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人生の迷路~10の後悔と出口への道~みっつめ

 慎一郎の人生には、深い後悔が刻まれていた。


 その最も重い後悔は、家族を疎かにしたことだった。


 時間は容赦なく流れ、その行為が信一郎の心の中に深い溝を刻みつけていく。


 ある日、息子が悩みを打ち明けに来た際、自己中心的な選択をした。


 仕事の山が目の前にあり、それにより息子の悩みは霞かすんで見えてしまった。


「お父さん、ちょっと話があるんだけど…」


 息子の声は小さく、それでも慎一郎はその声を軽視した。


 彼は仕事に没頭し、息子の頼みを軽んじてしまった。


 そして、もう一つの悲劇が信一郎を待ち受けていた。


 妻が病に倒れた時、適切な医療を受けさせるための手続きを怠ってしまった。


 妻の激しい咳と顔色の悪さにもかかわらず、それを見逃してしまった。


「慎一郎、体調がすぐれないの…」


 妻の訴えを聞きながらも、彼はただ頷き、何もしなかった。


 その結果、妻の病状は悪化し、適切な医療を受けられなかった。


 さらに、娘の成長も見過ごしてしまった。


 彼女が学校で問題を抱えているとき、そのサインを見逃してしまった。


「お父さん、学校でちょっと…」


 娘の言葉が、忙しさの中で消えてしまった。


 それらの瞬間は、記憶の中で奇妙なほど鮮明に残っていた。


 それぞれの瞬間が信一郎の心を苦しくし、彼の行動が家族を深く傷つけてしまった。


 その痛みは心の中で永遠に残り、人生を彩る三つ目の後悔となった。


「あの時、仕事よりも大輝の話を聞いていれば…」


 信一郎は、息子が抱えていた苦悩を思い返しては、自責の念に駆られた。


 大輝は、幼い頃から父親である自分を尊敬し、憧れていた。


 しかし、信一郎は仕事にかまけて、息子との時間を犠牲にしてしまった。


 大輝が本当に必要としていたのは、父親の愛情と理解だったのだ。


 ふと、大輝の幼い頃の笑顔が脳裏に浮かぶ。


 しかし、次の瞬間にはそれはぼんやりと霞んでしまい、思い出せない。


 タイムリープの代償は、確実に彼の記憶を蝕んでいた。


「そういえば、大輝が子供の頃、よく一緒に遊んだ公園のブランコ…あれは、どんな色だったっけ?」


 信一郎は、記憶の底を探るように呟いたが、答えは出てこなかった。

 


