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宙がクラスメイトではないと知っているのは、華と三神だけーーー。


休み時間、各々が好きに行動し始める中、私と三神くんは人気のない階段下に足を運んでいた。


「何なんだよアイツ!何で見知らぬ奴がクラスメイトになってんだよ!?」


三神くんは壁に拳をぶつけながら声を荒らげる。

これからの事を考えると気分が重くなりそう。


当初の目的として生徒会長にあの宇宙人…宙を密告したとしても今は完全に人間に擬態しているので、密告した私が「ちょっと変わった子だな…」と精神的に大打撃を食らうこと間違いない。


そんな悪手でこれからの学校生活に影響をきたすくらいなら何もしない方がよっぽどマシだと思う。


「三神くん、アイツの事は私達の秘密にしておこう」


時折サイコパスじみた表情を見せる三神くんが、元の大型犬に戻る。


「でも、アイツ絶対宇宙人だろ?このままほっといて良いのかよ」

「私達が密告したところで誰も信じてくれないよ」

「そりゃ、そうだけど…」


おもちゃを取り上げられたゴールデンレトリバーのように、わかりやすくシュンとする三神くん。


「俺の家シェルターのバリアの丁度隅に建ってたんだよ。俺の部屋の窓から外を見たらバリアにスレスレだった」

「そうだったんだ…」


これは良かったと安易に慰めていいものだろうか?

自分の家がシェルターの圏内にあったとしても、よく顔を合わせるご近所さんは圏外にいるのだから。


想像だにしないSFが急に訪れるだけでも十分精神は参るというのに。


三神くんは私に自分のことを話してくれた。


「悲惨だった。その日から俺は自分の部屋のカーテンを閉じきっている。どうすることも出来ない自分が腹立たしくて仕方ないんだよ…」


目に涙を浮かべながら怒りに震える三神くんは、こんな時に申し訳ないけど薔薇のエフェクトがかかって見えた。


そんな姿に胸を打たれ、気づけば三神くんの背中をさすっていた。


「華…」

「無理しないで」


三神くんファンに見られたら相当めんどくさいことになりそうだが、今はそれどころじゃない。


そして頬を赤らめて、それがバレないように上をむく三神くんに気づくほど華は繊細な性格ではなかった。

他人に興味が無い訳では無い。単に鈍感なのである。


「華だって無理するなよ。お前だってアイツのこと怖いだろう」

「そりゃ…」


昨日のことが頭をよぎる。


自身の肌に滑らす線の細い手。


細身に見えてたがガッチリとした腕。


彼の体温、心拍数、匂い。


「華」


落ち着いた低い声で囁くように言われた名前。




「…」


赤面している。


目の前にいる彼女は、今にも顔から湯気が噴き出してしまいそうなほどに真っ赤に染まっていた。


その表情に思わず『可愛い』と言いそうになったが、彼女にそんな事を言ってもきっと引かれるだけだろう。


それよりも、この子にアイツのことを思い出させてしまったことを後悔している自分がいた。


自分をコントロールするのは得意な方だ。それなのに彼女のこの表情を前にして冷静で居られない。


それに彼女は、自身がどれほど美しく愛らしいのか、クラスメイトの複数名の男子共に恋心を抱かれていることに気づいていないのか?

性格も温厚で成績も悪くない。俺は彼女を好意的に見ていた。


そこに恋心こそ無かったが、彼女への評価が高かったのは言わずもがなだろう。






軽く彼女を抱き締める。


「え…?」

「可哀想になぁ〜、そりゃ怖いに決まってるよな」


制服のシャツの隙間から触手がニュルニュルとのびる。

彼女を胸に包み込み、バレないように視線を外すことに集中する。


俺の星は7800年ほど前から絶滅の危機に反して、子孫を残すためにその繁殖力はバケモノ並のものが遺伝子に組み込まれているのだ。


昨今はそれが問題となり、国により抑制剤が普及されるほどの事態となっている。


相手を簡単に好きになり、抱く感情も地球人の並では無い。

この触手のやりたい放題に、今すぐ相手をどうこうしてしまいたくなる。


何時間も、何日でも、何年でも…。


薬を服用し、自身をコントロールする事に慣れているはずなのに、どす黒い感情が渦巻いている。


薬が唯一効かなくなるのは、相手を本気で好きになってしまう時だけらしい。

そうでなければ、子孫を一人も残せなくなるからだ。


つまり、今俺はこの子に欲情している。


それも、並外れた感情で、狂いそうな程に。




はは…潜伏してこんな事は一度もなかったのにな。そもそも、誰にもこんな感情を抱いたことは無い。

それでも、上手くコントロールしなければならない。


彼女に触れていると、全身に電流が走るようにビリビリと体が震える。

唇を噛みしめ、回した腕には立てた爪がくい込み、たらりと血が流れていた。


クソっ、ほしいほしいほしい!この子がほしい!


そこまで彼女の事を良く知りもしないのに、本能だけで彼女を求めてしまうことに罪悪感を覚える。


こんな自分は気持ち悪いと自分自身を軽蔑した。


「三神くん?」


我に返り、何とか彼女から離れる。

それだけで二、三年会えなくなるような寂しい感情に襲われた。


これは…相当ヤバいな…。


今まで押さえつけていた何かが、本能が目覚めてしまった。


「もしかして、アイツに何かされたのか?」


思わず口走ってしまった。いや、聞かなくていいだろ。そんな事。

自身を上手くコントロール出来ていない事実も発覚し、腹が立ってくる。


華はというと顔を更に赤くし、その表情に得体もしれぬ感情が湧き上がる。


「いや…何もされてないよ」


いやどう見ても嘘だろ。


まて、それが嘘なら『何』されたんだ?


彼女にあんな事やこんな事を強要したのか…?は?殺すぞ。


「本当に何もされてないんだよな?」


彼女も思い出したくないだろう、これ以上聞くのは野暮だ。


「抱え込むのは体に良くないぞ、今のうちに吐き出しておいたらどうだ?」


あ〜〜~感情と言葉がマッチしねえ!!


「まあ…少し触られたくらいで」

「は?触られた?」


「もういいから!この話はここまでね!」


まてまて、触られたって何だ何処にどれだけ何分何秒触らせたんだ、俺以外の奴に触らせた閉じ込めておくべきか?


ハッと我にかえる。

ヤバいヤバいヤバい、これはかなり気持ちの悪い感情だぞ!?


まるでヤンデレじゃねぇか…。俺が…?一番似合わねえだろ!?


1人で自問自答していると、チャイムがなった。


「三神くんは気にしなくていいから」

私としては気にかけてくれるのは嬉しいけど、あまり好かれすぎると三神ファンが黙ってないだろう。

ここは同じ秘密を共有する仲として、当たり障りのないお付き合いをしていきたい。


「でも気を付けろよ。女の子何だからな」

口の中が血の味でいっぱいになってきたな…。


「ありがとう」


これからは極力一人にならないように心がけよう。

あと、何かめちゃくちゃ心配させちゃったみたいで何か悪いな…。



人の感情に無頓着な巴華は、三神のドロドロとした感情に勘づくことすらしていなかった…。

それはそれで可愛そうである。


そして放課後が訪れ、巴華は体育館の倉庫に閉じ込められていた。

普通に、自分のミスで。


「もう、ホントついてない…」


ガックリと項垂れても、物音一つしない。

スマホも教室に忘れてしまったので助けも呼べない。


仕方ないので誰かがここを開けるまで、ひたすら待つことにした。


そんな時、誰かが華の元に足を運んでいたが、今の華にはそんな事知る由もない。


今、また新たな問題が発生しようとしていたーーー。


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