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待ち受ける



「今どこ…」


何か忘れ物でもしちゃったかな。


『近くの駅前にいるよ』

『ならすぐに向かうわ』


カバンや体を探っても、

何か忘れたような記憶は無い。

何かの渡し忘れかな。


「すみれさん!」

「わあ霊美ちゃん」


走りながらやってきた。

相当急ぎの用みたいだ。


「どうしたの?」


「いえ…すみれさんが

電車に乗る前に間に合えばと思って」

「それは…うん、何か忘れ物でもしちゃった?」

「いいえ、予定が変わったの」

「そうなの?」

「夕飯、わたしが食べてくると思ったみたいで

用意されてなかったの。だから…」

「一緒に食べる?」

「ぜひ!」


ウッキウキで来てくれてこっちも嬉しくなる。


「私も晩御飯なかったから

外で食べようと思ってたの」

「そう?ならそこに連れて行ってもらおうかしら」

「駅跨ぐけどいい?」

「構わないわ」



すみれさんの家の最寄り駅から

二駅ほど離れた駅のショッピングモール。

その五階のレストラン街にある、

オムライス専門店。


「ここだよ」

「わあ…お洒落な内装ね」

「でしょ?」


シックな色合いを持つ洋風の内装で、

一見すると喫茶店のようにも見える。


『カランカラン』


扉を開けた時の音もまさに。


「空いている席へどうぞー」


ちらほらと客はいるが、

席の種類は満遍なく座れそう。だ。

すみれさんが窓際の反対側、隅の方に座る。

私は向かい側に。


「はいメニュー」

「どうも…すみれさんはまた決まってるの?」

「うん」

「どれを食べるの?」

「お冷です」

「この…カニクリームコロッケつきのオムカレー」


オムカレーの写真にある付け合せの文字を指さした。

響きだけで美味しそうに感じる。


「とっても美味しそうね…私もこれにしようかしら」

「サイズどうする?」

「お腹も空いているし、Mサイズにしようかしら」

「女性基準だから、思ってるより少ないと思うよ?」


レディースという文字があったので、

そうなのだろうと思っていた。


「いえ、少食だからそれでいいの」

「ドリンクどする?」

「そうね…ちょっと子供っぽいかもしれないけれど、

アップルジュースで」

「気にしなくていいよ、お互い子供なんだし」


小さいフォローの一つ一つが助かる。


「ふふ…それもそうね、他に頼みたいものはないわ」

「りょうかーい、すいませーん!」

「ご注文お決まりでしょうか?」

「カニクリームコロッケのオムカレー二つ」

「かしこまりました」


店員さんが下がり、

残った客も帰って二人だけとなる。


「そういえば、

晩御飯用意してないって連絡先来なかったの?」

「連絡先交換してなかったの」

「うーん、なるほど」

「でもね、つい先程、交換したの」

「え、そうなんだ。

メッセージアプリとか

入れてなさそうな感じだけど、

まあ現代社会でそんな人早々いないか…」

「そう!それがね、

ガラパゴスケータイを出してきたの?」

「え?それってあの…パカッて開くやつ?」

「そうなのよ」

「ちょっ…とそれは想定以上だなあ…」


さすがのすみれさんも

フォロー無しで絶句していた。


「それでメールアドレスを交換したの。

人の連絡先を入れるやり方がわからなくて、

写真だけ撮ったわ」

「私がやろうか?」

「いいの?」

「うん」


私のスマホで母の連絡先を入力し始めた。

何か見られてまずいものが

写っていないといいけど。


「霊美ちゃん」

「どうかしたの?」

「特にそういうわけでもないんだけど、

待ち受けが元々の画像だなって」

「ええ、特に変えたいものが思い浮かばなくって」

「なら…今撮る?」

「えっと…料理とか?」

「それもいいけど…よいしょ」


すみれさんが上体を起こした。

私もそうする。


「よし、もうちょっと体寄せて」

「え、ええ」


ほとんど顔が密着するほどの距離。


「カメラ見て」

「は、はい」


いつの間にか、写真を撮る体勢。


「ハイ、チーズ」

『パシャ』

「もう一枚撮るよー、目瞑って」

「ん」

『んむ』

「!?」

『パシャ』

「す、すみれさん!?」

「うん、よく撮れてる。はいどうぞ」

「ど、どうも。ってそうじゃなくて」

「どっち待ち受けにしてもいいよ。

あとメールアドレスは登録しといたから」

「…もう」


時折、そのあざとさを利用して

ひどく強引になることがある。

そしてそれを少し期待している自分がいる。

これがバレたら、

さらにすごいことをしだすかもしれない。

まだ、まだ早い。



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