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人生の迷路~10の後悔と出口への道~ひとつめ

 深い呼吸をした。空気は肺を満たし、それと同時に降り積もる記憶が心を重くする。


 石川慎一郎はその長い人生の終わりに立っていた。


 99歳、余命はあとわずか10日。


 医者から宣告された数字は、彼にとっての刻限(こくげん)として脳裏に刻み込まれた。


 彼は窓の外を見つめ、過去の風景が目の前に甦る。


 今は亡き妻との初キス、戦場での生き残りの奇跡、子供の誕生と育成。


 しかし、その光り輝く瞬間と同じ数だけ、後悔もまた彼の魂を暗く染めていた。


 99年間、彼は十の大きな後悔を抱えて生きてきた。


 そして、それらは脳裏を過ぎるたびに彼の心をちくちくと痛めつけていた。


 信一郎の一つ目の後悔は、若い頃に壊した友情だった。


 大学時代、最も信頼していた友人と一緒にビジネスを起こすための夢を共有していた。


 友人の名は高島康介、抜群の身長に端正な顔立ち、抱腹絶倒(ほうふくぜっとう)のユーモアに溢れる性格で、誰もが憧れる存在だった。


 学食のカレーの匂い、教室から聞こえる教授の熱弁、そして康介の弾けるような笑い声。


 そんな彼が考えたのは、当時としては革新的なオンライン書店のビジネスモデル。


 しかし、浅ましい嫉妬心が彼らの関係を引き裂いた。


 慎一郎は康介のアイデアを盗んで自ら立ち上げ、それが原因で友達は遠ざかっていった。


「なんだよ、それ! 面白すぎるだろ!」


 康介は目を輝かせ、楽しそうに笑った。


 しかし、その笑顔の裏で、信一郎は嫉妬の炎を燃やし始めていた。


 あの頃の信一郎には、友人の革新的なアイデアが自分のものにはなりえないという劣等感があった。


 それが心を曇らせ、運命を変えてしまった。


 それから、信一郎は数々の成功を収めたが、その成功はいつも空虚に感じていた。


 心にぽっかりと開いた穴は、何をしても埋まらなかった。


「あの時、康介の言葉を信じていれば…」


 信一郎は、一人寂しくパソコンの画面を見つめながら、何度もそう呟いた。


 康介は、オンライン書店というアイデアが成功する可能性を誰よりも信じていた。


 しかし、信一郎はその言葉を信じられず、自分だけの力で成功を掴もうとした。


 その結果、彼は友人を失い、深い孤独の中に取り残された。


 成功は彼に富と名声をもたらしたが、心の平安は得られなかった。


「もしもあの時、素直に康介と喜べたら...。俺たちは、最高のビジネスパートナーになれたかもしれないのに」


 そう呟くと、信一郎は自嘲気味に笑った。


 時は流れ、彼は老い、世界も変わった。


 そして信一郎は、死の床についた今、タイムリープの不思議な力に目覚めた。


 しかし、この力は万能ではなかった。


 彼に残されたタイムリープのチャンスは、彼の人生の大きな節目である10回。


 そして、一度過去を変えると、未来に予期せぬ影響が出る可能性があった。


 信一郎は、この限られたチャンスを最大限に活かすために、慎重に過去を選択しなければならない。


 彼の精神は若き日の自分の中に戻り、華やかで情熱的な時代に再び足を踏み入れた。


 謎めいた光の糸が信一郎の意志を縫い合わせ、時空を逆行する旅が始まった。


 今度こそ過ちを正し、友人との友情を取り戻すために行動を起こす。


 学び舎の緑豊かなキャンパスで、慎一郎は再び康介との再会を果たした。


 彼は康介の誠実な瞳を見つめ直し、心からの謝罪をした。


「康介、あの時は本当にごめん。君から盗ったアイデアで成功を収めたけど、心の中はいつも空っぽだった。君との友情を取り戻したい」


 初めての会談では、康介の顔は怒りに満ちていたが、信一郎の心からの謝罪により、次第にその怒りは和らいだ。


 信一郎の謝罪が、時間を超えて繋がった友情の絆を再び感じさせたのだ。


 康介は、信一郎の謝罪を受け入れるかどうか、葛藤していた。


 彼は、信一郎の成功を心から喜ぶ気持ちと、裏切られたことへの怒りが入り混じっていた。


 しかし、信一郎の誠実な態度と、変わろうとする強い意志を感じ、彼は再び信一郎を信じることにした。


 新たなビジネスを始めるため、慎一郎は自身の過去の過ちを正す決意をした。


 彼は自分の欲望を抑え、康介のアイデアを尊重した。


 そして、自分が間違っていたことを認め、康介に対して謝罪した。


 さらに、新たなスキルと知識を得るために努力を重ねた。


 これは過去の自分を克服し、新たなスタートを切るための必要なステップだった。


 これらの努力は容易なものではなかったが、慎一郎は困難を乗り越え、康介との友情を取り戻し、新たなビジネスを立ち上げた。


 この経験を通じて、彼は自身の成長を実感し、過去の自分を克服することができた。


 そして二人は共にビジネスを築き上げていった。


 その成功は、以前のものとは比較にならないほどに甘美で、心躍るものだった。


「おい、信ちゃん! 見てみろよ、今日の売上!」


 康介が興奮気味にパソコン画面を見せる。


 そこには、昨日までの記録を大幅に更新する数字が並んでいた。


「やったな、康介! これも、お前のアイデアのおかげだよ」


 信一郎は心から喜び、康介とハイタッチを交わした。


 彼らは夜通し話をし、お互いのことを深く理解し、信頼を再構築した。


 慎一郎の心の中の後悔が、温かい信頼に変わっていくのを感じた。



 ある日、彼らは街角のカフェで紅茶を飲みながら、長い沈黙の後に、互いに向かって同時に言葉を口にした。


「本当に、ありがとう!」


 それは二人にとって、最も美しい言葉だった。


 心の底からの感謝の気持ちであり、長い間心を苛さいなんでいた後悔を癒す薬でもあった。


 慎一郎は再び現実の世界に戻ってきた。


 彼は窓の外を見つめると、遠い過去に感謝の気持ちを送る。


 一つ目の後悔は、ついに昇華されたのだ。


 しかし、彼の長い人生にはまだ九つの後悔が残されていた。


 二つ目の後悔は、初対面のUFOから逃げ出し、その膨大な可能性を放棄したこと。


 これは信一郎が心から望む修復の次のステップであり、再び時間を遡る準備が整ったところだった。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


ぜひ『ブックマーク』を登録して、お読みいただけたら幸いです。


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