PCU-01-04 メッセ攻撃 + お見合い②
親友、玲の反応は???
「……はぁ、また変な奴ばっか。出産組専用アプリ、地獄だなこりゃ」
アプリを閉じようとした瞬間、メッセ通知がピコンと鳴った。
《新着メッセージ:玲》
「……は? なんでお前」
玲とは中高一緒だった。
学校にいるときも、放課後もなんだかんだと連んで、いまもこうして気に掛けてくれる。
『お疲れ、婚活は順調? どうせ地雷踏んで帰ってきたんだろ。そろそろ俺とマッチしとけよ』
「は? 冗談キツいんだけど」
『冗談じゃねぇよ。俺なら、面倒な会話も、契約も、子育てプランも省略して、すぐ幸せにできるぞ。オプションで愛情多め』
達希が声を出して笑う。
「なんだその通販みたいな口説き文句」
『ほら、ピンクカプセルの期限、忘れてないよな? 3カ月なんて、あっという間だぞ。どうせなら俺が服用期限ギリギリで回収してやるよ』
「回収すんなよ! 言い方!!」
玲の顔が浮かび、妙に熱を帯びてくる。
『お前、選ぶ相手間違えんなよ。結局、俺が一番お前のこと知ってるだろ?』
……うるせぇな、知りすぎなんだよ
気づけば少し微笑んでしまい、メッセージ画面を閉じられなくなっていた。
……こいつ……本気で言ってんのか、からかってんのか、わかんねぇのが一番タチ悪い
画面の玲のアイコンが無邪気に笑っている。
数日後。
バイトの帰り道、ポケットのスマホが震えた。
『出産組優待パック・第二陣マッチング完了:5名』
画面を見た瞬間、達希は胃がキリキリと痛んだ。
前回のトラウマが即座に蘇る。
けれど、通知を無視する勇気もない。
……どうせまた、クセしかないヤツらだろ
そう毒づきながらも、アプリを開く。
案の定、並ぶ顔写真は第一陣よりもさらに濃いメンツだった。
── 一人目、金髪ピアスのパリピ男。
待ち合わせ場所は、まさかのクラブ。
音楽がガンガン鳴り響く中、彼はノリノリで踊っていた。
「達希くーん! 飲も飲も! 出産組はテンアゲでいこうぜ!」
「……話、できる?」
「考えるより感じろ〜! 人生パリピベイビー!」
即・退散。
──二人目、超絶マザコン。
会った瞬間から「《《ママ》》」「《《ママ》》」「《《ママ》》」。
食事中もママに逐一LINE報告。
「うちのママ、達希くんのプロフィール見て超気に入ってさ! 出産組は、ママみたいな理想の家庭像が大事だよね!」
「……無理だ。」
コーヒーも飲まずに店を出た。
──三人目、超年上、還暦目前。
年齢を二度見したが、会えば納得の落ち着きっぷり。
話題は年金と健康診断。
「君のことは息子のように思えるよ」
「こっち結婚前提の話なんですけど」
「年の差は、愛で埋まるさ!」
距離は、むしろ広がるばかりだった。
──四人目。また、あの顔。
カフェの席で待っていたのは、同じ高校だった童顔キラキラ系のクラスメイト。
「……お前、またかよ」
「二巡目まで一緒とか、運命? てか地獄?」
「だな……」
会話は弾まない。
ただ別れ際、彼がぽつりと漏らした。
「……俺、本気で出産組、選ばなきゃいけない理由、あんだよ。」
その一言が、妙に胸の奥にひっかかった。
──五人目、顔面偏差値S級モデル。
あまりの完璧さに、思わず声が漏れた。
「え、実在したの……?」
しかし、会話は冷めきっていた。
「僕は確率重視だよ。家族も恋愛も、統計的に選んで合理的に進めるべきだろ?」
達希は、心のどこかがポキッと折れる音を聞いた。
その夜、家に帰るなりスマホを放り投げ、布団に顔を埋めた。
「もう無理……」
しばらく天井を見つめていたところで、スマホがブルッと震える。
画面には玲からのメッセージ。
『今日も撃沈?』
すぐに指が動く。
『地雷しかいねぇ!!』
送ったあと、ベッドの上で寝転んだまま、大きく息を吐いた。
「……恋愛って、どこに落ちてんだよ」
視線が、机の上のピンクカプセルの箱へと向かう。
そしてカレンダーの“《《期限日》》”に目をやった。
「残り……2カ月と10日。」
無意識に天井を見上げ、つぶやく。
「好きなやつ、どこかにいませんかーーー!!」
夜空にむなしく響く、心の叫び。
ーー次回、お見合いで2回もマッチングしたあの人が?!