気合を入れる
土曜日。
事前の打ち合わせ通り依頼人の
二人より先にテーマパークに入場。
「はえー」
中学の校外学習でも行ったことのある地元の
テーマパークだけど、
見ない間に活気づいて人で溢れかえっている。
「こんなに人多かったっけ?」
「さあ⋯なんせ初めて来たものだから」
「初めてなの!?」
「ええ」
「小中の校外学習は?」
「山奥の古刹を巡りに⋯そういう学校だったから」
霊美ちゃんが遠い目をしている。
「よしよし」
頭を撫でたかったが、
髪は乱せないので肩を撫でた。
「うふふ」
改めて霊美ちゃんの格好を見る。
雰囲気はやはり落ち着いているものの、
テーマパークに溶けこむために
いつもより可愛らしい格好になっている。
それは前に一緒にショッピングモールで買った
黄色いワンピースで、
見る度に嬉しさが込み上げてくる。
そして何より少しだけど化粧が施されていて、
少しの分地の良さが際立ち
見続けるだけでキュンとしてくる。
「霊美ちゃん⋯」
彼女の耳元に顔を寄せる。
「最高に可愛くて綺麗だよ」
「っ!」
霊美ちゃんの肩がピクンと跳ねて仰け反る。
「ちょっと⋯」
頬が赤らみ、目が逸れて他所向きの流し目になる。
「まだ、早いわよ⋯」
「⋯うん」
手を繋ぎながら、近くのベンチに座った。
恋人繋ぎで、私がベンチに手の甲をつけ、
霊美ちゃんの手の甲が晒されている。
『つー』
霊美ちゃんの手の甲に浮き出た骨や血管を、
指でなぞる。
「⋯」
『チョイチョイ』
二本の指先でくすぐる。
「っ⋯」
お互い決して何も言わない。
でもちょっとだけ、
声を出させてみたい気持ちもある。
「ん!」
「あ」
手の甲の向きを反対にされた。
下心を察されたかもしれない。
霊美ちゃんは優しくて、何もしてこない。
ここだけ緩やかに時間が流れている気がする。
なんかもう、依頼とかどうでもよくなってきた。
『ピロン』
いい雰囲気を破るように、
メッセージアプリの通知音が鳴る。
「佐倉さんからだ、もうここに着くって」
「仕方ないわね」
霊美ちゃんも同じことを思ってくれてたみたいだ。
細かい作戦はこう。
まず普通にテーマパークを楽しんで、
楽しく過ごす。
佐倉が休憩と称してベンチに休み、
私たちは気づかれず傍に着く。
そして除霊開始。
最初に立てた作戦から
すぐ想像できた分かりやすい詳細。
いける気しかしない。
「もうすぐゲート出るって」
「いたわ」
手を繋いで入場するカップル達の中に、
対称的な二人が混じっている。
横に並んでいるのを見てみると、
佐倉の方がやや背が高く大柄で、
桐谷はやや小柄なのがわかる。
佐倉はイメージ通りのゆるふわなファッションで、
作戦を知らされていたか心配になるくらい
少し歩きにくそうな格好をしている。
あるいはベンチに座る口実を
分かりやすく得るためなのかな。
対して何も知らない桐谷の方が、
カジュアルで歩きやすい格好をしている。
「見えるかしら」
「うん」
左肩にはっきりと、黒いもやが乗っかっている。
桐谷が先導して歩き出した。
「よし、行こう」
「ええ」




