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鈴木家でお家デート


「ただいま〜」

「お帰り〜」

「ワン!」

「おぉ〜よしよし」


すみれさんの家に来た。

早速例のサモエドが熱くお出迎えしてくれている。


「へっへっへっ」


撫でられたそうな目でこちらを見ている。


「…よしよし」

「クゥーン」

「早速気に入られたみたいだね」

「ええ…ふふ」

「すみれ〜帰ってきたなら服と弁当箱

出しなさいって、あらその子…」


壮年の女性が出てきた。

柔和そうでいかにも専業主婦といったように

エプロンを身につけている。


「こ、こんにちは…」

「お友達?」

「ううん、前に言った、私の彼女の払除霊美ちゃん」

「あら〜彼女さんが来るなら先に行ってよ〜」

「ごめんごめん、突発的に決まったから」

「本当にもうこの子ったら、ごめんね〜

うちの子こんなだから、迷惑とかかけてない?」

「いえ、こちらの方こそご迷惑を…」

「いいってお母さん!

霊美ちゃん二階行こ、チップも」

「ウン!」

「帰ったなら手洗いうがいしなさいよ〜」

「はいはーい」

「はいは一回!」



「ごめんね〜うるさい母親で」

「いいえ、気にしないわ」


あの朗らかな母親の元で、

すみれさんが確かにいい人間に

育ったというのがわかるものがあった。

部屋を見渡す。

女の子らしさと趣味を両立した内装。


「へっへっへっ」


あと犬の毛。


「ウクレレをやっていたの?」

「昔ちょっとだけね、

ていうか一発でウクレレってわかったのすごいね、

他の子はギターって言ったりするし」

「大きさと弦の本数で何となくね」

「やっぱり霊美ちゃんって物知りだよね」

「そうかしら?知らないことも多いわよ」

「知らないことを知ってる方がすごいんでしょ?

ほらあれ…」

「無知の知ね」

「そうそれ!」

『ガチャ』

「ジュースとお菓子持ってきたわよ〜」

「ちょっとノックしてよー」

「はいはい」

「はいは一回!」

「は〜い」

『パタン』

「もう…」

「ふふっ」

「笑わないでよ〜」

「いえ、その…微笑ましくって」

「傍から見たらそうかもね〜この〜」

「ワフワフッ」

「…よしよし」

「キャイーン」


家に帰れば挨拶する人がいて、犬もいて、

ジュースも飲めて、お菓子を食べられて、

家族と軽口が言える。

理想的な家族だ。

とても羨ましい。


「飲まないの?」

「あ、ええ、飲ませていただくわ」


恐る恐る飲む。


「あ、リンゴの味…なのかしら?」

「え?そりゃ…リンゴジュースだから、うん。

って、飲んだことないの!?」

「ええ、お恥ずかしながら…」

「それってやっぱり、家?」

「そうよ…」

「はえ〜ほんとに厳しいご家庭…」

「言ってしまえば、そうね」

「じゃあさ、やっぱり門限とかも厳しいの?」

「ええ、九時には絶対に帰るようにと

言われているわ」

「高校生が九時かぁ〜、通学時間はどれくらい?」

「大体三十分ほどね」

「三十分…ここまで来るのに十五分だとすると…」


何やら数え始めた。


「霊美ちゃん、

霊美ちゃんがよかったらでいいんだけどさ、

放課後空いてる時はウチに来ない?

「え?」


限りなく意外な提案。


「ええと、それは…どうして?」

「あっ別に下心とかはないよ!?

ただ、聞く限りだと霊美ちゃんの実家より

ここの方が羽を伸ばせるじゃないかって…」

「それは…」


そうなのだが。


「流石にご迷惑じゃないかしら?」

「あ、うーん、お母さんに聞いてみるね」


階段を駆け下り、駆け上ってきた。


「二日に一回くらいのペースなら全然いいって!」

「なら…」


行きたいのに、声に出して言えない。


「決まりだね!」


意図を汲み取ってくれた。


「キャイン!」


「このお姉ちゃんとまた遊べるぞ〜よかったな〜」


「へっへっへっ」


リンゴジュースをまた一口飲む。

そして犬を撫でる。

この幸せが約束されていることを考えると、

心が沸き立つ。


「あ、漫画読む?」

「あ、漫画…」


先程から気になってはいたが、

ここまでしてもらって厚かましいので

自分から読みたいとは言い出せなかった。


「どれ読む?結構揃ってるよ」


棚の前に立ち吟味する。


「これを…」


少女漫画的な表紙の漫画を手に取る。


「おー、いいよそれ、全巻揃ってるよ」

「では…」


漫画を読むなんて何時ぶりだろう。


「あ、スマホ貸して」

「ええ、でもどうして?」

「時間を気にしないためにね、

その時なったら私が教えるから、

好きなだけ漫画読んでいいよ」

「ありがとう、そうさせてもらうわ」



「ふぅ…」


数冊を読み終わり、感嘆にため息を着く。


「どうする?まだ余裕はあるよ」

「ええそうね…

キリもいいしここら辺で帰らせてもらうわ」

「うん、そうしなよ」


荷物を纏めて立つ。


「あ、コロコロする?」


金槌のような形状の何かを差し出される。


「ええ…」


使い方が分からない。


「外側がテープになってるから、

それを服に当てて犬の毛を取るの」

「はあ…」

『コロコロ』

「…」

『コロコロ』

「…ふふ」

「意外と楽しいでしょ」

「ええ」


粗方取り終わった。


「そしたら一枚剥がして

また使えるようになりますと」

『ベリっ』

「こんな感じ」

「教えてくれてありがとう」

「いいのいいの、送ってくよ」

「それは流石に…」

「恋人を心配するのは、だめ?」


下から上目遣いで覗いてくる。

意図しているかは分からないが、

この目で嘆願されるとどうも

否定することができない。


「お願いするわ…」

「えへへ」



駅前。


「すみれさん、今日はありがとう」

「お礼を言われることの程じゃないよ…あ」


すみれさんは辺りを見回した。

まるで人通りを気にするかのように。

そしてタイミングを見計らって腕を首に回してきた。


『ちゅ』

「えへへ」

「…!?」


顔が赤面するのがわかる。

周りの誰にも見られてはいないようだ。


「またね」

「…ええ」


恥ずかしそうに去っていった。

とんでもないことをしでかしてくれた。

今日一杯は頭の中が一杯になってしまうじゃないか。

彼女が彼女で本当によかった、



帰宅する。


「あっごめんなさい」


服を交換する人とご飯を持ってくる人が

部屋の前で待っていた。

彼らは何も話さない。

急いで着替えて服を渡し、料理を受け取る。

いつもより遅い時間に帰ったので、料理は冷たい。

電子レンジでチンする。

やはりこれは、異常なのだろう。



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