3 【浦島太郎】
自分で連れてきておいてこんな風に言うのもおかしな話だが彼はいつまでここに居るのだろう?
確かに彼は私の恩人だ、浜に打ち上げられ子供達にいじめられていた私を彼が助けて逃がしてくれた。この事を乙姫様に話すと恩返しのために彼を竜宮城へ招く事が出来た。
もちろん私は嬉しかった、私自身が彼に返せる恩など知れているからだ。
だが彼が来てひと月が経った、半年が経った、1年が経ったが彼は毎日美味いご飯や魚達の見事な踊りを楽しみ続けて帰る様子がない。
どれほどの時間が経ったのかわかってないのだろう。
そんな生活が続いている時ふと彼が家に帰りたいと言い出した、彼の家に残してきた母親が心配になったらしい。
ここに来た時と同じように帰りもまた私が送っていった、これで彼に会うのは最後だろう。
彼が竜宮城で過ごすようになってしばらく経った頃からずっと不思議に思ってきた事がある。
なぜ乙姫様は時間の違いを彼に教えなかったのだろう?竜宮城の時間と彼等の世界の時間は全く違う。
彼が住んでいた村に戻ったところで彼の家族や友人達はとっくに亡くなっており、もう彼の帰れる場所など無いことをなぜ教えなかったのだろう?
別れ際に渡した玉手箱もそうだ、あれを開ければ彼は一気に老いてしまう。
わざわざ「決して開けてはならない」と忠告をしつつもあれを土産として渡した彼女の真意はなんだったのだろうか?
今頃彼はたった1人で途方に暮れている頃だろう、もしかしたら玉手箱も開けてしまっているかもしれない。
恩を返すというのは本当に難しい、恩を仇で返すような結末になったこの1件は戒めとして私は覚えておかなければならないだろう。