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ショッピングモールで普通にキス



目指したお店は、

どうやらぬいぐるみ専門店だったようだ。


「わぁ〜」


先程よりも目を輝かせて、店を見て回っている。

正直クオリティがめちゃくちゃ高いので、

私も欲しいくらいだ。

ただ値段が…。


「お金っていくら貰ったの?」

「ええっと確か…」


二つの封筒を覗いた。


「十五万円ね」

「じゅっ…!?」


思わず復唱するのを避けた。

店中の視線が集まった気さえした。


「あんまり大きな声では言えないね…」

「そうなの?」


無垢だなぁ。


「これ…どうかしら」


気にせずぬいぐるみを吟味していたらしい。


「すみれさんの家の…に似てるわ」

「チップのこと?」

「ええ」


チップはサモエドで、

このぬいぐるみはどちらかというと

チャウチャウなんだけど、

まあ細かいことはいっか。

値段は7000円とこの店では平均的な値段。


「どうかしら?」

「いいんじゃない?」

「買うわ!」


私の一存を含めて買い物…危ないな。


「買ってきたわ」


本当に犬を抱えているように、

透明のラッピングがなされた

ぬいぐるみを持ってきた。


「ふふ…」

「早速堪能する?」

「堪能?」

「開けてモフモフする」

「いいわね、それ」


近くの二人がけのソファに座る。


『ガサガサ』

『モフッ』

「おおう…」


両手で心ゆくままにモフモフしている。


「ん…」

『モフ』


ぬいぐるみにキスした。


「…!」


自分でも驚いている様子。


「い、いつもの癖で…」

「言ってたもんね。ね、私にも触らせて?」

「いいわよ、どうぞ」

『モフモフ』

『モフ』

「!」


目の前で、ぬいぐるみを通しての関節キス。

自分でやったのに、

恥ずかしくて笑みがこぼれてしまう。


「わ、私も!」

『モフ』

「もう一回!」

『モフ』


まずい。

この程度のことで興奮してきた。

霊美ちゃんにばれないようにと思ったが、

彼女の表情から読み取れる感情は、私と同じだった。

霊美ちゃんの手が私に伸びてくる。


『ギュ』


恋人繋ぎ。


「…ねえ」

「いや、まだ早い時間だし、

買いたいものもまだあると思うから…」

「…」

『ダッ』

「霊美ちゃん!?」


私を引っ張って走り出した。

行き着く先は…多目的トイレ。


『ガチャ』

『む』

「ん」


入るなりキス。

荷物も置かずに。

それにこの体勢は、いつぞやのがっつくやつ。

それほどに、興奮している。


『ちゅ』

『む』


若さゆえの蛮行か。

私たちは平気で、色々なものを置き去りにして、

際限なく貪り合う。

背徳感込みで、それが心底楽しい。



「ふぅ…」


一時間ほどしけこんでしまった。

人の往来で正気に戻らなければ、

もっと続けていたところだろう。


「ふふっ」


心做しか霊美ちゃんがつやつやしている。


「次はどこへ行こうかしら」

「ここ」

「ここは…」


化粧品売り場。


「霊美ちゃんそんなに数持ってないでしょ?

今のうちに調達しよ」

「でも、私には似合わないわ…」

「ん〜確かに霊美ちゃん美人だから

特になにかしなくてもいいのかなぁ〜」

「そ、そうじゃなくて」

「ふふ、分かってる。でもね霊美ちゃん、

社会人になると化粧って途端に義務になってくるし、

霊媒師としてもハクがつきそうじゃない?」

「それは…確かに」

「なら決定!」

「うう…」


嫌そうにはしているが、

ここを堪えて押すのが恋人としての役目。


「霊美ちゃんって何持ってる?」

「何も…申請されても却下されたわ」


あの母親のやりそうな事だ。


「だから、持っているのが分かったら

没収される可能性も…」

「そしたら私が預かっとくから」

「そう…」

「まずは化粧水からかなー」


相当刻み込まれている刷り込みを、

ほぐすきっかけにしたい。


「霊美ちゃん鏡持ってる?」

「手鏡なら」

「手鏡か…ドレッサーとはいかないまでも、

自立できるそこそこ大きな鏡も欲しいね」

「そうなの…かしら」

「うん」


色々取り揃えると、

今日で軽く五万は飛びそうだ。

霊美ちゃんだけに買わせる訳にもいかないし、

私も万は覚悟しなきゃな。


「あ、このブランド私が使ってるやつだよ、

迷っててこれに落ち着いた」

「なら、それにしようかしら」

「いいの?」

「分からないから、

とりあえず最初に試すものなら

すみれさんが使っているものがいいと思って」

「そっ…か」


おそろいだ。


「あっこれも」

「それも」

「じゃあこれも」

「じゃあそれも」


まずい。

無知な霊美ちゃんが、

私の使ってる化粧品に塗れてしまう。


「あ、店員さん」

「はい、どうされました?」

「この子に合いそうな化粧品全般、お願いします」

「でしたら…お持ちになられている商品が、

無難だと思いますよ」

「そう…ですか」


なんだかドキドキしてきた。

無知な霊美ちゃんに、私個人の情報を教え込む。

なんてことはないのに、

なんだかイケナイ気がしてくる。


「お会計する?」

「あ、うん!あ、待って私もちょっと買う」


なくなりかけていた化粧水を買う。


「おっけ」

「行きましょう」

「うん」

「合計で二万八千五百円になりまーす」

「…結構するわね」

「ほんとにね」

「女子高生がよくバイトをするのは、

このためだったのね」


それを女子高生が言うのは、少し面白い。


「あ、今更だけど、お金取っときたいとか、

後で沢山使う予定とかない?」

「基本的にないわね…本を買ったりするくらい」

「ならよかった…。よし、服見に行こう」

「服は…持ってるわよ?」

「いい霊美ちゃん、

JKは買う予定がなくても服を見に行くの」

「ふふ…なるほど」

「じゃ行こっか」


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