2
どうにかして生徒会長から逃れたいーーー。
「あの…ここはシェルターの中ですし、宇宙人は二年間姿を見せてないワケですから…ちょっと良くわからないです」
秘技、ただただ困っている生徒の図。
生徒会長もおそらく自身の威圧的オーラに対する自覚はあるみたいで、自分より年下の生徒を困らせる状況は、まるでウサギをイジめるライオンのように感じられたのか目に見えてあたふたと焦り始めた。
嘘をつくのは心苦しいけど、私は目をうるうるさせるのをやめない。男を欺くためじゃない、生徒会長に納得してもらう為だけに私は目をうるうるさせる。
我に返ったら虚しくなりそうなので、私は深く考えないように極力努力した。
「いや、その、何か変わったことは無かったか?といったくらいの意味でだな…!」
効果は絶大のようだ。続けて畳み掛けよう。
「いえ、こちらこそなんの情報もなくて何だか申し訳ないです。私はシェルターの中に居たもので、宇宙人を一度も見ていなくて、その姿がどんなものかも知らないですし…」
これは本当。
嘘をつく時は本当の事を混ぜて話すとバレにくいというのは有名だ。
「謝らないでくれ。すまない、気を使わせてしまった」
「いえ、お忙しい中ご苦労さまです」
さて、私もそろそろ去ろうとしよう…。
そそくさとこの場を収めようとしたが、途端に両肩を生徒会長の強めの握力でガッと掴まれる。
お願い…そろそろ離して生徒会長様…。
「何かあったらすぐに報告してくれ。君たち生徒には危害が加わらないように、私が盾となるから」
本当にいい人だと思う。体をゆさゆさと揺さぶらなければなお良いのだけど…。
でも、こうまじまじと生徒会長を見たのは初めてだな。女の私から見ても生徒会長はかっこ良く目に映る。
…危ない危ない、男だったら危うく恋に落ちてたかもしれない。
「クソッ…忌々しい宇宙人め…見つけたらブチ(ピーーーー)してやる!」
…この人に宇宙人を匿ってると知られたら絶対に殺される……。死守しなければ…。
キラキラのエフェクトを撒き散らしながら、生徒会長は去っていった。出来ることなら二度と会いたくない人だ。おかげで手の中がさっきよりネバネバのネチョネチョで大変気持ちが悪い。
…というか、カタツムリって寄生虫とかいなかったっけ?
宇宙人だから大丈夫、と私は深く考えないように極力努力した……。
こちらの様子を伺う生徒も増えてきたし(中には生徒会長のファンからの殺意が感じるものも…)
このままだと大事になりそうなので、そそくさと人気のないところまで逃げおおせた。
注目されるのはあまり得意ではない。
出来ることなら、平凡に生きていきたい。
このカタツムリを隠すためにも、私はほとんどの人が寄り付かない講堂へ足を早めたーーー。
体育館ほどの広さの講堂には、軍事会議でも開かれるのかと思われるようなイカつい雰囲気がある。
大学の教室のように後ろの席にまで配慮されたひな壇のような、ズラッと固定された机と椅子はどうにも鉄のような素材をしていて、スカートの女子生徒達には太ももにあたる椅子が冷たすぎると大変不満を買っている。
設計ミスでしょ、これ。
しん、とした講堂の机に手のひらで温まったであろうソレを置く。
「俺を匿うのか?」
第二声がそれって…つくづく宇宙人は感情が無いことを実感する。そこはどの作品にもあるテンプレート通りのようだ。
もう少し『なぜ俺を匿った…』とか
『俺を匿うに至った理由は何だ?』とか言ってくれれば会話が広げやすいのだけれども、ソレは何を考えているのか全く読めない生き物だった。
私の周りには空気の読めない人(宇宙人も含めて)が多いような…それは中々に面倒くさい。
ちなみに、宇宙人を匿ったつもりは無い。
ただ、私が発見したとされると私がタダで済まないのが嫌なだけ。
下手したら反逆罪で死刑になってもおかしくない。
全く笑えない冗談である。
この生物に敵意は感じられないし、寄生したりするなら最初からやっていただろう。何となくこの生物は無害に見えた。
でも、あまり可愛くは無い…。エイリアンというのはなぜ気持ちの悪い見た目なのか?彼らから見て私達も気持ちの悪い見た目なのかもしれない…。
だから戦い合うのか?何か見た目が気持ち悪いから。
そんな理由で戦っていたらちょっと嫌だ…。
ところで、この講堂は実は立ち入り禁止なのだ。
人が来ない分このカタツムリを隠すにはもってこいの場所だろう。
「今はここに隠れていて、帰りに迎えに行くから」
「分かった」
私がカタツムリの前から一歩足を踏み出したその時だったーーー。
バンッ!!!
講堂の鉄のように重い扉はいとも簡単にとある人物に開かれた。
生徒会…長…。
ヤバい。
寄りによって前列の方に私達はい、る。
でも、アレ?なん、で…?
後ろから腰に回される腕は、明らかに人間の男性のもので、誰にも触れられた事の無い体の部位にその腕がかかっている…。
私は机の上で、後ろから抱きしめられる形で座っている…?
肌から肌へ伝わるはっきりとした体温に、ぶわっと内側から何かが発せられるような感覚に陥る。
今自分はどのような表情をしているのか?
そんな余計なことを考えてしまい、顔に熱がこもった。
いや、まって、ちょっとッ…
“生徒会長 達”は、たわいもない話をしながらゾロゾロと講堂に入ってくる。
生徒会メンバーは言わずと知れた猛者たちだ。癖の強い人達だけど、その実力は本物である。
舞台に上がり、各々がそれぞれの定位置につき、そのまま談笑は続けられる。
彼女達が、目の前に居るというのに、
目の前で繰り広げられている状況が理解できない。
私は前から三列目の机の上にいるというのに、
どうして私に誰も気づかないのーーー?