「美紀、ごめん…本当にごめん…」


 信一郎は、亡き妻の面影を思い浮かべ、涙を流した。


 美紀はいつも明るく、家族を支えてくれた。


 しかし、信一郎は彼女の体調の変化に気づかず、彼女が病に倒れるまで、何もしてあげられなかった。


 彼女の笑顔の裏に隠された苦しみを、彼は見抜けなかったのだ。


 美紀との楽しかった日々が走馬灯のように駆け巡る。


 しかし、その記憶はどれも断片的で、まるで色褪せた古い写真を見ているようだった。


 過去を変えれば変えるほど、彼自身の存在が薄れていくような不安感が、信一郎の心を締め付けた。


「美紀との初めてのデート…どこに行ったんだっけ? 何を食べたんだっけ? …思い出せない」


 信一郎は、頭を抱え、苦しそうに呻いた。


 しかし、奇跡が彼に訪れた。タイムリープの力によって、信一郎は過去の自分に戻り、自己中心的な選択を修正する機会を得た。


 だが、この奇跡には代償があった。


 過去に戻るたびに、記憶が薄れ、胸の奥底から拭い去れない罪悪感が彼を苛む。


 家族との大切な思い出が少しずつ色褪せていく恐怖と、それでも彼らを救いたいという切なる願いが、信一郎の心を引き裂きそうだった。


「もう、後戻りはできない。たとえ記憶が全て消えてしまっても、俺は家族を救うんだ!」


 信一郎は、決意を固め、過去へと向かう。


 一日の終わり、静かに暮れていく空を見上げながら、信一郎は息子の大輝からの突然の呼び出しに応えた。


「お父さん、ちょっと話があるんだけど…」


 彼の声はか細く、少し震えていた。


 その瞬間、信一郎は何かが違うことを感じ取った。


 普段の明るく元気な大輝からは想像もつかないほどの、不安と戸惑いに満ちた声だった。


 しかし、信一郎はただ頷くだけでなく、大輝の言葉に耳を傾け、心から話を聞いた。


「大輝、お父さんがここにいるよ。何でも話してごらん」と、慎一郎はゆっくりと語りかけた。


 大輝の瞳は濡れていたが、その中には父への信頼と安堵が宿っていた。


 大輝からの告白は、思春期特有の悩みだった。


 学校での人間関係、進学に対するプレッシャー、自身の将来に対する不確実性。


 それらは、成長過程で直面する問題であり、親である信一郎にとっても見過ごすことのできない重要な問題だった。


 大輝は、父親が仕事ばかりで自分に無関心だと思っていた。


 しかし、信一郎が真剣に話を聞いてくれたことで、彼は自分の気持ちを素直に打ち明けられるようになった。


 そして、信一郎の温かい言葉と励ましによって、彼は自信を取り戻し、前向きに未来へと進んでいく決意を固めた。


 信一郎は息子に対して、自身の経験や知識をもとに、最善のアドバイスをした。


「大輝、学校での悩みは、誰にでもあることだよ。友達との関係で悩んだり、将来のことで不安になったりするのは、当たり前のことなんだ。でも、一人で抱え込まないで、いつでもお父さんに話してごらん。お父さんは、いつでも大輝の味方だよ」


