同調同情どうしよう
「ご注文はどうなされますかー」
「パスタのミートソースと⋯
ハンバーグとご飯のセット」
「和食のAセットと⋯サイドメニューのおうどん、
温かいので」
「チキン南蛮と唐揚げ定食二つずつ、
あとドリンクバー三人分で」
「かしこまりました、ご注文の料理を繰り返します、───────以上でよろしかったでしょうか?」
「はい」
「かしこまりました、失礼します」
「今日ほど財布の紐が緩い日はないで、
ありがたくお食べ。
もちろん依頼料には含めてへんで」
「ご相伴にあずかります」
「ありがとうこざいます」
幽霊から生還した反動からか、
皆生気を補うように料理を注文した。
それも山中の奢りで。
霊美ちゃんの計らいで
元からお金が浮いていたとはいえ、
結構な大盤振る舞いだ。
「ん?どしたん?私の顔になんかついてる?」
「あ、いえいえ。
⋯特に何でもない質問なんですけど」
「うん」
「山中さんって、ご兄弟はいるんですか?」
「いるよ、下だけなんやけど、中一の弟、小五の妹、
小三の妹、小一の弟、年長さんの弟の五人」
思ったよりいた。
それはやはり、あのOLの幽霊と重なる。
「君らは?」
「私は一人っ子です」
「⋯一人っ子です」
霊美ちゃんの今の間は、
麗奈さんを勘定に入れるか迷ったのだろうか。
「少子化が深刻やなー。
ええでー弟妹っていうのは。可愛くて仕方がないよ」
「それでその⋯ご両親は?」
「おるよ、両方。ただ共働きの薄給で、
いつも家におらんで
朝早く仕事に行って夜遅くに帰ってくる。
だから下の子らの世話は基本私」
「そう⋯だったんですか」
OLの幽霊と同調?した時に見えたあの光景、
温かく家族に囲まれていた。
もし同調という言葉が正しいのなら。
「どしたん?話聞こか?」
「その⋯言っても
信じては貰えないかもしれないんですが」
「ええのええの、私も元々はそっち側やったし」
「分かりました。実は除霊をしている時、
件の幽霊と同調?みたいな現象に遭ったんです」
「ほほう⋯」
山中が心当たりあるといった顔をした。
「その時に見た光景は、
家に帰ったら家族が待っていて、
温かく一緒に食事するような⋯言葉が変ですけど、
そういうのが見えたんです。
察するに、あの幽霊の生前の思い入れなんでしょう」
「うん⋯うん、そういう事ね。私もそれ見たわ。
状況が似すぎてて、
てっきり私のこと夢で見てるんかと思ったわ」
「一人っ子の私でさえも
意識が持っていかれましたからね。
山中さんだからこそ、今回の被害に至るまで
強く惹かれたということなんでしょう」
「なるほどなあ⋯」
「山中様と同じ境遇の人が、
同じ被害に遭う前に対処できて僥倖でした」
「そやねー、
今どき私みたいなのはそこら辺におるやろうし」
あまり多くはいて欲しくは無いな。
「その⋯山中さんは
バイトをしてらっしゃましたよね?」
霊美ちゃんが訊く。
「うん、スーパーのレジ」
「それほど生活が困窮しているんですか?」
中々に深いところを。
「うーん、実際そういう訳じゃないねんな。
私がバイトやらんでも、
食べ物には困らんやろうし。
でも、ホントに食べ物に困らんってだけやから、
それ以外は⋯うーんって感じ。
やから、私がバイトして、
カレーに鶏肉入れられるようにしたり、
服をお下がりだけじゃなくてしたりしたいのね」
「そう⋯だったんですか」
割と家柄のいいお嬢様で、
衣食住の自由はなかったが
困窮もなかった霊美ちゃんには、新鮮な話だろうか。
「⋯私は今まで衣食住に
困ったことはありませんでしたし、
稼いだお金の使い道も生活に
多少彩りを加えるくらいのものです」
なんだか悪い予感がしてきた。
「り、立派なことやと思うで?」
「でもやはり、依頼料を全額、
山中様に返還したいと思います」
予感が当たった。
霊美ちゃんはピン札二枚を新しい茶封筒に入れて、
山中に差し出した。
「ちょい待って待って!
まだそもそも依頼料払ってへんで!」
「ああっそうでした」
「霊美ちゃん、い、一旦落ち着こ?深呼吸深呼吸」
「ええ、そうね⋯スーハースーハー」
落ち着いてくれたかな。
「ふう⋯では、
今回の依頼料の支払いはなしでお願いします」
「うーん⋯」
「いやいや、なんで私がお願いされて
渡すお金減らすねん。普通逆やない?」
「それでも、私は依頼料の二万円を、
山中様に有意義に
使ってもらえればと考えております」
「いや元々持ってきたお金の三分の一で
済むところやったんやし、
理由も聞かずにお金渡してくれた
パパとママに申し訳ないわ」
山中はお父さんお母さん派ではなく
パパママ派だったか、意外だ。
じゃなくて。
「霊美ちゃん大丈夫?体調悪い?」
「体調は悪くないわ。
むしろ人を助けられて清々しい気分よ。
それを無償で成し遂げられたとなれば、殊更よ」
「志は立派だけど⋯うーん、立派ならいいのかな?」
「待ちーな、鈴木ちゃんはほら、
幽霊になんか取り憑かれたりしたんやろ?
私が申し訳なさに二万円ほど
依頼料にプラスするやん?
その分の上乗せをチャラにするってことじゃ
あかんかな?」
「なるほど⋯
確かにそれなら減額にもなっているかもしれません」
「せやろ?やったらこの話はここでお終い。
最初に決めた通りのお金のやり取りしよ」
「分かりました」
依頼料を最初は断って最終的には受け取る、
というのは創作で見たことあるが、
断るのは建前や謙遜で受け取ることが
前提のものが多い。
霊美ちゃんは本気で受け取らないように
していたから、やはり高潔で立派だ。
「お待たせしました〜」
ウェイトレスがワゴンで大量の料理を運んできた。
「さあ話はここまで、食べるで食べるで〜」
「「いただきます」」




