言っちゃ悪いですけど、そんな男性はどこにも」

「いる訳無いって君、思ったでしょう? でもいたのよね~、王子様って感じじゃないけど」


そんなことを口にする。

そして、彼女はこちらへと顔を近づけて


「君の色を教えてあげよっか?」

「僕の色って、そんなの皆と同じ」

「違うわ、君はね……白、ホワイトなのよ。君は真っ白なキャンバス」

「……へっ?」

「その真っ白なキャンバス、私色に染めてあげるわ」


ニタリと笑う彼女の笑みが、僕の視界を支配する。

平凡だった僕の日常が、この瞬間音を立てて壊れていくのを感じていた。

真っ白だった僕だけの世界に初めて……色が塗られていく、人との繋がりが生まれていく。

改めて言う、僕は根暗だ。人付き合いが苦手で、人との接触を極端に嫌がる。

だけど……


彼女との繋がりは案外、嫌じゃないかも知れない


そんな自分がそこにいたのだった。

やっと書けました。5分大祭、前祭作品です。

初めての参加で、この2500文字で纏めるのは本当に難しいと思い知りました。

内容も普段書くような内容じゃないし、ちゃんと書けてるかどうか不安だ。

ちょっとしたことでも感想頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。
[良い点] 共感覚という能力を持ちながらも、少女の口調が案外普通だったのが良かったです。 [一言] この後、二人はどのように過ごしているのか……気になります。
2013/06/19 21:31 退会済み
管理
[一言] はじめまして。同じく5分企画に参加している結城陸空と言います。 拝見したので感想を…。共感覚って聞いたことあります。というかあると医師から言われたことあります。 青い猫とか…理科は緑、社会…
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