 信一郎は、大輝の肩を抱き寄せ、優しく語りかけた。


 しかし、それ以上に重要だったのは、大輝の話を真剣に聞き、理解し、受け入れることだった。


 その夜、父と息子の絆はさらに深まり、信一郎は大輝の成長とともに、自身もまた親として成長した。



 そして、妻が病に倒れた時も、適切な医療を受けさせるために全力を尽くした。


「慎一郎、体調がすぐれないの…」と美紀が言ったとき、彼はただ頷くだけでなく、彼女の言葉に耳を傾け、その背後にある真意を理解しようとした。


「美紀、無理しないで。ゆっくり休んでね」


 信一郎は、美紀の額に手を当て、優しく声をかけた。


 美紀は、夫の温かい手に触れ、安堵の表情を浮かべた。


「ありがとう、慎一郎。あなたがいてくれて、本当に良かった」


 すぐに信頼できる医者に連絡を取り、美紀の症状を詳しく伝え、医者の専門的な意見を仰ぎつつ、美紀が必要とする医療を受けられるように手配した。


 それは、適切な診察と治療、そして必要に応じた看護の手配を含むものだった。


 美紀が病に倒れた際、慎一郎は美紀の手を握り、彼女の痛みと怖さを共有しようとした。


「美紀、一緒に乗り越えよう。君がいないと僕は生きていけない」と、信一郎はしっかりと美紀の手を握りしめた。


 美紀の目には涙が溢れていたが、その中には夫への深い愛情と感謝が溢れていた。


 美紀は、自分の病気が夫に負担をかけていることを申し訳なく思っていた。


 しかし、信一郎の献身的な看病と励ましによって、彼女は生きる希望を取り戻し、病と闘う勇気を得た。


 そして、二人は共に困難を乗り越え、夫婦としての絆をさらに深めていった。


 信一郎は美紀のために、最善を尽くした。


 安心して治療を受けられるように、そして早く健康を取り戻せるように、彼は全力を尽くした。


「美紀、今日は調子はどうだい?」


 信一郎は、美紀のために朝食を用意し、ベッドサイドに運んだ。


 美紀は、夫の作った朝食を見て、笑顔を見せた。


「ありがとう、慎一郎。とっても美味しそうだわ」


 二人は、他愛のない話をして笑い合い、穏やかな時間を過ごした。



 娘の花音が学校で問題を抱えていると知った時、ただ頷くだけではなく、彼女の言葉に熱心に耳を傾け、その言葉の裏に隠された本当の意味を探り出そうとした。


「お父さん、学校でちょっと…」と花音が言ったその瞬間から、娘のために全力を尽くすことを決意した。


 すぐに学校に連絡を取り、花音の状況を詳しく聞き、学校で遭遇している問題や困難について、具体的な情報を得るために、教師やカウンセラーと協力した。


 そして、花音が必要とする支援を受けられるように、適切な手配を行った。


 それは、学習支援や心理的サポート、さらには学校生活全般における改善策を含むものだった。


 しかし、それだけではなく、信一郎は花音の心にも寄り添った。


「花音、お父さんがついているから、怖くないよね?」と優しく囁き、花音の小さな手を取った。


 花音の瞳は輝いていた。


 その瞳は、父への絶対の信頼と愛情を示していた。


 タイムリープによって信一郎の人生は大きく変わった。


 自分の行動が家族にどれほど影響を与えるかを理解し、それによって自己中心的な行動を改め、家族を最優先することを決定した。


 信一郎の行動の変化は、家族にも大きな影響を与えた。


 大輝は、父親の愛情と理解を感じ、自信を持って自分の道を歩み始めた。


 美紀は、夫の献身的な支えによって病を克服し、再び笑顔を取り戻した。


 花音もまた、父親の愛情に包まれ、学校生活を楽しめるようになった。


 信一郎が過去を変えたことで、未来もまた変化した。


 大輝は、自信に満ち溢れた若者に成長し、海外で活躍する起業家となった。


 美紀は、健康を取り戻し、地域社会に貢献するボランティア活動に積極的に参加するようになった。


 花音は、芸術の才能を開花させ、海外で個展を開くほどの画家になった。


 信一郎は、家族の幸せそうな姿を見て、タイムリープの代償を払ってでも過去を変えた価値があったと心から感じていた。


 その決意の結果、家族全員が再び一緒に過ごす普通の日常が戻った。


 食卓を囲む家族。


 父である慎一郎が自慢の料理を振る舞い、美紀が温かい笑顔でそれを見守り、大輝と花音が楽しそうに話した。


「お父さん、この間教えてもらったレシピで作ったんだけど、どうかな?」


 花音が、得意げに手料理をテーブルに並べた。


 信一郎は一口食べると、「美味しい! 花音、料理の腕を上げたね!」と笑顔で褒めた。


 大輝も「うん、美味しい! お母さんの味に似てる!」と嬉しそうに言った。


 美紀は、そんな家族の姿を見て、目を細めて微笑んだ。


「そういえば、大輝、今度海外出張なんだってね。お土産、楽しみにしてるよ!」


 信一郎が言うと、大輝は「うん! 面白いものを見つけてくるよ。お父さんとお母さんにも、喜んでもらえるようなやつをね」と元気よく答えた。


「お父さん、今日は私が食器洗いするね。お母さん、ゆっくり休んでて」


 花音が立ち上がり、エプロンをつけた。


 それはただの食事の時間ではなく、家族が再び絆を深める貴重な時間だった。


「家族こそが最も大切な宝物だ。それを守るためなら、どんな困難も乗り越えられる」


 信一郎のこの決意が、人生をより豊かで、より意味のあるものに変えていった。


 これこそが、信一郎の人生を大きく変えたタイムリープの力であり、彼の家族への深い愛情と絆を象徴していた。


 しかし、幸せな時間は永遠には続かない。


 タイムリープの代償として、信一郎の記憶はさらに薄れ始めていた。


 家族との楽しかった思い出、妻の笑顔、子供たちの笑い声…それらが少しずつ彼の手からこぼれ落ちていく。


 それでも、信一郎は後悔していなかった。


 彼は、家族の幸せのために、自分の記憶を犠牲にすることを選んだのだ。


 そして、いつか訪れるであろう最後のタイムリープの時、彼は心からこう言うだろう。


「ありがとう、愛する家族。君たちのおかげで、僕は本当に幸せだった」と。

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